第103話 到着

 白に世界を奪われた。


 目の前にあったアサガさんたちや校庭の景色は吸い込まれるみたいに収縮し、後には白一色に塗り潰される。

 最初のうちはどこに目を向ければいいのかと迷いもしたけど、次第にもやもやとした感覚が視界に生まれたので瞑ることにした。

 今まで足に着いていた地面の感覚はなくなっている。自分で飛ぶのとは違う浮遊感は変な気持ちだ。

 

 何もない。

 この場所は何もない。


 シズクとなる前のあの場所を思い出す。しかし、あの時とはまったくと違う。

 黒に溶け込むよりも白に塗り潰された方が精神的に楽であり、今の僕にはあの時には無かった身体をしっかりと感じ取っているのだ。


 両腕で自分の肩を抱き締める。ひらりとスカートを揺らしながら膝を曲げる。身体を屈めて丸くなる。爪先で革靴ローファーの中底を軽く掻いた。

 丸くなりながらサイトウさんに渡された銀色の拳銃を握り締める。人差し指で引き金を撫でながら、撃鉄のを親指で弄った。


 音のない世界では自分の奏でる音が嫌になるほど聞こえてくる。

 動かした肢体の軋み。服の衣擦れ。舌の上に溜まった涎の流動すら聞こえるかのよう。ごくりと飲み込み喉が鳴る。

 中でも1番大きいのは胸の鼓動だった。脈は速く、耳の内側から圧迫するかのように鼓動は僕の中でゆっくりと深く、高く、叩き付ける。

 自分の呼吸が耳に届く。鼻穴の吸い込む音。唇を震わせて一呼吸。小さく噴き出す。

 長く息を吸って、深くゆっくりと吐き出す……呼吸するだけの存在となりかける。若干の動揺。

 意識すればするほど呼吸は荒く鳴るかのように音を強めた。


『シズク、大丈夫?』

『…………あ……うん、大丈夫』


 僕の中でリコに心配される。リコの言葉は遠くに行きかけていた僕を呼び戻してくれた。

 でも。


(……返事はしたものの全然大丈夫じゃない)


 実のところ、悪い方向でかなり緊張していた。

 今から自分がどこに向かうのかを理解し、気持ちが深く沈んでいくの感じてしまう。

 決心したことなのに。形は違えど今まで何度も行ってきたことなのに。当然だったことなのに。


「当然? ははっ、この状態で何を……」

『シズク? どうした? 当然ってなにが?』

「ううん、リコ。なんでもないよ」


 かぶりを振る。

 何を恐れる必要がある。いつも通りだ。そうだ。変な方に考えるな。僕はいつも通りにこなせばいい。


を思い出せ)


 ギルドで手配書を見て、現場に赴いて指定された対象の討伐、狩猟、回収、もしくは護衛。

 その工程で危険なことには何度もあってきたじゃないか。

 今回だって大丈夫。何の問題もない。それどころかいつも以上に簡単だ。

 現地に行くまでの道のりをショートカットして、いきなり対象と戦うだけ。相手も今まで戦ってきた中でも群を抜いてデカくて、格別に硬いだけ。巨体なだけあってきっとノロマな亀だ。

 ――と、良い方向へと考えようと、思い込もうとする。

 いつまでも。


(………………遅い)


 あれやこれやと考えては、僕は到着するその時を待った。

 足が地面に付かない。音は僕だけしかない。この場所に来てどれくらい時間がかかっているんだろうか。


(もうどれだけここにいるんだろう?)


 今さっき来たばかりのような気もするし、もう何十分もここにいるかのような気もする。幸いなことは、まだ何時間とは何十時間といった程の時間の流れは感じ取っていないことだけど。


(もしかして、失敗したの?)


 そんなはずはない。きっと僕が思った以上に時間がゆっくりと流れているだけだ、と思いたい。

 不安に駆られ、恐る恐る目を開けると――そこには白い少女が間近で僕の顔を楽しそうに眺めていた。


「わっ!?」

「あら、起きてたのね。てっきり寝ているのかと?」 

「寝てるわけないよ!」


 慌ててのけ反ろうとしても顎を引くだけ、手足をばたつかせるだけでまったくと白い少女から離れることは出来なかった。

 逃げる僕を逃さないとばかりに無機質で小さな手が僕の頬をなぞる。くすぐったくて、ちょっと身を捩った。

 ……あれ? 何か変だ。

 白い少女がこんな至近距離にいるに威圧感を感じない。あの嫌な空気が流れていない。

 

「きみ……あの子なの?」

「少し違いますわ。ワタクシは欠片。貴方の中に潜む欠片」

「欠片?」

「ええ、ワタクシの本体……ま、は今もあの学園に囚われたまま。この世界に来て1度たりともワタクシは学園の敷地内から出ていません。そうね。貴方を学園へと誘ったのは欠片であるワタクシよ」


 白い少女が言うには、昨日僕に触れてからずっと欠片を埋め込んでいたと言う。

 欠片が入ったなんて全く気が付かなかった……。


『リコ気が付いてた?』

『何が? シズク1人で何を話している?』

『え、白い少女とだけど……リコ見えてないの?』

『白い少女っ!? どこっ!?』


 リコには見えてないの?

 頭の中でどこだどこだと声を荒げているリコに『目の前だよ』といっても真っ白でしかないと言う。

 僕にしか見えていない? なら幻覚? って、今も好き放題に撫でられる無機質な指の感触は、気持ち悪いほどに彼女の存在を確かにする。


「ワタクシは貴方の緊張をほぐしに来たの。このまま行っても貴方……死ぬだけよ?」

「僕が……死ぬ?」

「正確には死ぬ可能性が高い。……やはやり、恐怖心なんていらないじゃない。今の貴方にご自分の顔を見せてあげたい。真っ青よ? こんなにも怯えて可哀想に……」


 白い少女は僕の頭を抱え込み自分の胸に抱き寄せた。こつんと彼女の胸板にぶつかった額は彼女の服の感触を感じるのにやっぱり温度といった人の温かみは無い。

 抱え込んだまま乱雑に僕の髪を撫でる……けど、嫌じゃなかった。心地よくすら感じてしまう。

 昨日のことがあったとはいえ、白い少女の優しい愛撫にほっと心を宥めている僕がいることになんだか釈然としない。


「僕は、死なない。死ぬために来たんじゃない。君が言ったんだ。僕は、僕がやれることをする。そして全部終わらせるんだ。それで、この騒動を止めてユウコさんをトオルさんを……それに、それにレティ――」

「焦らないで」


 僕の唇に指を置いて止めさせる。

 

「焦りは死を招く。ね、落ち着きなさい」

「別に焦ってなんて……」


 否定してみたものの、実のところ僕は焦っていたのかもしれない。

 そのため、口から出た言葉は途切れそのまま黙る。少女は満足げに笑みを浮かべた。


「いい? シズク。これは好機よ。間借りしているとはいえ、取り戻してしまった恐怖を今回の騒動で乗り越えなさい。これは貴方への試練。恐怖なんて情けないものは振り払いなさい。貴方はこの先、これ以上のものと向き合わなければならないのだから」


 そう言い切ると、白い少女は僕の胸に手を当てた。

 小さな手。まるで赤ん坊みたい――なんて思ったのも束の間のこと。

 彼女の手が僕の服をすり抜けた。 

 驚く間も無く小さな手が僕の胸の奥へと突き進んでいく。胸の中に異物が侵入した感触があるが痛みは無い。


「何……手が……?」

「これはちょっとした手助けよ。レティにも行ったことだから安心して。ものにすることが出来ればきっと貴方の力となるわ」


 彼女の手が僕の中で開かれる。

 胸の奥で彼女の手とは別の何かが芽生え、何かが置かれる。その何かを残して彼女の手は音もなく抜きとられる。

 後に残った何かは“熱”だった。

 差し込まれた胸を触る。中に込められた熱が自分の鼓動とは別に何度も鐘を鳴らした。不思議な気分だけど、悪くは無い。


「では、期待していますね」


 微笑みを残して白い少女が煙のように消えた。

 後には僕だけが残る。白い少女はどこだと怒り気味のリコの声が頭の中で響いた。

 どう答えていいかと悩んでいるうちに、白い世界の中心から光が広がっていった。





 ふわりと舞っていた髪が落ちる。着ていた服が水を吸ったのかと一瞬錯覚してしまう。かつん、と靴底が音を鳴らした。

 飛沫の混じった冷たい海風が頬を叩き付け、目を開けた。


「――おわっ!?」


 不意の揺れに体勢を崩し、勢いよく尻もちを付く。

 流れから左手で受け身を取ろうとしても、ぬめった床に手までも滑らせてこてんと仰向けに倒れた。

 視界には真っ白な絨毯が空を覆っていた。後はいくつかの紙飛行機と紫色に光るカードに、鳥。


 吹き続ける海風に、足元でばたつかせる何かが逃げたい逃げたいと訴えてきた。踵を上げると、今まで踏んでいた紙切れが空高く跳んでいった。沢山の線と文字が描かれた、いくつかの折り目の付いた紙だ。

 あれは、アサガさんがいつも書いていた魔法陣……の半分だけ。

 見覚えのある模様だったけど確認する間もなく空を飛んでいった。

 けれど、飛んでいった紙が魔法陣の片割れだと確信を得たのは、もう半分は僕のお尻の下に敷かれていることに気が付いたからだった。これも同じように無数の折り目がついたもので、真ん中半分で裂けている。


「もしかして、今ので破いちゃったのかな?」


 心の中でごめんと謝っておくことにした。


「ここは、船の上……? ちゃんと着けたんだ」


 僕は戦艦の後方付近の甲板にたどり着いた様だ。巨大な主砲2門と船の顔とも呼べる艦橋が重なって見える。

 艦の上は自身の揺れと、砲撃の微震で忙しなく視線が動いた。

 上向きの高角砲は空を羽ばたく“鳥”に向けて等間隔で射出し続けている。


「レティ!」


 レティが敵に狙われていると言う状況に心が張り裂けそうになる。

 今すぐにでもレティを狙う機銃を止めたくて仕方ない。『だけど、シズク』と僕の中で制止がかかる。


(駄目だ。焦るな。白い少女に言われた通りだ。焦らずことに移れ)


 だけど。


 ――ここまで来てしまったのに何を行えばいいかわからない。


 1分1秒が惜しいこの状況。船を壊せばいいだけなのに、どこから? なんて考えている僕がいる。

 落ち着け落ち着けと僕の中で精一杯に言葉足らずなエールを送ってくれる。


(落ち着け……そうだ。まず1つ1つこなしていくんだ)


 まずはサイトウさんに言われた通り、空に飛んでいる無数のカードに向かって銃を構える。

 カードはその場に固定されているわけではなく、船に合わせて低速にふらふらと漂いながらも移動しているものだ。あれに向かって銃を撃つ?

 いつも使用している魔法なら兎も角、今さっき渡されたばかりの拳銃で当てられるとは到底思えなかった。けれど、今は藁にも縋る思いだ。

 これは攻撃ではなく始まりの合図。この銃の引き金が僕の中での行動の開始としよう。

 当たればいいな、これが外れたらすぐに機銃へと魔法をぶっ放そうと考えつつも、引き金にかけた指に力を入れる――っ!?


「いたっ」


 引き金を引くと同時に、ひっくり返って甲板に頭をぶつけた……驚いた。

 拳銃は“パン!”とか“ドン!”といった発砲音が聞こえると思っていた。けど違う。

 音で言えば“カチ”という金属同士で叩いた音と“ぴゅう”と空気が引き裂かれる音が聞こえただけだった。

 その後、僕は大きく後ろへと吹き飛ばされた。ただ、僕が倒れた理由は銃の反動ではなく、銃から放出された強風が原因だった。

 甲板に頭をぶつけた痛みと、拳銃から発生した予想もしない強風に目を細めながらも頭を上げて目標を見る。


「え……」


 ぽかんと口を開けてしまう。

 狙いをつけていたカードが宙で四散してひらひらと舞っていた。当たったのか。

 運が良かった? まさか?

 運が良かったんじゃないことを知ったのは直ぐのこと。

 空に光り輝く閃光がものすごい速度で飛び回っていた。

 まるで意志があるみたいに閃光は曲線を描いて無数に飛んでいるカードを次へ次へと打ち抜いていく。あれが今撃った弾丸なのだろうか。撃った右手の平がじんじんと痺れる。

 空に浮かぶカードの半分以上が撃ち抜かれ紫の光を失い四散した。


「サイトウさん……これすごい。こんなの持ってたなんて……って、そんな驚いてるの暇なんて無い」


 僕は直ぐに立ち上がり銃を強く握りしめて次の行動に移す。

 僕はレティを狙う高射砲へと銃を構え一呼吸開けてから引き金を引く。

 先と同じように暴風が僕へと吹きかけるが、今度は吹き飛ばされない様に踏ん張る。

 はっきりと見た。やはり同じように閃光が拳銃から吐き出され、僕が狙った機銃へと走っていく。


 光は標的を射抜くだけではなく僕の意志を酌んでくれるかのように、次々とレティを狙っていた高射砲を撃ち抜いてくれた。

 空を狙う機銃は無い。これで一先ずはレティへの危害は無いだろう。

 ふう、と息を吐いて安堵するのも、まだ序の口でしかない。


 次はアヤカ区を狙う主砲を止めなければならない。

 今も巨大な主砲はアヤカ区へと向いていて、時間を置いて順番ごとに砲撃を行っている。


「これを止めないと……でも、デカいよ」


 2つ並んだ砲身は土管みたいに大きい。僕の身体なら入っちゃうんじゃないだろうか。

 さらに巨大砲身を支え操作する砲塔は砲身以上に、大型倉庫みたいに馬鹿でかい。これを壊す……僕に、いやこの拳銃がだけど……出来るのだろうか。

 いいや、考えても仕方ない。


 銀色の拳銃を下方に配置された砲塔へと向け、僕はまた引き金を引いた。あの弾丸なら貫通して内部を壊してくれると思って――予想は違うものになった。

 強風に身構えていたら今度は熱い熱が吐き出され、僕の手を一瞬にして炙ってしまう。


「熱っ!」


 と、口にして右手を振って飛び跳ねたところで、


「おわっ!」


 と、声を上げて驚いた。

 巨大な音を上げ、狙った砲塔の装甲が弾け飛んだのだ。爆発と言ってもいい。

 貫通はしなかったけれども、着弾した砲塔の後方がごっそりとえぐられている。


「すごい……今度は違う弾だ……」


 まるでバズーカ砲だ。熱で痛む手を癒しながらもじっくりと拳銃を眺めてしまう。

 おもむろに銃身に触れると、ピリッとした静電気に似た痺れと発した弾丸の残り香みたいな熱が残っていた。

 意志があるみたいに空中を飛び交う弾丸だけかと思えば、強火力の爆発し粉々にする弾丸。

 他にもまだ別の弾が入っているのだろうか。


「話す時間くらいあったんだから説明してくれればよかったのに」


 サイトウさんも人が悪い。渡された時は何かしらの力が込められているのはわかったけどここまでのものだとは思いもしなかった。

 引き金を引くたびに僅かに魔力を吸い取られるのを感じた。サイトウさんのバイクを運転したみたいに僕の魔力を利用しているものだろうか。

 バイクと比べると一個人が持つには物騒過ぎる品物だ。


「一体サイトウさんはどうしてこんなものを……っ……あれっ?」


 自分が今持つ武器の威力に気を取られていると、ふいに違和感を感じ取った。

 音が止んでいる。

 微震が止んでいる。

 砲撃が止んでいる。

 戦艦の動きが全て止まっている。


「今の一撃が急所にでも当たって機能停止させられた……なんてそんな馬鹿な――いぃっ!?」


 1歩、足を踏み出したところで、くるりと船上に点在する機銃が僕へと銃身を向けてきた。

 嫌な汗が瞬時に浮かぶ。


(やばい、逃げ――!)


 危険信号が点灯した時、僕は雷の瞬動魔法で直ぐに退避しようとする――が、甲板のぬめりに足を滑らせる。

 馬鹿だ。もう2度も転んでいるのに自分の迂闊さに罵声を上げたくなった。

 顔を上げた時には遅すぎた。

 

(間に合わないっ!)


 ぎゅっと目を瞑って身構えた……その時、ポケットから飛び出してきた無数のお札が僕の周りに展開する。

 機銃が一斉に発砲。着弾。鈍い音とともに僕の目の前で複数の音が重なり合った……痛くない。


「あれ……どうして?」

『グッド!』


 その声を耳にして目を開けると、そこには可視光の壁が僕を包み込んでいた。


「あ、アサガさん?」

『シズク君、大丈夫か!』 


 声の元をたどればポケットに入れていたお札からだ。取り出したお札に書かれた文字の点滅に合わせてアサガさんの声が届く。

 そういえば、通話できると言われたことを思いだす。


『やっと連絡が取れた。何度も呼びかけをしていたんだが一向に連絡が取れなくて困っていたよ……間一髪だったな。だと、無事に辿り着いたようでよかったよ』

「見る? アサガさん僕が見えているの?」

『ああ――』


 アサガさんたちは現在、校庭で水魔法を使った画面を作り出して僕たちのことを見ているそうだ。

 空に浮かぶいくつもの紙飛行機のうち、いくつかがその身を展開し、発光する文字をこちらへと向けている。この紙によって僕らを映像として学園の校庭へと中継されているらしい。

 今まで僕の姿を探していたけど見つからず、主砲が爆発したことで付近を捜索したら僕を見つけられたんだって。

 今砲弾から防いでくれたのもアサガさんが渡してくれたお札のおかげみたいだ。

 お札は記号と魔法文字を発光させて僕の周りを漂っている。

 ちゃんと機能を果たしてくれて本当に良かった、と札越しからアサガさんの安堵の声が聞こえた。

 またアサガさんの声の奥から、あの場にいた生徒による歓声も聞こえる。サイトウさんの声も聞こえる。


「そうだったんですか……あ?」

『どうしたシズク君?』


 アサガさんたちの会話に気を取られてしまった。

 前々から残っていたカードが主砲の砲塔に群がり紫電を発する。

 そして、破壊した部分から吐き出していた黒煙は急速に収まり、露出した内部が見え、次に損傷した個所が見る見るうち復元していくんだ。壊した外壁も少しずつだど塞がっていく。


「どうしよう……カードが主砲を直そうとしてる。あのカードっていったい何なんですか? それに、あれ? 減っていたカードが元に戻ったような?」

『……わかった。大まかな説明するがあのカードは修復機能を持っているものだ。しかし、シズク君はカードのことはもう気にしないでくれ。こちらで対処する。――よし、今度は自分たちの番だ。皆、手筈通り頼む』

『『『――はい!』』』


 アサガさんの声の奥から大勢の人の返事が聞こえてきた。そして、無数のアクセスという掛け声が続く。

 空を飛ぶ無数の紙飛行機がその身を開き、宙に浮かんだまま光り輝く文字を書き込まれた四方の紙があちらこちらと飛んでいたカードに覆いかぶさり、包み込む。

 紙飛行機に包まれたカードはこてんと落ちた。そのまま海に落ちたり、甲板の上に落ちて何度も何度も暴れまわった。


『カードの方は我々に任せて、シズク君は船の破壊を頼む。くれぐれも無茶の無い様に』

「了解です!」


 僕は返事をして船の上を走り始めた――未だ自身でも忘れかけていた不安を抱えながら。



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