第83話 身体検査
12月8日。金曜日。
僕がこの学園に来てから1週間が経った。
「う、動くなよ。ちっくとするからな」
「……んん……っ」
引き攣った笑みを浮かべてワタリさんが僕の腕に細い注射針を射す。今度は成功したようだ。
僕の皮膚の奥へと刺さった針から血液がゆっくりと引き出されていく。
なんで人の血って一滴なら赤いのに、まとまるとどす黒くなっちゃうんだろう。いやはや、自分の血なんてそうそう見たくもないよね……なんて考えていると、ついこの前、全身からぴゅーぴゅー血を噴き出していたことを思い出す。
学園は期末考査が始まり、生徒たちが答案用紙に向かってうんうんと唸る傍らで僕らの出番はない。
試験自体は前々から聞かされていたとはいえ、することが見当たらず暇つぶしに寮の談話室で漫画を読んでいたら、アサガさんから1つ頼まれ事を受けた。
病院に行って検査を受けてほしいとのこと。
最初は「……別に身体に異常はないんだけど」と、やることがないとしてもお医者さんという言葉は僕を拒ませるには十分だった。
誰だって好き好んで病院には行きたい人なんていないと思う。でも、同じく漫画を読んでいたレティ(僕の背中を背もたれにして)もこっちに来てすぐに受けたと言う。
うーん、レティも受けたんだ。なら仕方ないか……。
後押しとばかりに「検査と考えず、健康診断と思ってくれればいい」とアサガさんも言うので渋々承諾をすることにした。
ちなみに意識が無かったときの僕の身体を使っていたリコはというと――血を採るって聞いたら逃げ出しちゃったそうで……仕方ないからって後回しにしていた分が僕に回ってきたという。
(恨むよ、リコ……)
恨めしそうに目を向けてもリコはブラウン管のテレビに夢中でこっちのことなんて気が付いていない。いいや、あれは気づいていないフリか。
それが昨晩の話。
学生たちが頭を抱えている時間に、僕は別の意味で頭を重くしながら学園が運営をしているこのアヤカ区に唯一存在する病院へと赴いていた。
病院と聞いて僕の中ではビルみたいに何階もある立派なもの……ドラマの中に出てくるような大学病院のようなものを想像していたんだけど、実際はもっと小さかった。
スーパーマーケットくらいの規模かな。見た目は凄い綺麗なんだけどね。
また、建物の中はおじいさんやおばあさんがごった返しているって印象を持っていたけど、ここの病院は比較的若い人を見かける。
言って学生というか子供とかじゃなくて、主に中年代の方々だ。
僕が想像していた人たちよりはずっと若い。
理由として、このアヤカ区に住むお年寄りが極端にいないこと。
この病院はニホンの病院としては扱われず、保険の対象外(でも、学園所属の生徒や卒業生なんか程度はあれど無料に近い金額で済むとか)で割高なこと。
区外の人はフェリーかアクアライン経由での車両での通院になっちゃうこと。
「……だからかな」なんて偶然待ち時間中に知り合った妊婦さんから教えてもらった。
検尿、採血、レントゲンにCT検査、超音波検査。
待ち時間を含めて2時間ほどかかった。待ってばかりで少し疲れた気がする。
最後に案内されて向かった先は記憶に残る診察室ではなく、会議室に近いこじんまりとした部屋だった。部屋間違えたかな……って、一度部屋の外に出て確認を取る。
(第二会議室って書いてある)
「どうした? ここであってるぞ。ほら、さっさと入れ」
とん、とワタリさんに背中を押されて僕は二の足を踏みながら部屋の中へと押し込まれた。
本当にここで良いの?
心配そうに振り返るも、変わらずキリっと表情を引き締めたままワタリさんは呆然と立ち止まっていた僕を追い越して、適当に長机に仕舞われていたパイプ椅子を音を立てて引き出し長い足を組んで座りだした。
今回、僕の検査に付き合ってくれたのはワタリ・シオミさん。
眼鏡を掛けた細身で高身長のお姉さんだ。
ショートボブの黒髪とハスキーボイスで奏でられるガサツな口調、ユニセックスな服装からボーイッシュでとってもカッコいい人だ。
彼女とはアサガさん越しに学園にいる時に紹介された。
普段は第三分校の保険医として常勤している。医療に関わる資格なんぞは1つとして持ってないなんて薄い胸を張ってまで言われたけど……。
ワタリさんはもう1つパイプ椅子を、向かい合うように配置し僕に座る様に促した。
「んー……見た感じは普通の人と大差ないね。君もあのフルオリフィアさんも異世界から来たんだろう? なんでも魔族っていう人間とは違う人種って話だ」
「ええ。そうです」
「――で、元は普通の人間だったと」
「……はい」
「生まれ変わり、転生とでもいうべきか。不思議なもんだなぁ……漫画の世界だ」
こっちも僕にとっては漫画の世界だったんだけどね。
僕とレティはこの世界とはちょっと変わった存在だと言う。
そういう存在故に、今回の検査は特別に彼女が僕ら2人の診断を見ている。ここの病院に勤務する医師も看護師も誰1人として携わらせず、全て単独で彼女が僕の身体を調べていった。
(でもさ……)
検尿を提出する時は紙コップの中身をまじまじと見られて恥かしかったし、採血は3回ほど射し直されたし、レントゲンやCT検査はまだいいけど、超音波検査は冷たいジェルを身体にべったりと塗られてくすぐったくて悶えていると「なんだ、興奮しているのか」なんて、別にしてないし!
精神的な疲労をたっぷりと貯めた僕の検査内容が書かれている診断書を見て、ワタリさんは深く頷いた。
「じゃあ、触診だ。ちょっとくすぐったいかもしれないが我慢だぞ」
「う、はい」
「上着を脱いでもらってもいいか? それと、ズボンにベルトとかボタンとか締め付けているものがあれば今だけ外してくれ」
捲るだけでいいんじゃ……とはもしもその場に流されていなければの話。
僕はワタリさんの言われるままに指示に従い、上だけ脱いで隣の長机の上に置きズボンを緩めて、お腹を前に出す。だけど、ワタリさんは首を振ると僕にもっと近寄れと言う。
僕は立ち上がってワタリさんに近づいた。おなかに吐息が触れるかどうかという距離で、ちょっと恥ずかしいなって思いながらもワタリさんの表情は真剣なもの。
我慢してワタリさんの触診に耐える他にない。
ワタリさんの指が僕に振れる。
最初に首を両手で握られてそのまま肩甲骨から肩、腕、両手の指に先端の爪まで。
戻って手の平で胸を覆い脇腹を通り背中は骨をなぞる様に。
次に背骨のあたりから下へと落ちてまた前に戻っておなかを何度か親指で力を入れて押し込まれる。
下に落ちてはお尻は肉を持ち上げられて付け根からふともも、片足を上げろと言われて上げた足の膝は2度叩き、ふくらはぎから脛を強く押される。
脱げと言われて靴と靴下を脱いで、足首を回されくるぶしから踵、土踏まずを経由し足の指と足の爪を触って終わり。
「顔を触るぞ」
「はい」
そう言うと彼女は僕の頬や目元、眉など顔の部位全てを弱い力で押していく。
先に断られてから綿棒のようなもので鼻と耳に入れ、同じくペンライトで光を当てて中を覗き込む。
最初はこそばゆいかと身構えたけど、その手つきには強弱が備わっていて優しいマッサージを受けているようにも感じた。
「やっぱりないか……一応、君にも聞くが、眉は整えてたりするのか?」
「え? いえ、一度もそういうことはしてませんが……」
「ふむ……そうか」
次に僕の胸に聴診器を当てていく。
息は止めずに、と言われると変に意識していつもよりチグハグな呼吸をしちゃうのは僕だけかな。
「骨格、鼓動……よし。また立ち上がって両手を上げてもらってもいいか?」
「はい」
また言われるままに僕は両手を直線に伸ばし――すとん………………と、急に下が涼しくなった。
僕が履いていたズボンが落ちたのだ。
落ちた? いいや、違う。
ワタリさんが僕のズボンを下に降ろしたんだ。しかも、下着まで。つまり、僕は今下は何もない訳で、ワタリさんは露出した僕の下部をじーっと凝視しているのだ。
「ちょ、ちょっと!」
「性器の形は一般男子と同じだな。陰毛は生えてない、と」
わああああっ!! 何を言ってるのこの人は!
即座にしゃがんで前を隠す。
「何するんですか!」
「何って視診だ。んーんー……フルオリフィアさんも生えてなかったし、そちらの世界では成長が遅いのか……」
え、レティも生えてないの……ってそれは気になるけど今は置いておいて!
「せめて一言くらいあっても!」
降ろすぞって言われて僕が首を縦に振るかって言ったら違うけどさ!
だけど、ワタリさんは僕の言葉に耳を傾けようともせず診断書にペンを走らせていく。
「……妙だな。2人は髪、眉、睫毛と人の目に付く箇所以外体毛が確認できない。産毛すら皆無……これがそっちの世界では当然なのか?」
僕の抗議はぼそぼそと独り言を呟く彼女の耳に入らない。
……もう、と悪態を吐きながらまるで隠れるようにしてズボンをいそいそと穿き直す。どこか穴に埋まってこの身を隠してしまいたい気分だ。
座り直すも自分のあそこを近距離で目視されたという羞恥心に、僕はワタリさんの顔をうまく見ることは出来ない。目が合うと視線を逸らしてしまう。
――けど、次のワタリさんの言葉に僕はぎょっとしながらワタリさんを見る他にない。
「自慰はできるか?」
「は? じい?」
今、え、何を言った?
聞き間違え?
「あの……それはどういう?」
「ああ、言葉がわからないか。では、マスターベーションならどうだ? 他にも、手淫、いや、オナニーが一番伝わりやすいか。それとも、センズ――」
「い、いえ! 違くて! わかります! わかりますけど!」
いきなり突然何を言いだすんだこの人は!
ワタリさんは顔色1つ変えることなくそれらの単語を口にした。しかも、何かを掴んでいるかのように握った手を上下に動かして……いやいや! そういうことを発言するのは慮って欲しい!
でも、ふざけているんじゃない。
笑み1つないその表情からはこちらをからかっている様子はまったくと無かった。手の動きはどうかと思うけど。
「で、どうなんだ?」
「……いえ、わかりません。出来ると思いますが……試したことはありません」
「無い? 無いってもしかして、そういうことに興味がない……いや、女性に興味がないとか?」
「いえ、そんなことはありませんけど……」
「なんだい。もしかして、まだ精通前か?」
「……それも自分ではわかりません。もう一度言いますが、試したことが無いので」
「うーん。じゃあ、今じゃなくて昔……その身体になる前の時は?」
なる前って……そりゃあ。
「…………ま、まあ――……人並みには」
「人並みに、ねえ」
人並みって言ったって誰と比べてとかそういうのはわからないけど。普通の一般男子としてはそれくらいはやってるでしょう。
でも、この身体になってから、僕はそういうことは一度としてやる暇は無かった。
健全な男の子だからムラムラとしたことは数えきれないほどあったけど、いつも隣にはルイがいたし。近くには察しの良いイルノートもいたし。匂いに敏感なリコもいたしね。
そういうことを含めて実のところは敬遠していたってことが正しい。よく続いたよ。やる暇も機会も無いとはいえ。
(というか、出るの?)
自分で気が付かなかっただけかもしれないけど、下着の中が汚れていたとかそういうこともなかった。
この身体になってから一度も試したことが無かったから果たして……。
「んー……勃起はするんだよな? 言っておくが勃起とは――」
「し、します! しますから!」
ワタリさんの言葉を遮って僕は早口で答えるしかない。
なんだか嫌な予感がしたんだ。もしもここで適当にはぐらかしたら「じゃあ、ちょっと試してみようか」なんてことにもなりかね――
「一応、試してみるか」
「いいですから!」
何を試すと言うんだ。どう試すと言うのだ。女医さんとの秘密のカウンセリングですか。それは是非とも受けたいもの――って違う! まったく! 健全な男子をからかわないでほしい。
それに僕は正常だ。……うん、朝は辛いんだ。ルイとリコはわかってないけど、イルノートは遠からず察してくれたと思う。何も言わないでくれるのは男同士だからだと思う。
温泉の時にもリウリアさんに抱き付かれて反応しちゃったこともある。さらにその後もレティに見られて恥かしかった……。
(あの時のこと、レティ覚えてないよね……)
なるほどなるほど、と口にしながら診断書へと書き込んでいく。それ、書き込む必要あるの?
出来れば、精液を採取したかったとか言ってたけど……うう。それはそれでどこでどうしてナニするのだろうか。
そんなのトイレの個室に籠って1人コップに向かって吐き出せって言わないで!
「言っておくが、その場合私が手伝うとか甘い期待はするなよ。1人で――」
「もういいですから! 一体、この検査何なんですか!?」
しびれを切らし、顔を真っ赤にして抗議をするもワタリさんは涼しい顔。
はあ、と溜息をついて僕を見る。溜息をつきたいのは僕の方なのに。
「……ん、君ら2人は公にはなってはいないが貴重な地球外生命体だぞ。それこそ未知との遭遇。そういう場合、やることは決まっていると思わないか?」
え、ワタリさんに僕たちは宇宙人か何かに見られてたってこと?
……なんてことは言わないけど、その言葉を聞いて今まで興奮していたものがすーっと喉元を通り過ぎるみたいに静まる。
多分、ワタリさんは他意も無くその言葉を口にしたんだろう。
でも、何故か僕にとってワタリさんのその発言を聞いて気を落としてしまう。
(どんなに自分が住んでいた場所と似た世界でも、僕はこの世界では余所者なんだ)
……なんて、考え過ぎだよね。
苦笑し、ながら肯定とも否定とも取れない返事をしておくに留めておく。
「……そうですか。もうどうとでもしてください……」
「言い心構えだ。感心だぞ」
「ちなみに、レティ……フルオリフィアの身体は耳以外で変わったところはありましたか?」
何気なく聞いたことだった。
それこそちょっとした小話程度のつもりだったんだ。性別を抜きにした、天人族の身体と僕という魔人族の身体と、そして普通の人との違いくらいに。
「……」
だけど、ワタリさんは一瞬、間を空けたんだ。
言葉を発するまでの小さな間、ワタリさんは表情を変えないながらに小さく視線を斜めに移動させ、直ぐに僕を見たんだ。まるで隠し事は下手と言わんばかりに。
「――そう、だな。彼女、年齢の割に身体は成熟しているのにまだ月ものが来てないそうだ」
「月もの、ですか?」
「ああ、メンス。月経。生理。女の子の日。月一のもの」
「いえ、わかりますが……」
「なら聞くな」
言うなりまた診断書へと顔を伏せる。
一瞬のことだった。言葉を発する間のほんのわずかの間に、ワタリさんが動揺を見せた。診断書は僕の位置からは何を書いているかは見えないけど、先ほどまでの滑らかな手の動きが今は無い。
……とぼけている。そう感じた。
「何か隠してますか?」
「……あったとしても、私からは何も言えないよ。秘匿義務がある」
「生理は言えるのに?」
「……リップサービスだ」
その使い方間違ってる気がするけど……。
もしも聞きたければ本人から聞けばいい、とだけ言ってワタリさんはそれ以上は何も言ってはくれない。だけど、その言葉はつまり、肯定と取れるものだと言ってるようなものだった。
今の会話は無かったかのようにワタリさんは診察を続ける。
口の中を指で弄られ、唾液を取られ、眼球に光を当てて瞳孔を確認し、毛髪や爪を採取されたり……。
最後の方は雑談も無駄話も無く淡々と行われ、僕の診断は終わりを迎えることになった。
検査内容は後日2人へと送ると言われた。
「これで終わりだ。お疲れさん」
「はい、わかりました」
「……ちなみに、君がいた世界の人間……他種族いるらしいが、その……なんだ。誰でもいい。身体の中を見たことはあるか?」
身体の中?
「内臓だ」
「内臓……ね」
人の中身を見たことがあるか。
そう言われたら僕は、はい、と頷くほかにない。
……あの暑く太陽に照らされたテイルペア大陸に渡る前、僕たちの最初の出発地であるエストリズ大陸の山中で、女性の遺体として見たことがある。
「はい。人の死体を……魔物――いえ、野生の動物にでも食べ散らかされたのか、ぐちゃぐちゃとしたものでしたが……」
「そうか。それはきっと想像を絶する凄惨なものだっただろう……」
確かに、今も思い出したくない光景でもある。
その女性だったものは古い山小屋の中で見つけた。
腐敗した部位に群れる白い虫とか、辺りに散らばったぶよぶよとした肉片とか。
醜悪の一言だった。
異質な、生命とも呼べない気持ち悪い何かがそこにあった。
内臓というなら、魔物のものを何百と見てきたんだ。でも、僕が一番に思いついたのがその人のものだ。
お金を稼ぐために手にかけてきた魔物のものは何度と見てきたなのに、それが人だっていうだけで別のものに見え、記憶に深く根付いている。
出来れば思い出したくは……なかったなあ。
「……まあ。悪かった。その、検査の内容は、君にとって辛いものになるかもしれない」
「え、何か重い病気とか!?」
「いや、そういうのは今のところ見られていない。その話じゃないんだ。まだ、詳しい検査結果が出てないからな」
「……はあ。わかりました。じゃあ、2人に聞いてみます」
「ああ、気を付けてな。それと……その、えーっと……まあ、なんだ。あー……うん、アサガくんによろしく、伝えておいて」
「はい」
一礼し、部屋にワタリさんを残して僕は先に出る。
聞こえるかどうかも怪しい小声で「失礼します」と口にして部屋の扉を閉める。
部屋を出た先、足はどこかに立ち寄ることも無く出口へと向かった。
◎
「おつかれさま。思ったより時間かかったね」
「……あ、レティ」
病院を抜けると玄関前でレティが僕を迎えてくれた。
膝には小さくなったリコが丸まっていて、レティの優しい愛撫に身を任せている。最初は誰か知らない女の子が外で待っていたリコを構っているのかと思った。
それもレティは赤い耳当てのついたニット帽を被っていて、長耳がすっぽり覆われているため。髪の色を除けば普通の女の子にしか見えない。
(……あ、普通じゃないや)
普通じゃないなら何かと言えば、口にするのは恥かしいから言わないけど。
ちなみに僕はサイトウさんのお古の私腹を着させてもらっている。
学園には女子制服で行ってるけど(心の底から男子服がいいんだけどね)寮だと大体サイトウさんの古着を借りさせてもらっている。寮生からはメンズファッションに身を包む僕を見てかなり驚かれたけど、動きやすいって理由を通している。
後、外出時はリコの赤いロングマフラーを忘れない。
「どうしたの? てっきり、寮にいるものかと思ってた」
「あー……えーっと、その暇だったし。それに検査大丈夫だったかなって」
「え……? うーん、大丈夫……だった、と思う」
待ち疲れと、さっきの診察で精神的な疲労が結構あるけどね……。
もしかして、検査内容を知っているからこそレティは僕のことを心配してくれているのかな。
(……はっ!? もしかして、レティもワタリさんにパンツごと一気に降ろされたとか……!?)
う、考えちゃいけない。頭をふるふると振った。
「その様子なら、大丈夫……そう?」
「う、うん! 大丈夫だよ!」
本当かしら、なんて僕のことを怪しげに見る。いやいや、本当だって。
「それならいいけど。ね、この後何か予定ある?」
「ううん、ないよ。元々暇だったしね。試験が終わった頃合いを見てアサガさんのとこ行こうかなって思ってたくらいだよ」
「よかった。じゃあさ、これから東京に行ってみない?」
「これから?」
「うん、観光がてらにお昼ご飯食べに行きたいなーって思ってるんだけど……どう?」
――お昼っ!?
その言葉に僕も、また膝の上で和んでいたリコも身体を震わせて反応する。
「ぜひとも!」
「みゅうみゅう――!」
「じゃあ、決まり! まだ時間はあるけどフェリーに急げ!」
「あ、待ってよ!」
「みゅ――う!」
声を上げて先に行ってしまったレティを僕とリコは遅れて追いかけた。
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