第62話 2人っきりの温泉
ルイとの2人っきりの温泉は最高だった。
何度も休憩を挟み、体が冷えたらまた入り直すの繰り返し。これで全然飽きがこないのは、偏に彼女のと談話が途切れなかったからだろう。
この里に来てからひと月以上が経っているのに、2人っきりになる機会が1度も無かったからかもしれない。
毎日と交わしていた思いの言葉よりも、生の肉声での交流は温泉の効能以上にわたしたちの体を癒してくれたようにさえ思える。
途中、フラミネスちゃんが3人の中で一番に目を覚ましたので、そのまま3人かしましく温泉でのひと時を満喫しようとしたが、続くようにウリウリが気を取り戻した。
時刻はもう夕暮れ時で、頭を抱えながらウリウリは小屋から姿を見せた。
記憶が飛んでいるという。自業自得だ。
なお、未だシズクは昏睡中らしい。らしいと言うのは彼の様子を見に行ったルイからの情報で、わたしからは見に行かなかったからだけど。
……あんなものを見てしまった手前、たとえ自分が加害者であろうとも様子を見に行けるほどわたしの精神は強くない。
「シズクさん……男の子……だったんだね。驚きだよ……私は驚きだよ……」
鼻の下まで温泉に沈んだフラミネスちゃんがぶくぶくと息を吐きだした。
顔が真っ赤でふらふらとしているのはあの光景を思い出してか、それとも上せているのか。
ただ一つ言えるのは、彼女の背丈だとここの温泉は深く、正座をしなければ鼻上まで沈んでしまうということだ。どうでもいいか。
「フルオリフィアは知ってたの?」
「その……え、ええ、うん。まあ……」
シズクに女の子として振る舞えって言ったのわたしだし……。
わたしが招いたこととはいえ、フラミネスちゃんには事前に伝えておいても良かったかもしれない。
「そっか……本当に男の子なんだ……」
「その、ごめんね。今まで言わなくて」
謝るわたしの言葉はフラミネスちゃんには届かなかったらしく、惚け顔で明後日の方向を向いたまま、ずっと男の子……と呟いていた。
「はう……シズク……様……っ!」
「様っ!? ちょ、ちょっとフラミネスちゃん!?」
蕩けた眼差しを空へと向けるフラミネスちゃんの視線はまるで悪い熱に犯された少女だ……ああ、視界が定まっていない。
これって、うん、これはもう完全にあれだよね。
あ、ほら。
若干不機嫌そうにルイの視線の針がフラミネスちゃんに向かってる。でも、フラミネスちゃんは貫かれていることに気が付いてない……。
「むぅ……」
ルイはわたしと違ってまだフラミネスちゃんに強く言えないみたい。そのため、視線以外で彼女が語ることは無かった。
「お楽しみのところ申し訳ございません。フラミネス様、約束の時間ですので……」
「……シズク様……男の子……」
「ちょっと呼ばれてるよ! フラミネスちゃん!」
「あ、は、はいっ!? え、あれ、なに? どうしたの?」
ウリウリに呼ばれ、わたしが声をかけ、そして目をぱちくりと見開きやっと正気に戻ったみたい。けど、フラミネスちゃんは不満気味に頬を膨らませる。
「入ってたい! 私もっと温泉に入ってたいのにー!」
これもフラミネスちゃんの帰宅時間だから……フラミネスちゃんは門限のために先に帰らなければ無かった。
まあ、本当ならもっと早い時間にわたしたちは帰る予定だったしね。
ウリウリが目を覚ましたのはついさっきだし、フラミネスちゃんは気を失ってまったくと温泉を楽しめなかったからって、今も無理を言って短い間だけどこうして一緒に入っていたところだ。
「また来るから! つぎもみんなでまた来るからね!」
その後、ウリウリがフラミネスちゃんを抱きかかえ、空を飛んで里まで戻ると言う話になっている。
わたしたちは後から追えばいいと言ったけど、それは保護者がいないので駄目だそうだ。シズクもまだ目を覚ましていないからね。
そう言う訳で、一足お先に帰宅するフラミネスちゃんを見送なりながら、わたしたちはお留守番をしてウリウリが帰ってくるのを待つことになったんだ。
『風よ。我が言霊に従いこの身を天へと誘え――【翔華】』
ウリウリがそう呪文を唱えると、2人はふわりと宙に浮く。
「では、行って参ります。いいですか。私が戻ってくるまで、絶対にこの場から離れないようにしてくださいね」
「わかってるわ。気を付けてね」
「はい。それでは」
フラミネスちゃんは恨めしそうにわたしたちを見ていたけど、笑って手を振っておいてあげる。
じゃあ、とまた温泉にでも入っていようかなって思ったら、隣にいたルイが船を漕ぎ、大きな欠伸を浮かべはじめた。
「眠い? ウリウリが来るまで寝てたら?」
「うん、そうする……」
温泉は気持ちいいけど、体力を持ってかれるからなぁ。
心配なのでわたしもルイを小屋へと送り届けることにした。
中にはいつの間にかリコちゃんが入っていて、気持ちよさそうにスースーと寝息を立てていた。ルイは寝床だと言わんばかりにリコちゃんにしがみ付き、同じく直ぐに寝息を叩てしまうほどで……よくこんなところで寝れるなあと感心する。
「って、そんな姿で寝ちゃ駄目じゃないの……」
まったく、世話のかかる相棒だこと。
魔法を使ってルイの体に着いた水分を払い、またウリウリやフラミネスちゃんがいた時と同じように小屋の中を温かくする。
リコちゃんに包まれてたら多分風邪の心配はないと思うけどね。あ、ちょっとリコちゃん抱き枕は羨ましいな。
その後、一仕事終えたわたしは窓の外を見て……あることを思い付き、実行に移そうと考えた。
もう日はすっかりと落ちているのだ。
今日は新月なのか、あたりは真っ暗だけど、その分夜空には満点の星々が冴えわたり……つまり。
「これは、恰好の温泉日和ね!」
夜の温泉ってやつも格別いいものだ。ルイやフラミネスちゃんとのお風呂も楽しかったけど、ひとりだけの貸し切り風呂というのもいいものである。
でもでも、それなら先ほどと変わりない。
じゃあ、何が違うってここには人の目が無いってこと。
つまり。
「裸でお風呂が入れる!」
この湯浴み着というものが正直窮屈で仕方なかったんだ。
風が冷たいって言っても、日中は一枚着てるだけで妙に暑苦しかった。おかげで思っていた温泉とはちょーっと違ったのが残念で仕方なかったのよね。
わたしは若干の躊躇の後、身に付けていた衣類を脱ぎ捨てて小屋の外へと、温泉へと向かった。
「うわっ……寒っ! けど!」
昼と比べて気温はとても寒かったけど、それすらも今は温泉を楽しむ絶好の調味料と化す。
ひたりとつま先から温泉へと身を差し出し、じんわりと広がっていく温水の熱に日中とは違う感動をわたしは覚えた。
――ああ、これよ。これがわたしが求めていたものだわ!
「ふい……極楽極楽……」
身体に纏わりつく衣服も解放されて先ほどよりも気持ちいい。頬を撫でる冷たい風も優しい。
(ああ、ひとりの温泉もやっぱり最高ぉ……!)
ただ、思っていた以上にこの場所は静かで、暗すぎて、やっぱり誰もいないのは寂し……いっ――!
「……っ!」
ふと……音、が聞こえた。
水に何かが入る音が、温泉の中を何かが彷徨う音が、聞こえた。
(な、なに……?)
警戒しながら音の発した方へと目を向ける。
薄暗いこの温泉の中、ひとつの影が徐々にわたしの方へと近寄ってくるのがわかった。あちらはわたしの存在に気が付いているのかいないのか……どうしよう。
無闇に動くのも危険だし。わたしはその場で硬直しながらその影の動向を見守った――いつでも動けるようにと身構えて。
でも、その影は温泉の中心あたりで立ち止まると、程なくして腰を下ろし、悲鳴にも似たくぐもった声を上げだした。
誰……? って、わかる。
その声は先ほどまで気を失っていたはずの人なんだから。
「はっくしょんっ! ……うう、風邪引いたらどうしよう……」
ああ、やっぱり。
「そこにいるの、シズク……だよね?」
「えっ、レ、レティ!?」
シズクが驚き声を上げる。誰もいないと思っていたのだろうか。
わたしだって誰もいないと思ってたからちょっとは驚いてるんだぞ。
「ああ……よかった。皆の姿は見えないから、てっきり置いて行かれたのかと。皆は?」
そんなことするわけないじゃない。そこまで薄情じゃないわ。
「今ルイとリコはあっちの小屋の中で寝てるの。ウリウリはフラミネスちゃんを送るために先に里に帰った」
それから、ウリウリが戻ってくるまでわたしたちはここに待機していないといけないことを告げる。
「そうなんだ。じゃあ、リウリアさんが来るまで待ってないと……って、ひえ!?」
突如としてシズクが奇妙な変な声を上げ、わたしに背を向けるのだ。
「ん? どうかしたの?」
「やっ、だ、だって。ごめん。レティ……裸」
「……ぐわっ!?」
しまった。そうだった!
自分の今の姿を思い出して、わたしも直ぐに同じように背を向けて身体を隠した。
(み、見られた? でも、こんな暗い中じゃそう見えるもんじゃ……でも、こいつは確かに裸って……いやああ……)
恥ずかしくてわたしもフラミネスちゃんみたいに鼻下まで顔を湯に埋めてぶくぶくと息を吐く。ああ、どうしよう。すごい、恥かしい……!
居た堪れない。でも、出るにも身体を隠すものはなくて……この場で背を向けて丸くなるしかない。
「こ、こうしてレティと2人だけって言うのも、初めてかな?」
「う、うん。そう……だね」
話しかけられてもなんだかぎこちなく返事を返してしまう。
お互いに裸でお風呂に入ってるんだもん。本当に恥ずかしい……って、駄目だ。こんなんじゃ駄目だよね!
こうして2人っきりになれたんだから、なおさらさっきのことを謝るチャンスじゃないか!
「あの、さっきは吹き飛ばして、ごめんね……。動揺しちゃって、その……」
「いい。何も言わないで……。僕も恥かしかったし、うん……こちらこそ、変なもの見せて、ごめんなさい……」
「い、いえいえ……結構なお手前で……」
「……え?」
「え!?」
ってぇ、何言ってるんだわたしは! 何か結構なお手前
駄目だ。駄目! もう謝ったので終わり! 何か別の、話へと逸らそう! そうだそうだ。ええっと……そう!
「そ、そういえばね。さっきルイと話したんだけど、2人がしているそのペンダントの汚れ、わたしなら綺麗に出来ると思うんだけど、どう?」
「出来るの? 海水で錆ちゃって結構酷いんだけど……」
「どこまで綺麗になるかはわからないけど頑張るよ。ルイとも約束したしね……だから、預けてもらってもいい?」
「うん、喜んで」
そう言うと背を向けたままにシズクの首飾りを受け取る。
でも、受け取ってから失敗したな、って思う。仕舞う場所が無いんだ。さっきはまだ昼間だったから落としたとしても直ぐに見つかるからいいけど……。
仕方ない。シズクに断りを入れて自分の首に身に付けることにした。
「任しておいて。新品みたいに綺麗にしてくるから!」
「じゃあ期待して待ってるね」
「うん!」
それからはルイとの時とは違って、2人無言で温泉を楽しんだ。
やっぱり前の世界の人だからこそ同じ感覚なのかな。無言のままだったけど、居心地の悪いものではなかったんだ。
「……」
「……」
何か懐かしいとさえ思ってしまう。
そう……まるで、同じ部屋にいるのにお互いに別のことをしても特に気にならないあいつみたいに……。
なんでかなあ……。
「……レティ?」
「こっち見ないで」
「う、うん」
わたしは首から下を湯から出さないよう背を向けたままシズクの元へと向かうと、そのまま彼の背中へ自分の背中をくっ付けた。シズクの背中がぴくりと反応したのを素肌を通して感じとる。
なんでこんなことをしたのかは自分でもわからない。
その理由は、覚えてしまった既視感から、もしかしたら、わたしはあいつの代理をシズクに求めちゃったのかもしれない。
もう、あいつはいないというのに……。
「ちょっとだけ、このままでいい?」
「う、うん……いいよ」
ここで駄目なんて彼が言えるはずもないのにね。
合わせたシズクの背中は思ったよりも大きく感じる。肩幅なんてルイと大差ないはずなのにな。
(やっぱり……すごい懐かしい)
どのくらい相手に荷重をかけると丁度いいかとか、そういう座り心地があいつとそっくりだ。
ただ、10年以上も前に手放した席だからこそ、すっかりあの時の感覚をわたしが忘れてしまっただけなのかもしれないけど……でも、こんな偶然もあるんだね。
「……すごいや」
「ん? 何シズク?」
「ううん……ちょっと、懐かしいって思っちゃった」
「……そっか」
そっか。シズクも同じ気持ちだったんだ。
……なんだか、頬がくすぐったい。
そのまま温泉か彼の温度のせいかもわからないけど、優しく吹き付けてくる風はわたしの熱くなった頬に心地よかった。
……でも。
その後に出るタイミングを逃すほどに温泉に入り続けちゃって、ウリウリが戻ってきたときには茹で上がったわたしたち2人を見て、呆れながらに怒られた。
わたしはそれとは別に裸で入ったことを特に怒られたわけだけど……。
◎
話はまだ日が高いうちに戻る。
フルたちよりも少し遅れて俺ら2人は温泉に到着した。
目的地直前で使っていた馬を近くの木々に繋ぎ、表の道からは向かわず、裏の林から入ることになった。なんでそんなことをするなんて野暮なことは聞かない。
ただ俺は黙ってインパの後ろに着いていくだけだ。
早速茂みに隠れて先に入っている奴らの様子を窺った。インパはリウリアがいないことを悔しがっていたが……って、おい!
話が違う! なんだあいつら服着てるじゃねえか。
「おい、裸じゃねえよ」
「……ちょっと黙っていろ」
「あん……なん――っ!」
「いいから」
インパに口を抑えられて、温泉に服のまま入っている2人の動向を探ることになった。
どうやら妙な具合で来てしまったみたいだ。
目の前にはフルとルイが随分と重たい話をしているのだ。
「……わたしは前世の記憶ある。そして、このメレティミとして生まれ変わり、こことは違う世界の人間だっ――」
なんだ。どういうことだ。前世の記憶って意味がわからん。
「……誰っ!?」
ちょっと身を乗り出し過ぎて物音をたてた時はインパに頭を無理やり押し込まれて土に顔を埋めることになった。
何すんだ! と睨みつけたらインパの野郎、ものすげえおっかない顔をして2人へと睨みつけていたんだ。
(なんだこいつ……)
その後、フルは水魔法使ってこっちに攻撃してきたので、インパが事前に用意しておいた兎を放して俺らとは気が付かれないで済んだんだが……。
「坊ちゃん……悪いが今から直ぐに帰るぞ」
「え、ちょっと待てよ! 俺はまだ見たり、いや入って――」
「黙って言うことを聞け。温泉どころじゃなくなった」
ひとの断りも無く俺を抱きかかえると、インパは音も無くその場を離れ、そのまま馬に乗って里へと走り出したんだ。
おい! と文句を言ってやろうかと思ったのに、インパのアホ面は先ほどから変わらず怖ぇ顔をしてるし……こんな顔見たことねえよ。
背筋が凍るほどの恐怖を感じ、俺は黙ってインパの後ろに跨るしかない。
里に着いて早々、インパは俺を担いだままに走り出し、親父の元へと向かっていった。
親父はこの時間インパたちと同じ仕事場の一室で“仕事”をしているはずだ。
何の仕事をしているのかは未だにわからんが、俺が親父の後を継ぐときはその仕事の全貌を知らされると聞く。
インパは部屋の扉を叩くことも無く無礼気ままに入室し(親父には驚かれたが、慣れっこなのだろう)一つ溜め息をついて親父は渋々と入室を促した。
「……大将。ちょっとお耳に入れたいことが……」
「なんだ? その様子から重要なことだろうが」
「その……“ミッシング”と思われる人物を発見しました」
「なんだとっ!?」
みっしんぐ? 聞いたことないな。
ただ、2人の反応からして尋常じゃないってことはわかったので口は挟まなかった……いや、挟めなかったけどな。
親父は俺を一瞥し、奥歯を噛みしめてからまたインパへと視線を戻した。
こういう時の親父は俺に聞かせたくない話がある時の反応だ。俺がいたら駄目だって言うのに親父は構いもせずに続ける。
「して、そいつは?」
「ええ……実は、ブランザ姐さんの娘……メレティミ・フルオリフィアです」
……一体、何の話をしているんだ。
(フルがみっしんぐ? ……ミッシングってなんだよ。くそっ!)
ただ、その“ミッシング”って言葉は2人の反応からしてとても悪いものだとは読み取れる。フル、一体お前何したって言うんだよ……。
親父は頭を抱えて近くのソファーに深く腰を落とした。
「……なんてことだ」
「どうしやしょう? ……俺がすぐにでも行きやしょうか?」
「いや……まだだ。我らが勝手に動いていい話ではない。それに……」
また親父は俺を見る。なんでここにいるんだという目つきだ。
俺だって来たくて来たんじゃない! 全部インパは後先考えない行動が悪いんだよ!
親父の視線からインパも俺を見て頷くだけだ。
「この話はまた後でだ。お前は他で待機していろ。長老にはは俺が話す」
「……へい」
下がれ、と親父の一言にインパは一礼をすると背を向けその場を後にする。
その言葉には俺に対しても含まれてはいたんだろうけど、俺はインパがいなくなってもこの場に残った。
だって、知りたいじゃねえか。ミッシングとかフルのこととかよ。
「父上。一体何の話だ?」
「……今はまだお前は知らなくていい」
「そんなっ……っ……!」
口答えしようものならその身を焼き払う――そんな意味合いを含んだ親父の視線は俺の喉元まで込み上げてきた言葉をひっこめるには十分なほどの重圧を含んでいた。
親父なら、やりかねない。
今ここで焼き払うとはいかないものの、威力を弱めた雷魔法を放ち、俺の意識をあっさりと落とすくらいにはやる。
……くそくそくそっ!
「いいか。この話、他の者に他言はするな。……絶対。絶対に口にするなよ?」
「…………おう」
俺はただ、その一言を呟くのが限界で親父の目をまともに見ることができなかった。
気が付けば俺の足は無意識に仕事場の外へと進み、いつの間にか自分の部屋へと戻っていて、さらに気が付いた時には寝具の上に座って深く深く息を吐いた。
「フルが……このままだと大変なことになるんじゃないか……?」
フルが何か悪いことをしたのはわかった。
ミッシングって意味はよくわからんが、多分そういうことなんだと思う。
何を仕出かしたかは予想はつかないが、心当たりはいくつかある。
一番はやっぱり、生り損ないの元へと向かっていることだろうか。それがばれたのだろうか。
それとも他のこと? インパはなんで温泉に入ってるフルを見ただけでそんなことがわかったんだって……違う。
見たんじゃない。きっと問題はあの時の会話の内容だ。
(そう……記憶がどうって……でも、訳わからねえ)
フルには前の記憶があるって言っていた。前っていつのことだ。それがどうすごいのか。悪いのか。
これ以上は俺の頭では考えても埒が明かない。
「まあ……罰ったって、そこまで酷いもんじゃないだろう」
独房に入れられて頭を冷やせとか、尻叩き100回とか……って、それは俺が受けた罰か。
でも、そんなもんだろう。
天人族は過保護過ぎるくらいに子供を大切にする。だから、そんな重い罰にはならないと思うけど……。
(フルさっさと懺悔して罰を受けちまえよ。たく、隠し事なんてしてるからこうなるんだからな!)
多少は辛いだろうけどよ、悪いことをしたんだからそれ相応の罰を受けないとな。
で、終了して落ち込んだ姿をフルが見せてたら……そうだな。
俺が励ましてやろう。いつもみたいな減らず口は控えて、俺だって優しく出来るんだぞってところを見せてさ。
(そしたら、フルだって少しは……!)
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