第57話 ユッグジールの冒険者ギルド

 お会計中、シズクとルイは自分の懐から出そうとしたけど、そこは全部ウリウリが出すと突っぱねた。悪いからって2人は遠慮するけど、ウリウリは子供に出させるのは保護者として、大人として許せなかったそうだ。


「ありがとう。リウリアさん」

「ごちそうさま! ウリウリ!」

「いえ、気にしないでください。当然のことです」


 なんて言いつつも、そのお金は3人の子供から貰ったお駄賃だったりするんだけどね……。

 自分の分を含めた4人分+リコちゃんの、またドナくんたち3人分の食事代を含めても、子守代として渡されたお金は3分の1も減ってない。他のお店がどうかわからないけどあの量でこの安さなら大満足だろう。


 その後、店の外までウォーバンとネニアさんが見送りにきてくれた。

 未だにドナくんとレドヘイルくんは気持ち悪そうな顔をしているけど大丈夫かな。


「ねえ、ウォーバン。あのメニューはいったい誰から教わったの?」


 ああ、ナイスだ。シズク。

 わたしもそれが気になっていた。

 でも、部外者であるわたしが軽々しく聞くのは変な話だし、このまま知らないままになるところだったよ。


「あれは、騎士団にいた変わり者のジジィにせがまれて覚えたもんだ。本意じゃなかったんだがな……死ぬ前にもう一度食いてえ食いてえってうるさく喚くから仕方なく作ってやったんだよ」


 ウォーバンが言うのに、そのおじさんは以前から自分は別の世界に生きていたと触れ回っていたそうだ。

 剣の腕は立つことから騎士団に勧誘されたらしいけど、同僚からは煙たがられていたみたい。ウォーバンとは相部屋だったそうで、本人が聞いてもいないのによくその世界の話をされていたそうだ。


 ただ、遠征中での魔物との戦闘でウォーバンを庇って大怪我を負う。また庇い切れず、余波としてウォーバンも傷つきその時に負った怪我で奴隷契約を破棄され退団したという。


 ……が、その退団前の数日間に医務室で苦しむおじさんの面倒を見たのがウォーバンであり、怪我を負ったとは言え助けてもらった義理から仕方なく食材を集めて料理を作らされた、と語った。


「……前世持ち、ですか?」


 と、そこでウリウリが話に飛び込んできた。

 鉄仮面を崩すほどに眉尻を吊り上げウォーバンを睨み付ける。

 どうしたんだろう。人前なのに表情を露わにするなんて……。

 人に向けるには好ましくない表情で迫るウリウリに対してウォーバンは嫌悪すること無く、目を逸らして話を続けた。


「……さあ、どうだかな。あいつは周りから頭のイカレた奇人だって思われていたし、誰も碌に話を聞こうともしなかった。酒が深く入ると“俺は本来ここにいる人間じゃねえ”って毎度毎度愚痴をこぼしていたしな」

「して……その方は?」

「死んだよ。俺の作った出来そこないのラーメンを食った後に満足げにこと切れた」

「そうですか……」


 そう口にするとウリウリは一歩後ろに下がり、それ以上ウォーバンに顔を向けずに、俯くだけだった。

 なんだろう。ウリウリったら落ち込むような安堵したような……。

 一方的な態度であった彼女だったけど、ウォーバンは特に気にすることも無いみたい。

 その話はもういいと、頭を掻きながらシズクへと顔を向けた。


「不味かったろ?」

「ううん、そんなことないよ。……とても、美味しかった」

「はは、お前も変わりもんだな。あいつも不味いはずなのにうめえうめえって泣いてたっけな……ただ、まあ……なんだ。世辞でもうまいって言ってくれて……ありがと、な」


 人に褒められることに慣れてないのか、ウォーバンが顔を背けながらそう感謝を口にする。

 彼なりの照れ隠しなのだろう。

 咳払いのつもりなのか「がおっ」と小さく咆えてからわたしたちを睨み付ける。


「な、なん、だ。……勘違いするなよ! 俺は別にお前らと慣れあう気はねえからな。用もねえのにいちいち店にくんじゃねえぞっ!」


 唾が飛ぶほどに大きな口を上げてウォーバンが叫んだ。

 やっぱり、動物園で見たライオンそのものだ……なんて本当に口には出せないけど、その大声にわたしはその場から飛びのいてしまいそうになる。

 ああ、びっくりした。

 ドナくんもフラミネスちゃんもレドヘイルくんだってがくがくと震えてるしわたしが驚くのは当然だ。


「えー! なんでそんなこと言うのさ!」

「ウォーバン何を言ってるの?」


 でも、場馴れしているのかシズクとルイだけが首を傾げてウォーバンの態度を不思議がる。

 体毛に覆われたウォーバンからだから、顔色はうかがえないけど、多分、顔を真っ赤にしてことだろう。

 ルイは納得出来てないのか困惑と怒気の混じった表情を浮かべているけど、シズクは悟ったのか薄らと笑みを浮かべていた。

 ネニアさんがおなかを抱えて笑い出した。


「つまり、腹が減ったらいつでもおいで、だってさ? もう、店長ったら恥ずかしがって」

「ネニアお前は黙ってろ! 辞めさせられてえのか!」

「したら仕入れは誰がするんですかねぇ? 店長その足でいけるの? それにこんなおっかない獣人の店にあたしの代わりに働いてくれる人なんているのかしら? 募集してるのに誰も来ないよね?」

「う、うっせぇ! お前はもう皿でも洗ってろ! 俺はもう戻るからな!」


 足音を鳴らしながらウォーバンは店の中へと戻ってしまう。

 記憶の中の彼とは全くと言っていいほど印象が違うなあ。


「ウォーバン変わったね。なんかね、優しくなった」

「うん。僕らも全く話はしなかったけど、誰も近寄らせない空気を纏ってたしね」


 2人もわたしと同意見のよう。


「この店を始めたころはギラギラと飢えた野獣みたいな男だったわよ。――これもあたしのおかげかしら」


 なんて鋭く尖った歯を見せながらネニアさんはけたけたと笑っていた。







 来た道を戻って大通りを歩き、天人族の居住区と続く道とは反対に曲がる。

 そのまま道なりに進み、わたしのところと同じような橋を渡って魔人族の居住区へと到着だ。


「はあ、ここが魔人族の住処か。だっれもいねえな!」


 わたしもここは初めてきた。

 どこかしらで喧騒が聞こえてくる獣人族の居住区に比べ、魔人族の居住区はなんだろう。鬱蒼とした重苦しい雰囲気に包まれている。

 人気も少ない。まるでゴーストタウンだ。


「……」


 時にはすれ違う、目深く被ったフード付きの全身を覆える真黒なコートを身に纏ってる人がいるけれど、その人の足取りはふらふらとしていて覚束無い。

 わたしたちに一瞥をくれるも、フード越しで影を被ったその双眸に力は無い。目を伏せるままに関係ないとまた自分の進む先へと足を運んだ。


「風邪気味なのかな? 体調不良? 今にも倒れそうだよ!」

「……元気ない」


 もしかして……幽霊? なんて、まだ怪談話には早すぎる時間帯だ。


「彼らは夜行性なんです。日の出ているうちは自宅で睡眠を取っているものが多いと聞きます」


 ウリウリの説明によると魔人族の活動時間は夕方から明朝まで、昼夜逆転の生活を行っているみたい。

 少ないけど出会う人は欠伸を上げている人もいる。もしかしたら起きたばかりなのかもね。

 それともとか、早番の人たちなんだろう。


 物珍しさからそういう人を含めて冒険者ギルドを目指す最中に色々と町並みを観察してしまう。

 レンガ造りの軒並みに地面は小石と石灰みたいので埋め立てられた道が続く。アスファルトっぽい。

 これは土魔法で作られているのかな。靴越しだけど、感触に粗さは無い。


 わたしだけでなくドナくんたちもきょろきょろと見渡している。隣の亜人族ならいざ知らず、反対側なんて来る機会はないもんね。

 ルイも時折ブーツの靴底で地面を擦るように歩く。大地と比べて滑らない地面を楽しんでいるみたい。

 でも、ただ1人。

 シズクだけが町ではなく、人へと視線を向けていた。通りすがった人を見ては目を擦る。


「なんだろう。さっきから会う人みんな光に覆われている」

「光? ぼくは見えなかったけど……」

「あ、どこだ? 俺も見えないけど」


 わたしもルイやドナくんと同じくそのようなものは見えない。

 シズクの指すフードを被った人は暗澹とした暗い邪気を纏っているように見えても光を放っているとは思えない。

 他のみんなも一緒みたい。ウリウリもそんなものは無いと言う。

 だけど、シズクだけは見えるという。


「ほら、あの人も。今角から出てきた人」

「……ないよ」

「シズクさん大丈夫?」


 曲がり角から現れた人を指すけど、暗いところ以外は変わらずだ。

 あれ、とばかりにシズクが首を傾げる。

 今度はわたしたちと道を歩く人を見比べるけど見えるのは魔人族の人たちだけみたい。みたいって言ってもわたしたちには見えないんだから、シズクだけおかしいのかな。


(目の病気……? 治癒魔法で治ればいいけど……)


 なんて、わたしが別の方向で心配しているとウリウリが一つ感嘆としたものを口にした。


「シズク様、もしやご自身以外で魔人族と会ったことはありませんか?」

「え、うん。ないと……思う」

「そうですか。私も又聞きした程度なので本当かどうかは定かではありませんが、魔人族は互いの魔力を目視することができるそうです」


 ウリウリ曰く、魔人族は同種であれば互いに魔力の可視化が可能とのこと。

 これによって同じ見た目の地上人と魔人族を見分けているんだって。

 だから、地上人側がもしも魔人族のフリをしようとして里に潜り込んでも、一目でわかっちゃう。

 このことはあまり公言されていないから知らない地上人が十数年に一度くらいの頻度で捕まる人が出るって話もしてくれた。

 でも、確かラゴンがおとぎ話の中でノイターンっていうすごい人がいたって言うけど……その人は視覚化できるほどの魔力を帯びていたんじゃ?


「……懐かしいですね。夜行鬼神ノイターン。私も子供の頃にお母様……いえ、母、に脅かされたものです。しかし、すみません。その者は魔人族ではなく鬼人族だった、としか知りませんね」

「へえ、そうなんだ。……ウリウリにも両親っていたんだね」

「それはいますよ。まあ、2人とも60年ほど前に他界しましたけど……すみません。あまり2人のことは、自分でも口にしたくなくて……」

「あ、ごめんね。変なこと聞いて……」


 いいんですよ、と言うウリウリの顔は他人に見せる無表情だ。

 いつもならわかるウリウリの感情もこの時ばかりは読み取れない。

 ……知らなかったとはいえ、わたしの胸の内に罪悪感が芽生えてしまう。


 そりゃあウリウリだって人の子だ。木の股から生まれたわけじゃないし。母親が亡くなって60年前と言えばまだウリウリも4つくらいの頃。

 辛い思いをしてきたんだね……こんな状況じゃ、いや状況関係なく聞きにくいけどさ……。

 

「私のことは良いんです。ノイターンは魔力も殆ど持たない者、魔法が使えない地上人でも見ることが出来たそうです。伝承には一つ山を挟んだ先からでもその煌きが確認出来たとか。流石に尾びれ背びれは付いていると思いますが……と、そろそろ着きますよ」


 言われて顔を上げた少し先、家々が連なる中の一軒に目が留まった。

 冒険者ギルド、と看板がぶら下がっているのでここでいいんだろうけど、なんだか……。


「小さいね……」

「うん、小さいね……」


 利用者の2人が訝しげに呟く。

 わたしの記憶の中にある冒険者ギルドもこれの数倍は大きなものだったと思う。

 まるで個人経営の商店か喫茶店みたい。みたいって言っても前の世界で見かけた初見で入るには躊躇ってしまうようなお店と似てるってだけだけど。

 冒険者たちが酒を飲み交わし喧騒で賑わう……そんな印象とはかけ離れ、まるで閑古鳥が鳴いているかのように寂れている。


「どうします? 入りますか?」


 2人は互いに顔を合わせて頷き合い、シズクを先頭として扉に手をかけた。

 リコちゃんは外でお留守番だ。言われる前に彼女は店前でお座りをしていた。

 カランコロンと扉についていた鐘らしきものを鳴らして2人が奥へと向かい、わたしたちも後に続く。

 建物の中は外見と同じくこじんまりとした造りだ。

 中にはカウンターが一つに、申し訳なさそうに4人掛けのテーブルが一つあるくらい。


「……らっしゃ……ん、珍しいお客さんじゃの。天人かえ?」


 鐘の音で呼ばれて、カウンターの奥からお爺さんが現れた。

 枯れ木のように細い四肢に、後退した頭部に真っ白な髪と髭。今にも折れてしまいそうな印象が窺える。

 シズクが先に、その後ろをルイが続きお爺さんの前へと立った。


「……ここ、ギルドですよね?」

「ああ、そうじゃ。……登録かえ?」

「いえ、違います。今回はギルドの確認に来ました」

「冷やかしかい。まあええわ。……悪戯だけはするな?」


 気分を害したようにお爺さんは一つ声を上げてカウンターの中で腰を下ろした。そして、近くにあった煙草に火を点ける。

 ルイとシズクは気にもせずに近くの掲示板へと歩み寄った。この対応もまた慣れっこなんだろうな。

 ドナくんたちは物珍しがってギルドの中を探索している。お爺さんの趣味なのか、鉢植えや置物を手に取ったりして、お爺さんから注意を受けた。

 わたしは……ルイたちと同じように掲示板へと向かって貼られている依頼書へと目を向けた。

 ……あれ?


「……ぼくたちが受けれる依頼ないね」

「うん。そうだね……」


 そうなのだ。

 ここに張られている依頼書は下位2種のものしかないのだ。

 緑と黄。しかも殆どが採取やお使いと言ったもの。討伐の類は一つとしてない。

 赤段位の彼らが受けることが出来る依頼は一つも無かった。


「は、何馬鹿言ってんじゃい! お前らみてえなガキには丁度良い難易度だわい」

「いえ、僕たち赤段位なので……」

「うん、受けられないよね」

「まぁた馬鹿なことを言って! お前らそんな――」


 と、そこでシズクとルイは、2人して自分のギルドカードを取り出してお爺さんに見せた。おじさんの目が見開かれる。

 偽装か!? と疑われたので今度は2人してカウンターに置かれたあの透明な板に手を当てて自身の証明をする。


「こりゃあたまげたな……そっちのお嬢ちゃんは天人族じゃとし、じゃあ、お前さんは魔人族かえ?」

「え、うん。そうだけど? お爺さんは……」

「儂は列記とした人間様じゃよ。お蔭で肩身の狭い思いをしとぉわ」


 お爺さんは口を尖らせる――え、お爺さん地上人なの。

 地上人、わたしからしたらお爺さんこそがなわけで、魔人族の居住区だけでなく、この里ではわたしたち以上に珍しいと思うけど……。


 お爺さんは数十年前からこの里でギルド管理を任されていたんだって。ギルド自体はもっと前からあるらしく、この場所の管理人としては2代目だそう。

 ただの島流しだ、なんて最後にぶつくさと不満を漏らしていた。


「このギルドを使う奴なんて魔人族のガキくらいじゃね。みんな小遣い稼ぎ程度にしか思っとりやせん。人を襲う魔物なんつう依頼は来る前に里の大人たちがやっちまう……下位の低い日銭にもなりゃしない依頼しかきやせんよ。この大陸じゃあ依頼で生計を立てるのは難しいじゃろうな……」


 依頼の大半は薬草や鉱石、近くの湖畔での漁業といったものまである。もっと足を運べば海まで行って塩を取って来いなんてものまで。


 これも全部里の子供にやらせて自立を促すんだってさ。魔人族は天人族と比べて奔放な子育てなのかな。

 わたしたち四天の子なんてウリウリなんかの護衛と一緒じゃないと家の外も歩けやしない。他の天人族の子は里の中までは大人の目があればいいみたいだけど、この里の外となると大人が同伴しないと出ることは出来ない。

 ちょっと過保護過ぎて窮屈な思いもするけどさ、これも思想の違いだし、愛されているってことなのかな。


「困ったな。いつもお金はギルドで稼いでたしね」

「そうだね……シズクお金どれくらい残ってる?」

「後は5リット金貨くらいかな。それと銅貨が数枚……」


 2人は顔を見合わせてうんうんと悩み続ける。

 わたしはこの世界に来てからお金とは無縁の生活を送っていた。

 記憶から2人が使うところは何度も見たけど、自分で使うのとは全く違う。物価も町によってまちまちだし、ある町では卵10個で20リット銅貨ってところもあれば、次の町では卵5個で3リット銅貨ってこともあった。

 全然お金の使い方を学ぶことは出来ない。


「まあ、特例として下位依頼を提供してもええが……どうす?」

「それっていいの?」


 お爺さんの言葉にルイが訊ねる。

 依頼が発注されても長期に渡って受注されなかった依頼に限り上段位者でも受けることが可能とのこと。公では許されないらしいけどね。

 また場所によっては、ギルド側が秘密に下位依頼を提供するパターンもあるみたい。流石にここだと他の冒険者……里の子供たちの為にも残しておかなければいけないので遠慮願いたいそうだけど。


「あ、うん。じゃあ、考えておく……かな」

「あいよ。そん時はよろしゅうな」


 お爺さんは煙草を吸いつつ、皺を深く刻んで笑った。

 想像していたようなものとは違い、望むように依頼も受けられないことを知り、ちょっと2人は落胆したように見えた。

 いつの間にか腰を下ろしていたウリウリと相席し、互いに顔を合わせて今後について話し始めるも、言葉はうまく出てこないようだ。


 ああでもないこうでもない。

 2人の相談は難航し、結局ルイがテーブルに突っ伏して終了。お手上げのようだ。

 後には目を閉じたシズクだけが考えに巡らせるというのだけが残った。


「あ…………え、でも……そっか」

「シズク何? 何か思いついたの?」

「……ううん。なんでもない」


 シズクは言葉を濁すけど、わたしから見ても何か思いついたようだった。

 もちろんそれはルイも同じで、追及をしてもシズクはそれ以上に答えようとはしなかった。彼は話を無理やり逸らして今度はどこでお金を稼ぐかと言う話へと持っていった。


 もう2人の関心はギルドにはないみたいだ。

 お爺さんは詰まらなそうにまたカウンターの奥で座って頬肘をついてわたしたちに目を向けている。


「結局このギルドって何するところなんだ?」

「お金を稼ぐところじゃない? ほら見て見て! 紙に書かれている物持ってきたらお金もらえる!」

「……危ない?」


 四天の子である3人の声だけがこの店の中に響き渡る。来たがっていた人よりもドナくんたちの方がギルドに夢中らしい。

 掲示板を熱心に眺める3人の目が輝いているのが見える。特にドナくんの熱の籠り様は他の2人の比じゃない。


「俺もやれるのかな……?」


 ぽつりとドナくんが呟いた。


「冒険者に興味があるんかい?」

「冒険者?」

「ああ、生きるか死ぬかもそいつの腕次第。身一つでその日ばかりの金を稼いで夢に生きる馬鹿共じゃ。時には大金を掴むことも出来るじゃろ。時には名声に歓喜することもあるじゃろうに。ただ、そんな奴あ一握り。大抵は浪漫を上に野垂れ死に躯に成り下がる……それが冒険者ってもんじゃね」


 なんてお爺さんは仰々しく冒険者について説明していた。

 わたしは何でも屋さんって印象が強いんだけどさ。

 ただ、ドナくんの興味を引き付けるのは十分だったようだ。


「なんだそれ! 俺もなりたい!」


 ドナくんはカウンターから身を乗り出してまでお爺さんに顔を近づけた。いつもなら地上人ってだけで毛嫌いするのにね。

 それだけ冒険者……ってものよりも別の生き方ってものに憧れているのかも。わたしたちは生まれた時から四天の跡継ぎとしての運命が待ってるからね。


 まあ待てとお爺さんがドナくんの顔を押し退ける。けれどもドナくんは押し返されるどころか押し込もうとする気迫を見せる。お爺さんの手でドナくんの顔がすごいことに……。


「お前はまだ成人を迎えてねえべ? 規則でな、天人族の子供が冒険者登録をするにゃあ保護者の許しがねえと駄目なんじゃよ」

「はあ!? なんでだよっ! じゃあ、こいつはどうなんだよ!」


 なんてドナくんはルイを指さし、さされたルイはむっと顔を顰めた。


「嬢ちゃんは外で作ったんだろ。外にはそんな規制は一切ない。だが、そとは外、うちは内。この里にギルドを設置するに至って“子供にカードを作らせるときには親の同意を得てから”って天人族側からそう要求が来たんだよ」

「はぁっ!? なんだよ、それ! 一体どこの誰がっ!?」


 それでも食い下がってドナくんは文句を言うけどお爺さんは取り合ってはくれない。

 どうしてもって、お爺さんはここにいる唯一の大人であるウリウリから許可を貰えばいいと言うけれど、ウリウリは当然のように拒否をする。


「例えフルオリフィア様から頼まれたとしても認めません」


 だってさ。

 わたしは……本音を言えば、あまり興味は無いよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る