第49話 世界樹の下で舞う
ユッグジールの里の顔ともいえる世界樹は、どの種族にも神聖なものと崇められているらしい。らしいと言うのもわたしが他種族で話が交わせるがもっぱらアルバさんくらいしかいないからだ。
無神論者の代表とまでは言わないけど、アルバさん個人で大樹のことをどう思ってるかって聞いたことがある。
「神様を信じないことと“信仰”することは別だろう」と言われた。そんなものか。
その大樹から半径1キロメートルほどの陸地は“神域の間”と呼ばれ、普段から立ち入りを禁じれている。
神域の間の周囲は水堀が掘られていて、東西南北に分けられた各種族の居住区事に1本大きな橋が架けられいる。
また神域の間を中心に、バッテンを刻むみたいにわたしたちの住む4種族の居住区を分割する河が流れている。ここで流れる水がわたしたちの生活水としても使われているそうだ。
そのため、他の居住区……天人族の居住区からしたら、北の鬼人族、南の亜人族の居住区へと入るにはその河を越えるために等間隔に設置された橋のどれかを渡らないといけない。大樹を挟んだ対面の魔人族の居住区に向かうにもその2種族どちらかの居住区に一度お邪魔しないと駄目。
橋は職人であるドワーフたちの手の凝った頑丈で立派な作りのもので、どの橋にも動物を象った銅像が設置されている。
ちなみに、わたしはいつも屋敷から一番近い馬の銅像が付いた橋を渡って亜人族の居住区へと向かっている。
でも、天人族で使う人は……少ない。
天人族の人たちは差別意識を持っている人が多い。態度には滅多に現さないけど他種族ってだけで毛嫌いするし、特に亜人族に関しては見下しているかのように酷い。理由として亜人族の人たちが魔法が使える人が少ないことにある……。
そういう訳でわたしも亜人族の居住区を出入りし初めの頃は周りの人からすごい嫌な目で見られて肩身の狭い思いをした。
まあ、アルバさんはウリウリという繋がりがあったことから、そんなでも無かったけどね。
同じ里に住んでるんだからもっと仲良くすればいいのに。
だからわたしが四天の位を賜ったら、お母様のようにこの里を繋ぐ架け橋になろうと考えている。
……と、なんでその話をしたかって言うと、わたしたちは今まさしくその神域の間へと向かっている最中だからだ。
今日は“神魂の儀”と呼ばれる里合同の集会が開かれる。
ユッグジールの里に身を置く人たちとの親睦会みたいなものって思ってくれればいい。でも、やることは各種族のお偉いさんの有り難いお話を聞くというもの。
まあ、殆どの人はその後に続く各種族の若手たちが代表として技量を披露する催し物の方が目的だろう。
その天人族側の代表として参加するのがわたしたち四天の子供たちだ。
大体ケラスの花が咲いたら里の人たちへと神魂の儀の開演が告知がされる。
太陽が天辺に昇ったくらいに開始となり、それまでに入らなくては橋は封鎖されてしまうのだ。
代表であるわたしたちは準備のためにそれよりも早く出向わなければならず、そして、今はその長い橋を渡っている最中だってこと。
◎
ルイたちがこの大陸に渡って2か月ほどが経った。
昨日の会話ではルイは大きな木(世界樹)が見えるところまで来ているみたい。
多分、今日中には着くだろうと、わたしは喜びを隠せずにいた。
「なんだ、フル。機嫌がいいな。そんなに集会が楽しみなのか?」
隣を歩いていたドナくんがわたしの腕を肘でつつく。
顔に出てたのだろう。口元のニヤけは自分でもわかった。でも、これはルイに会えるからであって、神魂の儀に関して今回ばかりはタイミングが悪い! としか思ってない。
否定しようとしたらそこへレドヘイルくんがわたしの代わりにぼそりと呟いてくれた。
「……違う……フルオリフィアちゃんは……思い人に会えるのが……嬉しいから……」
ん、思い人……? それってちょっと違うよね。
なっ! って口に出して驚くドナくんと、珍しくむすっと不満そうなレドヘイルくんだ。
ドナくんは毎度のことだからどうでもいいけど、心配なのはレドヘイルくんだ。
どうしたんだろう。ここ最近のレドヘイルくんはルンルン気分のわたしとは対照的に寂しそうな顔をしてばかり。何か悩みでもあるのかな。
「男か!? フルいつの間に男なんてっ!? 俺は許さないぞ!」
「……ルイっていう女の子よ。もうすぐ会えるって前に話したじゃない?」
「ああ? そうだっけか?」
なんて言いながらもまだ疑惑の眼差しを送ってくる。
大体男って……。恋人を作るのにドナくんの許可を得らないといけないの――なんて、思わず笑みがこぼれる。
ドナくんかわいいな。ちょっと頬を膨らませてわたしを睨み付ける様子に恋してるってビンビン伝わってくる。
ただ、その気持ちにはわたしには答えられないよ。
気が付かないふりを続けちゃうけど本当にごめんね。
(ドナくんはフラミネスちゃんなんていいと思うけどどうだろう? 駄目かなあ?)
そうわたしが勝手に選んだドナくんのお嫁さん候補のフラミネスちゃんへと視線を向ける。
ドナくんのことを微塵も意識せずわたしを見て、きらきらと瞳を輝かせていた。
「あの『
「うん……僕も……フルオリフィアちゃんと話したい……」
「うんうん。離れていても皆と会話出来たら楽でいいよね」
前の世界ではちょっとの用事でも直ぐに連絡を取れるって当たり前のことだと思ってた。
だから今は不便で仕方ない。文明の利器って素晴らしかったんだとしみじみ。
この世界だと遠くに連絡を取る手段は早馬と手紙が主流。遠距離の相手に連絡を取る魔道具も存在しているって聞いたけど……わたしは見たことないかな。
「……」
「……」
あれ、2人の視線がなんか変? 恨めしそうっていうか、わたしを責める様な目だ。
ドナくんがくつくつ笑ってるし、あれ、わたし変なこと言ったかな?
「フルオリフィアの鈍感!」
「えー!」
「……フルオリフィアちゃんのばか」
「ひどいっ!」
何故だ。
うう、納得がいかないが2人の責め立てるその眼は辛い。理由はわからないけど2人ともごめんよ、と彼らの突き刺さる視線から逃れるためにわたしは早足で3人を抜いて、前へと向けることにする。
ケラスの花へと。
神域の間の入口はケラスの木が植林されていて、伸ばし重なり合う枝が門みたいに見えた。ケラスの花のアーチだ。
これがもう見事なもので、毎回ここを通るときは楽しみにしているんだ。
里のあちこちにケラスの木は立ってるし、どこを向いても今の時期は白桃色に覆われている。
「まーた見てるまた見てる!」
「うわっ! もう、フラミネスちゃんったら!」
そう、フラミネスちゃんがわたしの腕にしゃがみ付きながら歌うように茶化した。
同時にフラミネスちゃんはわたしの腋の切れ込みから手を忍ばせようとしたのでその手を叩き落とす。
あいたっ! って悲鳴を上げるけど自業自得だ。
「フルオリフィアはケラスの花が咲くと暇あれば見てるよねー」
「そうだね」
これは素直に頷く。
わたしはこの白桃色の花が目に入ったらついつい見入ってしまう。ずっと見ていても飽きないくらい。
「そうだねって……それだけ?」
「うん」
「いや、うんって……それだけ?」
「そう」
「そうって……あ、ちょっと!」
期待していた返しではなかったのか、面白くなさそうなフロミネスちゃん。
今回みたいにケラスの花について聞かれたら、だって綺麗じゃないってそっけなく答えている。
でも、本当のところははわたしが昔いた国で春を告げる花によく似てるから。
桜。5枚の花弁で白桃色のとても綺麗で儚い花だ。品種の名前はなんでか思い出せないんだけどね。
……わたしはケラスの花越しにその桜を見ているような気になれる。
前の世界でもよく2人で花見なんかをしたっけ。
2人で近くの桜並木を通って通学したっけ。
2人で宙に舞う花弁を掴もうとしたっけ。
懐かしいな。懐かしいな。
笑いあった春の日々。毎年散り際はまたねと来年を楽しみにする。
特に一番に記憶に残っているのは最後の歳。あの日に見た桜はわたしの中で特別なものになってもっともっと好きになったんだ。
(だって、その日にわたしは――……)
大事な思い出の詰まった桜に似た花。
あの日の話は多分誰にも話すことは無いだろう。
わたしはケラスの花へと目を送ったまま先を進んだ。ずるずるとフラミネスちゃんを引きずるけど構わずに前へと向かう。
年に4回しか通ることができない里でも特別なケラスの木々の間を抜けて、わたしたちはその先の世界樹へと向かった。
◎
先に言った通り今日はわたしたちのお披露目の場である。
世界樹を背にした舞台の上で各種族の長の後ろに横一列でわたしたちは並ぶ。
鬼人族に魔人族、天人族に亜人種……各4名の総勢16名だ。みんな自信に満ち溢れた表情を浮かべている。
催し物と言ってもその種族の代表としてその手腕を見せる特別な時間だ。わたしたちの技量がその種族全体の評価に繋がるんだ。
同族からの期待を一身に受けての場。緊張の一つもしたらどうなのって思うけど、そんなのは微塵も感じられない。
もしも恥ずかしい場面を見せたら後ろ指差されて嗤われる……ってことはないとしても、やっぱり溜息が溢れるのだ。
期待に応えるためにも頑張らないとね!
◎
正午を迎え、予定通り神魂の儀はしめやかに行われた。
舞台の下には大勢の人で溢れかえっている。
今は亜人族の長がしゃがれた声で魔道具による拡声器で亜人族の可能性や未来について語っている。
亜人族の長は二足歩行した熊さんだ。立ち上がっている姿はまるでアトラクションパークのマスコットキャラクター(いや……野生の熊そのものだけど)みたいで、一度は抱きしめてみたいとも思っているのは秘密だ。
舞台の上から里の人たちの顔が見えるけど、その表情は大体同じで自分のところの長や代表じゃないと気が抜けているようにすら感じる。
わたしは逆に他の種族の話の方が興味深く聞くことが出来る。
それも天人族の長であるエネシーラ様の話は物凄く眠くなるせいだ。長4人の中でも一番の年長ってことで言葉遣いも達者で聞き取り辛い。
欠伸なんてしたら後でどうなることやら……しないけどね。ああ、フラミネスちゃんが口をもごもごと動かしてる!
『――では、各々の健闘を祈る』
亜人族の代表が一歩下がった後は司会進行の下に催し物の開始となった。
段取りとしては亜人族、鬼人族、天人族、魔人族と続く。
亜人族のメンバーは茶色のウサ耳の生えた兎の獣人の男の子。
真っ白な羽を背に持つ鳥人の女の子。
ピンと伸びた耳に真黒な毛に覆われた犬の獣人の男の子。
最後に、蝙蝠の様な羽とトカゲのような尻尾、後頭部に2つの角を生やした竜人の女の子だ。
彼らが見せるのはその恵まれた身体能力。
兎人の男の子が鳥人の女の子を、犬人の男の子が竜人の女の子を担いで宙に飛び上り、限界点まで達したら今度は羽を持つ2人の女の子が宙で男の子たちを投げるという荒業を繰り返す。
時には魔法を使って瞬間的に足場を作り蹴り上げて2回転――ふと、4人の身体が地面へと落下してあわや大惨事! ってところで風魔法で地面すれすれに回避したりと目を覆いながらも目が離せないこともある。
まるでサーカスを見ているようで、わたしを含め、見てる人たちの目を釘付けにする。
わたしは彼らの演技はとても好きだ。毎年毎年その腕を上げていく。
最後に竜人の女の子が口から火を吹いて、その火が意志を持ったように模様を作り上げたところで彼らは舞台へと着地してポーズを取った。
観客からは歓声ととめどない拍手が送られた。
わたしも力いっぱい拍手を送ろうとするけど、そこをドナくんやレドヘイルくんに挟まれて両腕を掴まれて止められた。舞台上にいる人物はみだりに動くものじゃないってことをすっかり忘れちゃう。
むにゅっ……って、おい。
……フラミネスちゃん。お前はどこを掴んでいる。わたしは胸を叩き合わせて音を出すほど器用じゃないし大きくもないぞ。
(……は、動いてた?)
(フルオリフィアが驚くとぷるぷると動いてたからめっ! って、めっ! って!)
(フラミネスちゃんどこ見てるのよ。亜人族さんたちの演技を見なさい!)
そう小声で叱って離れてもらう。
本当にもう……自分の立場のことはわかっちゃいるけど、本当ならわたしも観客席側からみたいくらいだ。
すごいものは誰であろうと褒めてもいいのにね。
続いては鬼人族の皆さん。
晴やかな衣装を着た男性3人に女の子1人の構成だ。衣装は着物に近いかな。わたしたちの恰好に似てる。
若手って言われてもわたしたちよりも歳は上だろう。背丈も頭1つ分違う。
また、珍しいことに、紅一点の女の子がこのメンバーの中でのリーダー格らしい。その子は長く白い髪の間から2本の黒い角が前頭部から飛び出ている。
男性の方は禿げ……じゃなくて、多分剃髪したつるつるの頭に太く白い1本角を生やした人。後ろで黒髪を縛った2本角の人。最後に、さらりと緑色の揺れる3本角の人だ。
彼らは舞台の上から飛び降りて観客たちの前で殺陣を行う。
反り返った片刃の剣を持って互いに斬りかかり、同時に避ける。時には素手で、殴り、受け流す。
うち1本角の男性が殺陣の最中にでも呪文を唱えたのか、土魔法を使いその場に大きな土くれをその場に生み出した。
残りの男性2人が手や足でその土塊を削り始め、いつしか、1人の顔が出来た。
今も舞台上にいる鬼人族の長の顔だ。
最後にリーダーであろう女の子がその天辺に乗って拳を振りかざして粉々に砕いた。
これが毎年彼らの演技の終わりでもある。話に聞くと先代を越えるという決意表明の意味があるそうだ。
亜人種の皆さんが見せる舞踊だとしたら、鬼人族の人たちは研ぎ澄まされた芸術だ。
彼らの演技が終わると、観客からは拍手よりも感嘆とした溜息の方が多かった。
挨拶も何もなく舞台の上に戻ってきた彼らの表情は仕方なくというか、詰まらなそうにしているのが印象的だった。
「わたしたちも行きますか!」
「おう! 俺たちの力を見せてやろうぜ!」
「張り切って! 前回以上に張り切るよ!」
「うん……僕も、がんばる!」
さてさて、続いてわたしたちの番だ。緊張する。
わたしたちは各々が得意とする魔法を混合させるというもの。
横一列に並んでその場で魔法を出していく。
まずは事前に呪文を唱え終えたドナくんの雷魔法が空中で線香花火のように閃かせる。
雷光はけたたましい音を鳴り響かせながら暴れる。ドナくんはちょっと難しい顔をしながらも、それらを纏め、不規則的だった光のきらめきは1本の管となった。
続いてレドヘイルくんとフラミネスちゃんが同時に火と水の魔法を生み出してドナくんの雷糸の後を追う。2人が魔法を行使している間にわたしの番だ。
風魔法を使ってみんなを空に飛ばして3種の魔法が荒れ狂う真ん中へと向かう。
この時期は季節風からか上空は暴風が荒れ狂う。毎年毎年よくこんな中で亜人族の皆さんは自由に飛び回れるよねって感心する。と、他人事他人事。
この暴風はわたしが操作して3人が魔法を使いやすい様に環境を整えるのだ。
ちょっと魔力を行使してこの一帯を凪へと変える。よし、じゃあ次へ!
わたしたちを中心にして雷・水・炎が暴れだす――各自で魔法を自由に操作して暴れている様子を作り出す。時にはぶつかり音を立てて、その魔法の威力を見せ付ける。
わたしも風魔法を使ってみんなの魔法の流れを補助したり操作してるんだけど、風って見えないものだからインパクトに欠けるんだよね。
(ん……あ、いいことを思い付いた! 先ほど鬼人族の人たちが使った土魔法の残りを借りよう!)
ちょっと意識を下に向けて、粉々に砕けた土を風で攫い、宙へと踊り出す。そして、特別にこれはどうかな?
わたしは金魔法を使って土くれの中に紛れた鉱物を金に変えてみる。ふふふ……成功かな! わたしの放つ風は金の粒子を運んで煌びやかなものへと変える。
おお、と里の人たちから驚きが漏れた。やった、喜んでくれて何よりだ。
あ、3人からぎょっと驚かれたけど知らんぷり。
その後も今までの練習の成果を見せつけ、最後にドナくんが雷を力強く発光させてみんなの目を眩ませる。
その間にわたしは巻き上げた全ての砂金をまた土にも戻して地面に流す。レドヘイルくんとフラミネスちゃんは水と炎をぶつけて大量の水蒸気を作らせた。
わたしはその水蒸気を風魔法で操って、空に一つあるものを作り上げる。
七色のスペクトル。虹を作り上げたんだ。
太陽光の位置もばっちり。はっきりくっきり、綺麗なアーチができた。
観客たちから亜人族さんたちに負けないほどの大きな喝采が上空にいるわたしたちに届く。よし、無事終了! 後はみんなを舞台に降ろすだけだ。
満足げにわたしはゆっくりと降下させていく――
《レティ! ぼくたち着いたよ! ユッグジールの里に着いたんだ!》
「えっ!?」
そう、突然ルイから話しかけられて、わたしは思わず魔法を解いてしまった。
わたしを含めて皆が不意の自由落下を味わって、各々舞台へと妙な姿勢で着地した。
「フル!」
「ご、ごめん!」
「もー! 最後の最後なのに!」
「……後で。挨拶」
レドヘイルくんの声にわたしたちは急ぎ立ち上がって並び直す。
そのまま4人で手をつなぎ、里の皆さんに頭を下げた。
最後の失敗を抜きにしても里の皆さんからは盛大な拍手を貰えた。でも、悔しいなあ。
わたしたちが後ろに下がると次は魔人族の番だ。
彼らは人間と同じ見た目をしてて区別をしろって言われてもちょっと難しい。魔法が使えるかってところだと思うんだけど、人との大きな違いは長生きってところかな。
わたしはこの世界に来てから人間を見たことは無いけど、彼らと区別することは出来ない、と思う。
さて、彼らは男女混合であるはずなんだけど、皆がフードで顔を覆っているため個人個人での判断は難しい。
身体の作りからして男1人、女3人……メンバーが変わっていなければ、何度か顔は合わせたことくらいはある。
今回彼らが行う出し物は金魔法と木魔法を中心に行うみたい。
1人が舞台の上に大きな魔法陣の書かれた布を敷いて、また別の1人が沢山の鉱物を持ってその舞台の上に乗せる。
それから3人目が抱えられるほどの木箱を宙へと放り投げる。それに合わせて最後の1人が魔方陣に手を置き魔法を発動。木箱は表面を突き破って植物の細い蔓が溢れ出した。
蔓の生えた木箱は食い散らかしたみたいにコナゴナになって、あとは蔓で覆われた球体へと変わり、蔓の塊は落ちる手前で舞台から現れた鉄の鋲が串刺しにした。
宙吊りになった植物へとまた他の2人が魔法をかけて植物の成長を促進。
蔓は意志を持ったみたいに動き出して触手みたいにその場をうねる。
うわ、ちょっと気持ち悪い。
ちょっと目を逸らしてルイに連絡を取ることにした。
《……ごめん。返事遅れちゃった。それと、今日はこの後、用事が入ってて今すぐには会えないんだ。多分、会えるのは日が沈んだくらいになっちゃうと思うんだけど……》
《ああ、そうなんだ。残念だな。ぼく着いたらすぐに会えると思ってた。もしかして、世界樹? のあたりで見えた魔法に関係してるの?》
《あ、見えてたんだ。まさしくそれ関係。……わたしも直ぐに駆けつけたいんだけどね……》
《わかった。残念だけど、またあとでね》
《うん、本当にごめんね。終わり次第連絡するから》
ばいばい、と連絡を終わらせる。
魔人族の演技は終盤になっていて、気が付けばあの植物の塊には先ほどまでの不気味さはまったくなく、鉄の鋲に綺麗に絡みついて色とりどりの綺麗な花が咲き乱れていた。
あの気持ち悪い触手の塊からどうなったらここまで変貌できるのかは見逃していたので全く不明だけど……。
その後、舞台には彼らが作った生け花が残り続け、最後までわたしたちの目を楽しませてくれることになった。
それを背景として閉めのお言葉を魔人族の長が行い盛大な拍手の下、神魂の儀は終わりを迎えた。
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