第26話 森の奥に潜むライオン

 戦闘終了後、僕は自分で倒した蜂の死骸を探し出し、一匹一匹その残骸に手にかざし魔力を注ぎ込む。

 “あたり”を付けて剣で切り開き、死骸の中から小さな透明の球体を取り出し水魔法でへばりついた体液を洗い流す。球体の大きさはビー玉くらいだ。

 この透明な球体は魔道具に使われるコアと呼ばれるものだ。これを冒険者ギルドに持っていくと依頼とは別に買い取ってもらえるんだ。


 魔法を使えるなら手をかざして魔力を注ぎ、反応した部分を感知すればいいけど、魔法が使えない人たちは見つかるまで解体する。まあ、種族ごとに埋まっている箇所は違うけど、大体は胴体の中心部付近が多いのでそこまで手間ではないと思う。

 時には小さな胡麻粒くらいのコアが出たり、2個持ってたりするやつもいる。……持ってないやつもいる。

 

 そういう当たり外れもあるし、面倒を嫌う人はそのままコアを取らずに死骸を放置する。そして、手付かずの荒らされていない死骸からコアを抜き取って冒険者ギルドに売る人もいたりする。僕らは……まだしてない。


 コアの価値はその大きさで決まり、大量に出没する魔物から手に入るコアは大抵小粒で安価だ。

 今手に入れたビー玉コア1個も1リット銅貨以下だろう。なので、小さなコアはまとめた重さで売値が決まる。

 塵も積もれば山となる。今回僕とルイが倒したのは13匹。全部集めて10リット銅貨くらいにはなるかな。


「おそい! とっくにぼくは集め終わってるよ!」


 ほら、とルイは7つのコアを手の平に乗せて見せてくる。う、僕より1つ多い。


「そりゃあ、足元の蜂だけ解体したら直ぐに終わるだろうよ。僕なんて真っ暗な中探さないといけなかったんだからね!」

「ばっかじゃない! シズクは無駄な動きがおおすぎ! ピョンピョンとんじゃってさ。そんなことしなくたってあの蜂はそんなに早くないよ!」

「うるさいなあ。僕はその方がやりやすいの!」

「うるさいってなに! ぼくはシズクのことを思って――」

「そこまでだ。探索する時間も限られている。このままでは朝になってしまうぞ」


 と、ついつい口喧嘩をし始めたところにイルノートが間に入ってくる。

 僕らはふんっ、て互いに顔を背けて松明を拾う。


「ふん」

「ふんだ!」


 さっきよりもちょっとだけルイとの間を空けて僕は再び前を向いた。

 更に奥へと進んでいくと、前から森の住民たちと鉢合わせする。

 まるで僕らの手に持った松明に惹かれるかのように獣たちが現れるんだ。おかしいな。普通なら避けていくはずなのに……。

 鋭い角を持った気性の荒い禿猪や、硬い爪を伸ばした牙猿、普段は温厚で争いを嫌う苔鹿など、僕らを見て驚き襲ってくるやつもいれば、距離を取って逃げるやつもいる。

 何かから逃げているようにも見える――それは目的の獲物が近くにいることを教えてくれる。

 

 ――アォオオオオオォォォ――――ン!


 甲高い遠吠えがこだまして聞こえてきた。

 目的の獲物だろうか? その声がした方へと足を向ける。

 雷の瞬動魔法を全力で使えればいいのに。暗闇の中で使うには障害物が多すぎるため、僕らが先頭を歩く時は速度を抑えながらでしか使えない。

 もう、この一帯魔法で吹き飛ばせればいいのに。そしたら、月明かりも利いて動きやすくなるのに。

 そんな不満も胸に秘め、僕らは木々の隙間を通っていく。


「――わっ!」


 と、目の前の茂みからウルフが襲い掛かってきた。

 僕の首元めがけて鋭い牙を見せる顎で噛みつこうとしたので、とっさに身を捩じらせて回避――逆に僕がウルフの首元へと剣を添えて飛びかかってきた勢いを利用して掻っ切る。背後にぼとりと首の落ちる音がした。

 ああ、おっどろいた。突然飛び出してくると危ないよ!


「出てきたぞ」


 息つく間もなくイルノートの指示するその先、ぞろぞろとウルフたちが唸り声を上げて姿を見せる。

 仲間を殺した僕は特に睨みつけられていた。

 いつ飛び出してきてもおかしくない状態だったけど、僕の目は群れの奥にいる1匹だけ毛色の違うウルフの姿を見つけた。

 そのウルフは他のやつに比べると体毛がぼさぼさに跳ねていて、身体の至るところに傷痕が走っている。そして、左右で長さは違うけど両耳が千切れて短くなっている……これが耳無しウルフだろう。

 ネズミにでも噛まれたのかな。ふと猫型ロボット誕生を思い出して笑いが込み上げてきた。

 僕らはまた松明を近くに落とし剣を構える。

 さっきの口喧嘩のことなんて忘れて僕はルイに話しかけた。


「あれが目的の獲物かな。他のウルフよりも一回りほど大きいね。持って帰るのも大変そうだ」

「うん、ぼくあんなの重くてもてないや! だからシズクがかわりにもってかえってね?」

「またまた。ルイさんなら火の活性魔法を使えば余裕ですよ!」

「うんうん。じゃあ、シズクだけで大丈夫ってことだね!」

「一緒に! 途中でかわりばんこで持っていこうね!」

「えー?」


 他愛もない会話を交えながら2人で襲い掛かってくるウルフたちに身構える。

 1匹が死に番よろしく僕らに特攻をかけ、時間差で他のウルフたちがそれに続いてくる。

 ウルフは僕らの身体と同じくらいの大きさなのにとてもすばしっこい。一度攻撃を仕掛けてきても直ぐに距離を取り、草むらへと飛び込んで姿を隠す。1匹ずつ慎重に行こう。


 僕とルイはいつしか背中合わせに立っていた。

 僕らを囲むウルフたちはどこから仕掛けてくるかわからない。後ろはルイに任せて目に入る敵だけに集中する。

 ちらりとイルノートへと視線を向けたら、先ほどと同じく木々に寄りかかっている。でも、さっきの巨大蜂とは違いウルフたちはイルノートも敵と見なしていて、3匹ほどが彼の周りを囲っていた。

 ああ、イルノートったらそんな状況で欠伸なんかしてる。こっちは大変だっていうのに……いけ、ウルフたち! 澄ましたイルノートの顔を変えてやれ! っと……僕は僕で目の前の敵に集中っと!


「はあっ!」


 右斜めから飛びかかってきたウルフに雷魔法を放ち、電撃によるダメージと感電による硬直を与える……む、意識がある。

 町の外にいたはぐれウルフは紫電を与えただけで気を失ったっていうのにな。

 森と外じゃ強さが違うってことか。続いて飛び込んできたウルフには森に被害が及ばない程度の火炎を吹き付け、疑似的な炎の壁を作って後退させた。


 飛びかかってきたウルフ対策に水魔法で作った氷の壁を作ってもいいんだけど、物理的に僕らの行動も制限されちゃう。

 防御に回るならいいけど、今はそういう時間ない。

 炎弾をぶち込んでもよかったけど、火事になるかもしれないからそれもなるべく使わないようにしないと。


 ――アォオオオォーン。


 こうして、僕らが5匹ほど倒した頃だ。相手にした数はその3倍はいたと思う。

 奥で様子を見ていた耳無しウルフが一声鳴くと仲間たちは一斉に僕らから離れて耳無しウルフの後を追って逃げ出した。


「出来ればここで倒したかったな。子供が相手だと思ってもっと迫ってくると思ったが頭が回るようだ。……報告と換金の時間を考えるとこの辺りが限界か。仕方ない、これからは私が前を走る」

「……わかったよ」

「……うん」


 ここから先はイルノートが先行してくれるらしい。

 いつの間にか3匹を倒しているイルノートの掛け声に、自分たちの力で依頼を達成できなかったことを悔しく思いながら僕らは頷いた。


「では、行くぞ。私を見失うなよ」


 今まで持っていた松明をイルノートに渡し、僕らは声も上げずにその後に続く。

 前を走るイルノートは僕らを置いていくかのように速かった。

 でも、彼はまったくと本気で走ってはいない。暗くて見落としがちな大きな石ころや、木々の枝なんかの障害物を指示しながら進んでいく。そして、支持を貰っても僕らは足元や障害物となる木々に気を取られ過ぎてしまう。少しずつ松明の灯りは遠ざかる。それでも、その光を頼りに進むしかない。

 イルノートの残した道の上をなぞるように先へと急いだ。


 ――グォォォオオオオオオ―――!!


「何この声?」


 と、突如として鳴り響いた音に急ぐ僕らの足は止まる。

 辛うじてそれが生き物の声だとわかった。野太い咆哮は先ほど聞いた耳無しウルフとは違う個体のものだ。

 その声に遅れて目印にしていた灯火が突然消えた。

 僕らは困りながらも消えた位置に行くと、木々を背にイルノートがその先のウルフたちを指さして隠れていた。僕らも近くの樹木に身を隠してその先を見届けた。


 そこは幹回りの太い大樹が構える広間となっていた。

 広間は大樹自身が伸ばす幾重もの腕が空を覆う。大樹から生える枝と枝で重なり作られた影の下には一つとして背の高い植物は生えていない。伸び切った枝の先は他の木々の枝と絡みつき、空を覆い隠してほとんど光の侵入はない。

 仄かな夜光がその場を漂う程度に視界は悪いけど、戦うには障害物もなく足場も悪くない。

 そして、この大樹を背に1匹の生物が広間に密集していた耳無しウルフたちへと威嚇していた。


「え……ウォーバン?」


 ルイが声を上げた。

 名前を借りた獣人のウォーバン。その生物を見て実は僕も同じ人物が頭に浮かんでいた。

 ただ、暗闇の中では見わけもつかなかったけど。本人でも同種の人でもないことはわかった。


「違う。ウォーバンじゃない……かといって亜人種、獣人でもない」


 その生物はウォーバンみたいな赤い波立つ鬣を持ち、暗闇でもはっきり見える白い体毛が全身を覆っている。喉を鳴らして目の前の軍勢に臆することなく四つ足で対峙するその姿は、僕が前世で見たライオンそのままだ。


「……冗談だろ? あれは、クレストライオンか?」


 ぼそりと、イルノートが珍しく戸惑った声で呟く。いや、初めて聞いたかもしれない。


「クレストライオン? 強いの?」

「あ……ああ。私も出会ったことはないが、聞いていた特徴と一致する」


 イルノートに話し掛けながら、今一度広場へと僕は視線を向ける。

 数の上では圧倒的に優っているというのに、耳無しウルフたちは尻込んでいるかのように見えた。

 だって、その獅子に負けじと唸り声を上げ返しているものの、その声色はとても弱々しく感じる。先ほど僕らに向けられたものとははっきりと違うのだから。

 その後、これまた珍しく険しい顔をしてイルノートは話を続けた。


「本来はここより南下したテイルペア大陸の奥地に生息する魔物だと聞いている。もしも、討伐依頼が来たら……最低でも紫、赤に属する敵だと思ってくれればいい」


 僕たち青段位の1つ2つ上だって?

 そんな段位の依頼はサグラントの冒険者ギルドの掲示板では滅多に貼られることはない。数か月に一度紫段位の依頼が入るかどうかだ。

 さらに言えば赤の依頼は今のところ1度も見てないし、もしも貼られたら僕らが目にする前にフロアで他の冒険者たちが騒ぐに違いない。


「そんなのがなんでこんな場所に?」

「さあな。だが、今回の依頼と関係しているんだろう。あいつが現れて縄張りを追われたウルフたちが奥から出てきた、ってところか…………見ろ、やつら動くぞ」


 耳無しウルフの指示なのか、手下のウルフたちが一斉にクレストライオン――白獅子へと飛びかかる。

 白獅子は避ける素振りを見せず、ただその攻撃を……受けた!? うわっ、痛そうっ!

 無数のウルフたちに跳びつかれた白獅子が悲鳴に近い声で鳴く。

 白獅子はその場で身体を思いっきり振るわせて、纏わりついたウルフを何匹か振り払う。が、一匹だけ白獅子に食らいついたままだった。

 更に勢いよく、白獅子は自らの身体を震わせてなんとか振り落としたその1匹へと、最後まで噛り付いていたウルフへと飛びかかり勢いに任せて前足を振り下ろす。

 鮮血が飛び散る。

 仄かな夜光に白獅子の前足が黒く染まるのが見えた。





 白獅子はその後もウルフへと威嚇し続けていた。

 近寄るな。そう言っているかのようだった。

 でも、ウルフたちは逃げることはしなかった。何度も飛びかかり、取り付かれた白獅子も振り払い、逃げそびれたウルフへと前足で薙ぐというパターンが続く。


 最初の1匹を倒したときは圧倒的と思わせるものだった。

 だけど、しばらくして、ウルフたちは白獅子に小さな傷をつけ、直ぐに離れるという攻撃に代わっていく。

 戦法が変わったことに気付いているはずなのに、白獅子は相変わらず自ら攻撃に出ることはなく集団へと喉の奥から重低音を鳴り響かせ威嚇するだけだった。


 時には逃げ遅れた何体かのウルフは白獅子の歯牙にかかり、一気に息絶えていたが勢いは止まらない。

 威嚇を受けるウルフたちは、いや、耳無しウルフはその場から退こうともせず、最初の弱腰が無かったみたいに強気になっている。

 まるで鬨の声を上げるかのようにボスが一声上げると手下のウルフは白獅子へとその身を投げ出していく。


 幾多の攻撃を受け、白獅子の咆哮は弱々しい物へと変わっていった。それでも白獅子は受け身のまま吠え続け、爪を振り上げていく。

 いつしか、白いその体毛はウルフの血とは別に自分自身の出血を伴ってまだら模様と化していた……。


「クレストライオンって強いの……?」


 イルノートに率直に聞いてみた。

 強いって聞いたから、腕の一振りで何匹もまとめて倒してしまうとか、俊敏な動きで触れさせることもできないとかそういうのを思い描いていたので、目の前の光景は僕の中で噛みあわない。まあ、その一振りで2匹3匹まとめて死んだけどさ。

 さっきから白獅子はウルフたちを追い払おうとしているだけにしか見えない。


「……あいつらの体毛は強靭で、刃物による斬撃を弱める。並の魔法すらその身に届く前に体毛が護ってくれる。腕利きの冒険者でも遭遇したら無傷では済まないし、頭に死が過る……と聞いている。しかし、目の前のクレストライオンはおかしい。の攻撃で傷を負っている。……弱っているのか?」 


 困惑した口ぶりは、どうやらイルノートも目の前の光景が信じられないというものだ。

 確かに白獅子の一撃は強い。ウルフたちがどんなに噛みついても引き裂いても倒れない。白獅子が一度でもその前脚を薙いだら殆どのウルフが大げさに避ける。

 とあるウルフなんか、掠っただけだと言うのに吹き飛ばされ、そして地面を転がり、動かなくなったくらいだ。

 ウルフたちの猛攻に比べ、白獅子の一撃はあまりにも威力が違う。

 確かに白獅子は強いんだと思う。


 でも、でもさ。

 僕らの目の前にいる白獅子はイルノートの言うクレストライオンとは程遠く感じる。

 強いとか弱いとか、そんなことは知らない。


 僕の中で生まれた思いはただ1つ。

 これじゃあ、あまりにも一方的だということだった。


「どうするの? このままあのライオンさん倒れるまで見てるの? それとも……」


 ルイが胸に掲げた剣を強く握った。顔はなんだか悲しそうに歪んでいる。

 僕も白獅子の姿は痛々しくて見ていられなかった。


「このままウルフたちに任せるんだ。終わったらすぐに飛び出して耳無しに仕掛ける」

「……わかった」


 ルイは剣を降ろした。そのまま歯を食いしばって彼らへと視線を向けた。白獅子の最期を看取るのが義務のように。

 それが今一番の安全策だって、そんなの言われなくたってわかる。


 イルノートの話が本当なら、本来の白獅子は僕らでも倒せるウルフに手こずるわけがない。

 だけど目の前では何故か知らないけど白獅子は弱っていて、そこを狙ってウルフたちが猛攻をかけている。白獅子のおかげでウルフの数も少しずつ減っていっている。だから、後は白獅子が倒れたら――。

 僕も頷く。


「……うん、倒れたらすぐに……っ……!?」


 攻撃にかかる、と言葉を紡ごうとした。

 けど、止まった。


 気のせいかもしれない。

 白獅子と視線が合った……ような気がする。

 たまたま顔を上げた先が僕らのいた場所だったのかもしれない。

 暗くて目の位置もおぼろげだし、表情なんてまったくと見えない……けど、暗闇の中にきらりと輝く黄色の何か――瞳が僕らの方を見たような気がしたんだ。


 多分、僕たちのことは気が付いているはずだ。

 耳無しウルフが時折こちらを見ていたんだ。白獅子も僕たちに気付いているはずだ。

 ただ、その眼差しは僕らも敵として見ているはずだけど……気のせいだと思うけど、助けを求めているようにも感じた。


「シズク……」


 ルイが僕を見た。僕もルイを見た。

 辛いのは白獅子なのに、その辛さを分け与えられたかのような表情でルイが僕を見ていた。

 僕は頷き、イルノートに聞いた。


「ねえ、イルノート」

「だめだ」


 でも、言う。


「……クレストライオン助けちゃダメ?」

「何を言ってるんだ? ウルフたちに任せておけ」

「ぼくも助けたい! あれ卑怯だよ!」

「野生の世界にそんな言葉は無い。弱ければ死ぬ。ただそれだけだ。あいつはもともと強かったはずだ。そのため弱かったウルフたちも自分たちの住処を追われた。でも、今は何故か弱っている。そこを付け込まれたあいつが悪い」

「何か事情があるんだよ!」

「魔物に事情もクソもあるか」

「お願いだよ、イルノート。あのまま見ているのは辛いんだ。知っているでしょ。抵抗もできない暴力に耐えることがどれだけ辛いことか」


 その話を知っているのは僕とイルノートだけだ。

 イルノートには伝わったみたいで彼の口が強く結ばれるのが見えた。ルイも、ふと眉を顰めたのが見えた……。

 ルイにはその全容は教えてないけど、もしかしたらうすうす気が付いているのかもしれない。

 出来ればあの晩起こったことは知らないでいてほしい。


「……それを言うか」

「言うよ。だって――」


 ――白獅子の姿がまるで僕自身に思えてきたんだから。


 でも、「だって」の続きは僕の口から出ることは無かった。

 今までどんなに猛攻を受けても怯まずに立ち尽くしていた白獅子ががくりと、よろけるのが見えたんだ。

 チャンスとばかりに耳無しウルフ自身が前に出て白獅子に食らい付く。悲鳴を上げる白獅子。

 駄目だ。もう見てられない!


「イルノート!」

「ああっ! もう知らん! 助けた途端にクレストライオンに背中から襲われても私は助けないからな!」

「「うん!」」


 許可は得た!

 僕らは同時に頷き木陰から飛び出す。

 ついに動いたかと耳無しウルフも直ぐに僕らへと牙を向き変える。集団がすぐさま白獅子から飛びのいて扇状に僕らに詰め寄った。


 横たわる白獅子が立ち上がることは無かった。それを見越してか、集団は先に僕らを倒すことに決めたみたいだ。白獅子から離れる耳無しウルフの息は荒い。

 動物にも興奮して周りが見えないことがあるんだろうか。

 それともクレストライオンっていう自分よりも強い敵を追いつめたことで自信でも持ったのか、僕らへ向ける気迫は先ほど対面した時とは別のものだ。

 相手の出方を探っているような動きも、今は完全に獲物をしとめることを専念したかのような構えを取っている。


「いいか。何度も言うが、私は手を出さないからな。お前たちが選んだことだ。最後までやり通せ!」

「うん!」

「当たり前!」


 そんなの、言われなくたってわかってるさ!

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