2日目

 神奈は、予定時間よりも10分早く目的地についた。

「あら、おはよう。こんなに朝早くからどうしたの」

「新しい仕事が入ったんだ。」

神奈は、殺人専門の警部だった。特殊ではあるが、その職が彼にとっては当たり前だった。

最近は事件がなく、暇だった。人が死ぬことは悲しいいことなのは分かっているが、仕事が来て嬉しい。その思いがわかるぐらい、抑揚のついた声だった。

「それはよかったわね。」

「パパ、どこ行くの?」

「仕事だよ。」

『仕事』という声をきいてから最近できたばかりの赤ん坊が泣いた。

「こんなにちっちゃいうちから、寂しさを感じているのかしら」

「かもな、行ってくる」

「いってらっしゃい」

今朝の出来事に思いふけっていると、羽場は昨日の曲がり角から顔を見せた。

「警部さん、おはようございます!!」

20歳を過ぎてるにしては元気いっぱいの声だ。

「おはよう。今日も頑張ろうな。」

2人は駅を出発し、すぐに道に迷ってしまった。どうやら、最近たったばかりの真新しい電柱を曲がらなければいけないところを間違えて一つ前の電柱を渡ってしまったらしい。

「地図を見て歩いているのに、間違えるとは、、、

方向音痴がすぎるなぁ」

「なになに、若者よ。迷うだけマシじゃ。わしはどこに行こうとするのかを忘れるからな。」

神奈と羽場は少し頭が弱いらしい。ふたりとも他人任せなところがあったので、近辺についてはあまり詳しくない。それでもおかしなもんだ。人は10分もしてくると、その道になれはじめるんだから。

「にしても金持ちの考えてることはわからんな。こんなに立地がわりぃ場所にこんな家を建てるとは。」

伊藤家の家は誰が見ても金持ちとわかるほどデカかった。対し、神奈は特別貧乏でも金持ちでもなく普通の家だった。2年ほど前にローンで家を買ったばかりだ。

「美しい景色を見たかったとかは?」

「あの場所は山奥で周りが木だらけだ。」

「じゃあ、ほんとになんのために?」

また一つ疑問が増えたところで家についた。今日の警備員は昨日とは違うんなぁと羽場は思いながら玄関をあける。

「おじゃましまぁす、、、」

今日は殺人が実際にあった部屋であるので、ふたりとも緊張気味だ。でも、やはり人の性なのだろう。ピアノを見るなり羽場は飛びつき、神奈は少し遅れながら絵画を見に行った。

「やっぱ、黒なんねぇや」

昨日と同じくどれだけピアノを弾いても黒がならない。2日連続でならないならそういう壊れ方をしたんだろう。10分ほど弾いてから神奈のところに行った。神奈は昨日はあれほどじっくり見ていた絵画を今日は水のようにみていく。昨日は立って見ていたのに、今日は座っている。不思議な感じだ。

「警部、早く行きましょ、、、」

重たい腰をあげ、彼らは廊下を歩いた。

ドアを開けた瞬間、目を疑う光景があったのだ。ドラマで見るような黄色いテープは貼られていない。死体はそのまま放置されている。

「ここの警察さんたちは仕事サボってんのかよ」

羽場は声を荒らげながら警部に怒鳴った。怒鳴るのもしかたないだろう。伊藤家が死んでから3日もたっているのだから。

「違う。ほかにも家があるからそれを解決してからなんだ」

「なんでだよ。最初にやることは死体の片付けだろ。このまちの警察はたくさんいんじゃねぇかよ。」

苛立った羽場は正しい判断なんかもうできない。

居ても立っても居られなくなり、玄関をあけ羽場はきた道を帰った。


それにしても、匂い一つしないとは変ないえだな。


防犯カメラの前を通る際、羽場はそんなことを考えた。

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