1日目
羽場は目を閉じ考えていた。
時は5月20日。場所は伊藤邸。
殺人現場は普通入れないのだが、葵の協力もあり、すんなり入ることができた。一緒に神奈警部もついてきてる。神奈警部は、仕事の出来はともかく性格が悪いと評判だ。
羽場は『お金持ち』というブランドが嫌いだ。そのブランドがあるだけで、チヤホヤされもてはやされるからだ。もう一つ、大きな理由があるが羽場はそれ以外に理由がないと思っていた。葵にあんなことを行った手前、引くに引けなかった。
見たこともないような邸宅をみてまわる。大きいシャンデリア、しなやかさを魅せたい絨毯、ズシンという音がしそうなほどにそびえ立っているピアノ。ここが殺人現場であるということを忘れ、羽場ははしゃぎまくっていた。いくら、そのブランドが嫌いといえど見たことないものだらけだ。興奮するであろう。ピアノが多少できた羽場。椅子に座りながら好きな曲を奏でる。誰もが聴き入ってしまうような音ではないが、弾けただけで満足だ。それにしてもこのピアノは壊れているのか。白い鍵盤は全てひけるが、黒は全滅だ。そんな変な壊れ方をするものだろうか。不思議に思いながらその場をあとにした。
彼らは、長い廊下の道中にあるアトリエ室に入った。数々の絵画ある。絵画に興味のある神奈警部は感心した。1つの作品に5分ほど時間をかけながらゆっくりと見て回った。
「警部、その絵がお好きなんですか?」
「ああ、この絵はいいぞ。想像力が駆り立てられる。どうだ、お前も3秒目を瞑ってからみてみろ。」
「そうですか!また、いつかの機会に。」
そんなことを話していながら、アトリエ室をあとにした。
(おかしいな、この家に来たことはないはずなのに俺はこの家の間取りをしってるぞ。)
羽場はあたりを見回しながら、そんなことを思っていた。
「この家に来る途中に散々迷ったのに、家の中じゃ迷わねぇんだな、お前。」
性格が悪いと評判な神奈警部にしては、柔らかい声だった。確かにそうだ。駅からこの邸宅に来る最中、地図の読み間違えや曲がり角の間違えで何度も迷った。それなのに、もっと入り組んでるはずのこの邸宅では一度も迷わない。それがなぜなのか、彼はわかっていない。
羽場は殺人現場に来たはずなのに、現場を何も見ずに歩いて次の部屋へ行こうとした。
「おい、殺人があった部屋はこっちだ。どこに行こうとしている?」
呆れ顔で神奈警部が言った。そんなこともお構いなしに羽場は長い廊下を歩いた。
羽場がついた先はトイレだった。なるほど、尿意を感じたのか。しかし、まずい。いくら許可があったとしても、現場をあらすのはよくない。
「羽場、トイレに行きたいならそう言え。今日はもう時間だ。駅のトイレで我慢しろ」
現場を見せてくれるのが暮れの5時までの約束だった。さっきは3時をさしていた時計が今はもう4時半を指している。
彼らはその邸宅を退いた。
「お前どこの家に帰るんだ?」
羽場は少し考え
「元いた家に帰るよ。」
と、微笑んだ。
「警部さんはどちらへ?」
「俺は家族のいる家へ。」
「家族がいるっていいですね。」
「お前はいないのか?」
「えぇ。」
「そっか、、、また明日。今日の駅で!」
少し落ち着いたような、怯えような声で話しそそくさと帰っていった。
なぜ神奈警部がそんなことを羽場にきくのか、
羽場はなぜそう答えたのか、わかるまであと
6日。
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