第二話 クルト=クルーソーその2

 君たち諸君は告白される前ってどんな感じになる?

どーせ諸君らのことだからさ、わくわくテカテカしちゃってさぁ

授業とかまともに受けられないじゃない?

今後の関係とか付き合ってもないのに考えちゃってさ

ドキドキで胸いっぱいになっちゃうんじゃない?


 まあ当然僕は違うけど。

確定演出来たときはさすがにどっきどきのばっくんばっくんで尻から心臓漏らしちゃうかと思ったけどさ。

ちょっと時間がたてばもう余裕ですよ。鼓動は一定テンポをキープしてる。

その音は静寂そのもの。不整脈の疑いなんて1ミクロンもない。

授業だって鼻歌交じりに受けれるぜ。

 なんてことを脳内ひとりごとでぺちゃくちゃしゃべっていると、


「えーこの魔術式は今はなき初代勇者様のものでな、かなり特徴的で良く取り上げられるのだ。そうだな、出席番号7番、クルト・クルーソー。

この術式にはどういった特徴がある?答えてみよ。」


 教頭から質問がかかってくる。

ちょうど今は教頭が担任の魔術式概論の時間。

この授業は人の身体のどこかに書かれている魔術式の仕組みを理解することで

魔術の本質をつかむ授業だ。


 僕は教科書を見て確認する。ッフ、こんなの簡単すぎる。赤子の手をひねるどころか赤子を泣き止ますくらい簡単なことさ。


 僕は席を立ち、クラス全員に聞こえる声で言った。


「艶やか銀の髪。それをツインテールで結ぶなんて美しい以外に返答のしようがない。それにまるで白鳥が優雅に泳いでいそうな綺麗な湖のような青い目。

あんな澄んだ色を僕は見たことない。あの頬だってそうさ。

まるで雪のようなーー」


「私はお前に、魔術式の特徴を言えといったんだ。

誰がお前の理想の女性像を語れといった!?いい加減にしろ!?」


 僕は廊下に出された。

……僕は気づかぬうちに告白してきた彼女のことを語ってしまっていたらしい。

これでは諸君らと何も変わらないな。

結局、冷静ぶってはいるが僕も緊張している、ということか。

僕はこの時間を廊下で一人、気持ちを静めるのに使った。



 僕はいっつも思うのだが説教とは必要だろうか。

説教には具体的には二つの意味がある。

1つ目は教訓を長々と聞き飽きるほどに言ってくること。後は、かた苦しい話や小言をグチグチと言ってくることだ。

2つ目は 経典や教義をわかりやすく、丁寧にしっかり、エレガントに説き、人々を教え導くことだ。

近頃のやつは主に1つ目だ。こっちはもうとっくに昔に猛省して心を入れ替えているというに教師どもは何度何度も同じ事にたいして説教をたれるのだ。

しまいにはそのときの服装、日頃の態度とかに話が移ってさ、次いで感覚でしかられるんだ。最初の話と全く関係ないというのに。


 だから僕も、最初だけ話を聞いて後はただのイエスマンになっていた。

適度なタイミングで謝罪し、肯定の意の頷きを入れる。

ついでに先生の頭の生え際も見てみる。割とストレスがたまっているんだろう。

ちょっとはげてきている。可哀想に。


 そんなこんなで、放課後20分ほど足止めを食らっていた。

つまりは約束の時間から20分の遅刻ということだ。

だが、問題ない。冷静な僕はこんなことでは焦らない。

ただの約束事なら失礼に値するが、今回は別だ。

これから告白をする相手は今、酷く緊張しているだろう。

だから敢えて、落ち着く時間を作ってやるのさ。


 いつだってもてる男っていうのは気遣いができる者だ。

つまりはそういうことさ。


 僕は荷物を整理した後、目的の場所に一直線で向かう。

数分ほど歩いて目的地に着くと、予想通り彼女はいた。

彼女はこちらに気づくとビクッと体を強張らせた。

どうやらまだ緊張してるみたいだ。女の子に恥をかかせるなんて

男して失格だ。ここはリードしてあげよう。


「ごめん。ちょっと先生に捕まっちゃってさ。待った?」

今僕ができる最上級の爽やかスマイルで語りかける


「え、えと、だ、大丈夫です。今来たばっかりですから。」


待ち合わせあるあるの相手に気を遣わせない為の一言だな。素晴らしい。

見た目も美少女で中身も完璧とか、もしかして今僕の目の前にいるのは天使なんだろうか?

 もう待ちきれなくなった。話を進めてしまおう。

「それで、なんで僕を呼び出したのかな?しかもこんなところに。」


 僕の言葉を聞いて下を向く彼女、しかし意を決したのだろう。

息を吸って顔を上げ、僕の目を見て彼女はーー


「そうです。わ、私は貴方とーー」

来た。僕の興奮はマックスだった。もう止められなかった。

彼女の言葉にかぶせるように僕はーー


「パーティーメンバーを組みたいんです!」彼女は言った。

「付き合いたいだって!?ええ、もちろんはいでございますよええ!

この瞬間を何度待ちわびたことか。ついについに来ましたよ。

僕の時代がねっ!」僕は言った。

そして互いに脳内にクエスチョンマークが浮かんだ。

僕らはそれを言葉にした。


「『ええーと、いまなんと?」』 


気持ちいいくらいにハモった。




「つまるこというをいうとだね。君はぼくのことが好きではないと?惚れてないと?」

お互いの発言を擦れ合わした結果、出た結論はこれだった。


「はい、そうですけど。え、えーとそれでパーティーメンバーなってくれるんですか?」

彼女の回答はこれだ。oh,ジーザス.神なんていなかったのかちくせう。

明日からまたシスターにちやほやされている神を妬む生活の始まりだ。

僕の思考はお先真っ暗になっていた。もう駄目だ。僕なんてどうせこれからずーっと

彼女なんて存在からは遠く離れたデストピア、暗黒郷で一人静かに暮らすんだ。

まっくろくろすけが出てきてもどこにいるのか分からなくなるほど

真っ暗などうしようもない脳みそになっていく。

しまいにはボッチを極めてボッチーになって世界征服してやるぅぅ、みたいな

糞中二病死ねよ的な考えに至るほどだ。

 だがそこに、一筋の光が差し込んだ。

パーティーメンバー?目の前の美少女と、二人っきりで?

……どうやら、俺の時代はまだ終わっちゃいないらしい。

まだだ。まだワンチャンある。まだいけるぞぉぉぉぉぉぉ!

 思考を現実に戻し、食い気味に返答する。


「是非!是非!是非ともこのクルト・クルーソーめをパーティーメンバーに

してください!何が何でもお役に立ちますが故!」


俺はエンジン全開でそう返した。なんか相手は引いてた。


「そ、そうですか。では明日事務室に互いのプリントに名前を記入の上

提出という事で。では、私は用事あるのでこのあたりで。」


「え、あのよろしければそこのこじゃれた喫茶店でカフェでもーー」


そういうと彼女は俺の発言が聞こえてないかのような足取りでそそくさと

その場を立ち去った。


くそ!喫茶店にでも誘って好感度を上げておく俺に作戦がぁぁぁぁ!?





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