それいけ!落ちこぼれーズ!
鯖の水煮大好き
第一話 落ちこぼれその1、その名はクルト=クルーソー
ランクルヴェルディ王立魔術学院。
アルクスライト王国の由緒正しき魔術学院に中の一つであり、
ここを卒業できれば将来は安泰とまで言われている一流学校である。
しかし、その門は、割とオープンに開かれており授業料もそんなに高くない。
なので、王族や貴族だけでなく平民の身分で通うものも少なくなく
事実、成り上がりたいのならばまずここに入れ!というのが
平民の中の常識である。
が、しかし。物事そんなうまくいかない。入るのは簡単、では出るのは?
答えはその卒業率を見れば分かる。
三年間の学院生活を送られたものはなんとわずか20%しかいないのだ。
まず二年次進級で70%しか残らない
三年次には半数を切り
そして卒業試験で20%に落ち着くのだ。
この学校は罠だ。金を取るだけとって進級条件に満たさなければ
速攻退学。安い授業料と約束されたゴールを餌に
寄ってきた獲物を徐々に苦しめる。
ではなぜそんなにも卒業、進級が厳しいのか。
無論、先にも話したように卒業後は順風満帆な人生が約束されているからというのもある。だが一番の理由は……卒業次の主席、次席、三席に与えられた
アルクスライト王国騎士団入団の推薦権にある。
アルクスライト王国騎士団。市民からの人望も厚い素晴らしい騎士団だ。
事件が起きれば、風の音ともに颯爽と現れ瞬く間に問題解決。
魔物が現れたときは、騎士団総出で出動しこれまで幾度となくこの国の危機を
救ってきた。そんな素晴らしいチョビリチョビリグな騎士団に入ることが
出来れば、その家庭は隣の家から三丁目先の山田さんとまで話が広がり
奥様方の井戸端会議ではその話で持ちきり、
武功なんて立てようものならもうそれはすごい事になる。
周りからは英雄視、女なんて欲しくなくたって両手で収まらないくらい寄ってくる。
もうハーレムですよ、ハーレム。やりたい放題ですよ。
いやーなりたいね。王国騎士団。富と名誉と女。
成り上がりの三拍子が揃った完全無欠、空前絶後の騎士団。
まあそんな感じで、このアルクスライト魔術学院は成り立っている。
そして、そんな学院の二年生(といってもなったばかりかつギリギリで進級できた)
であるこの僕、クルト=クルーソー、17歳童貞は非常にピンチでやばぁい状態に瀕していた。
午前の授業を受け終わり、現在は昼休みもといランチタイム。
僕は自席にて朝のホームルームに配られた紙を見て頭を抱えていた。
紙には、「二年次進級におけるパーティー再編成について」と書かれていた。
僕の元パーティーメンバー、コン=ロリーとターイヘン=シンシが退学させられてしまったため、ひとりぼっちになってしまっていたのである。
風の噂によればあやつらまだ成人してない青臭い少年の身のくせに
例のイケナイお店にいこうとしていたところが見つかりそれが決定打になったらしい。ちなみに発見者は教頭先生だとか。……おい教頭おまえも同犯だろ。
まあそんなこんなでボチッチーになってしまった僕であるが日常
生活にはさほど影響はない。……そう。日常生活にはね。
話を戻そう、そう僕がいま直面している問題とはズバリ、
「パーティーメンバーいないよこのままだとぼっちの王ボッチーに覚醒してしまうよぉ」である。
我が学校、ランクルヴェンディ学術王立魔術学院は学院生徒同士でパーティーを
組むことを強く推奨している。何故か?
それは冒険者として活動することで進級に必要なランクルヴェンディポイント、
通称ラヴポイントが稼げるからである。
具体的に言うと、魔物一体討伐につき5ポイント的な感じである。
なんとこれ、パーティーメンバーが倒した分も自分に加算されるのである。
仲間同士の喧嘩、乱闘の防止、また将来冒険者になったときのパーティーで行動するのシミュレーション。社会性向上云々かんぬん。
いろいろと理由はあるがなんにしてもぼっちには生きにくいシステムであるのだ。
紙をよく見るとパーティーを組んでいない生徒が一覧になって書いてある。
計15人ほど、二学年の全生徒数が確か200人くらい。相当少ないな。
さらに目をこらしてみる。……女子は5人そのうち美少女は二人。
どうせ組むならかわいい子と相場は決まっている。男なら誰だってそうする、だから僕もそうするだけだ。二人に目星をつけ顔写真をじっと見つめる。
一人は知らない顔だ。転入生か?そして、もう一人はーー
そこでなにやら視線を感じ紙から目を離す。
教室の扉を見ると一人の少女がなんというかもじもじしてこちらを見ていた。
僕は周囲を見渡す、人はいない。少女と目を合わせ自分に指を指してみる。
少女は首を縦に振った。……これはもしや。
早めに鼓動する心臓とは裏腹に僕は至って冷静な感じを装い扉に向かう。
少女は何か言いたげにしているが顔を赤くするばかりでこちらに話しかけては来ない。この反応……おやおやおやぁ?
ここは親切さをアピールするために僕から動こう。
「えっと……僕に何か用かな?」
少女が意を決したような表情で口を一所懸命動かす
「あ、あの、えっと、そ、その……」
心臓がかなりのアップテンポを刻んでいる。
落ち着け、落ち着け僕。冷静に、だ。自分を慰めた後の悟りの時間くらい落ち着け。まだ慌てる時間じゃない。まだ5割、確定演出が来るまで期待しては駄目だ。
そしてーー
「その、ほ、放課後。魔術修練場の裏側に来てくれますか?」
ああ、神を。ついにですか。ついにこのときが来てしまいましたね。
放課後の魔術修練場の裏。その名もーー告白イベント確定演出。
間違いない、間違いなくこの子は僕に惚れていてそして意を決して
今日、告白してくるつもりだ。
ああ、長かった、長い辛抱だった。来る日も来る日も
女子が自分の方角にくれば緊張し、自分に用があるのかと期待していた。
なにか男女の集まりがあるときはあらゆる要件をはねて参加し出来るだけ
女子とお近づきになろうとしていたあの涙ぐるしい努力。
もう、しなくていいんだ。もう、胸を張って
友達からの「おまえ、もしかしてまだ童貞なの?まじうけんだけどー」
の返しに「は、はあぁ!?ど、童貞ちゃうわ!?こ、こちとらピッチピッチのヤリチンだからなこのやろー!」
なんて、返さなくて済むのか。……まあそんな非童貞の男友達いないんだけどな。
まあなんにしても、今日をもって僕は生まれ変わるのだ。
神様、感謝します。<どうせいないんだろこのペテン野郎。僕も神になってかわいいシスターにチヤホヤされてー>、とかもう言いません。
僕は全力のスマイルで「分かったよ。放課後ね。」と返した。
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