第2話 本当の異世界
何もない空間、足元も吸い込まれそうな純白。胸に穴を開けた焦燥と理不尽、そして――僕が死んだという事実をこのモノに教えられた。
身長はゆうに2メートルを超える巨体をこれまた空間と同じ純白のマントで包んでいる。顔は布で脳天から顎の先まで隠され、まったく呼吸の音もしない。
「死んでしまったのは大変残念なことです。でもあなたは特別なんですよ」
男性的、女性的どちらとも形容し難い声である。
だがそんなことを言われても意味がない。僕は死んだ。これ以上何もすることができない、夢を追い続けそして実現することができなくなってしまった人間だ。人間にとって死は避けられないことであり、僕はそれが早かっただけなのだ。
「そんなこと……」
その瞬間に
「大丈夫ですよ、蓮太さんが考えていることはすべてわかるので。聞いて理解してくれればいいです……私、神なので」
そんな気がしていたが、こうも言われるとそこまで驚かない。死んだ後も
まだ自分の意志があることも驚くべきことだが。
「いきなりなんですけれど、あなたには異世界に行ってもらいます」
ほとんど意味が分からない状況でこんなことを言われると、もう頭がショートしてしまいそうだ。
「やっぱりその反応でしたか」
ゆっくり一つずつ頭で咀嚼し飲み込んだ。
僕は死んでしまって異世界に行くことになった。現実実のげの字もない。
「わかりましたけど、なんで転生するんですか?」
顔も見えないし、声にも抑揚が存在しない奴の顔が少し変わった気がした。けど本当に気のせいだったのかもしれない。
「それは教えることができません、でも今だけ大切なことを教えてあげますね」
長い長い説明から始まった話はようやくまとまった。
「あなたを始めとする多くの人間は『世界』という言葉を地球上の全てのものと捉えて使っていますよね。しかし、それは間違っているんです。だって世界という物は、一つの道筋の単位でしかないんですから」
「えっとつまり……」
「だからあなたが転生するのは本当の異世界――パラレルワールドなんです」
なるほど、あったかもしれない世界――確かに異世界だ。
つまり同じ空間には存在せず、まったく異なる時間軸に僕は転生するということらしい。
「理解したようですね」
そして奴は指をパチンと鳴らすと僕を異世界に飛ばした。
火野蓮太を転生させ、白装束の者はあの日の彼を思い出していた。
愛する者を失い、生きる意味を失ったあの人間を――そして遠い世界にいる彼にこう囁いた。
「レンタさん、約束は、守りましたよ」
一切の感情、感覚がない神が囁いたのだ。
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