これが本当の異世界ってマ?
猫園いちょう
第1話 僕――火野蓮太
僕は今女子と付き合っている。こんな事実だけでも世の中の非リアという輩に敵対視される。それでも僕は言う心から、「君を愛している」そしてこう付け足す、――たとえ、どんな世界であろうとも――
放課後の部活が終わり、今日もお世話になった竹刀と道着をそれぞれのバッグに入れる。「お疲れさまでした」外部コーチにいまやただの作業と化している一言を言い、最後に一礼して道場を後にした。強豪校の練習でクタクタの体を動かし、彼女のもとへ向かう。彼女と僕は高2に進級したのを機に付き合い始めた。といっても僕は普通のコースに、彼女は進学コースに在籍しているため一緒に帰ることができるのはこの金曜日だけだ。歩いて行くと彼女の姿が目の端に映る――軽く咳払いをし話しかける。
「瑠璃ごめん、待った?」
「ううん、そんなに待ってないよ」
「そっか……、じゃあ帰ろうか」
「うん」
校門からそこそこ歩いた場所で学ランを脱ぎ、ワイシャツになって歩く。瑠璃の髪は風でなびき、一本一本が夕日で輝いている。
「最近部活大変なんじゃない?」
「まあ、大会も近いからね明日明後日も部活入ってるかな」
「そうなんだ、蓮太は大変だね」
そう僕の顔を見ながら言う。しかし彼女の顔も先週よりも疲れているし、目のクマもより濃くなっている。
「お前も大変だろずっと勉強って、少しだけ肩の力抜いたってバチあたんないから、ちゃんと休めよ」
「そうかな、私ももうちょい出来がよければいいのにな」
「いやいや、瑠璃の努力は絶対報われるって!僕は信じてるから!」
つい大きな声言ってしまったが、
「ありがとう」
少し笑みを浮かべた。瑠璃を慰めたいという思いと、希望に合わせた僕の言葉はどうやら上手く働いたようだ。光が当たっていなかった睫毛も綺麗な茶色に見えるようになった。
「あ、もう交差点だね。」
この交差点をまっすぐ行ったのが僕の家。瑠璃の家は左を結構進んだ場所にある。
「じゃあまた月曜な。瑠璃」
そう言って進もうとした時、瑠璃に肩を叩かれ振り向くと僕の目を見つめていた。
彼女の後ろに夕日が来て、きらきらと輝いている。吸い込まれるように僕も彼女の目を見つめていた。
「大会、頑張ってね」
いたって普通の応援。しかし愛している人からの言葉は、重い。
まだまだ本番まで長いと言ってはいけないと思うが、まだ二週間あるのにこの言葉をもらうということは――
「ありがとう。絶対に勝つから」
顔に力を入れてそう言って別れ、僕たちはそれぞれの目標を据え帰宅するのであった。
夕食を食べる。風呂に入る。ストレッチをする。いつもの習慣を終え、明日からの予定を頭で確認する。
明日は学校で一日近畿の強豪校との練習試合。明後日はオフとなっているが実際のところは土曜日の反省会である。とため息をつきたくなるものだ。
しかし、僕は――「大会、頑張ってね」――この言葉を裏切るわけにはいかないのだ。そして、瑠璃がこの言葉をまだ早い時期に言った理由は、彼女も今回の大会を意識せざるをおえないのだろう。
僕に学力はない。それでも彼女との時間を確保するには進学が最善の方法であるのは間違いない。やはり推薦を狙うならば大会で良い結果を残す必要があり、その為にも限られた時間を有効に使わなければならない。
学校生活を部活に注いだ、努力しても勝つことができなかった、期待を裏切り続けた僕はなんともしても――
「勝たなきゃ」
魂を声にし、心臓の音を聞きながら夢へと落ちていった。
過酷な土日が明けた月曜日、朝練をしに道場に向かう。一番の来たつもりだったが先客がいた。
少し黒い肌、防具はつけないで竹刀を一心不乱に振る目じりが鋭い整った顔立ちの三年生――親友である豊間雄二がいた。
音で気づいているだろうし、僕も雄二と同じ格好になりアップをし、竹刀を持って近くに行く。
どうやらセットが終わったようでこちらに話かけてきた。
「蓮太最近調子いいじゃん。自信ついてきたろ?」
「まあまあかな。勝てる試合も増えてきたけど、たまに危ないときあるし」
「ま、俺はそれが聞けて安心したかな。お前が調子に乗ると大抵どん底まで行くからな」
「おいおいそれは高2の春だろ、あんま思い出させないでくれよ……。お前だって一時期調子乗りすぎて先輩達に目付けられてたじゃん」
「おまっ、そっちこそやめてくれよ……」
軽口を叩きあいながら思い出話をする。こんなことが三年生になって増えたと思う。雄二はノリがいい奴で、僕はそれほどなのだが。
「さて、再開っすかな」
「なんだまだあったのか」
「おう」
再び竹刀を振り始める雄二の隣で僕も素振りを開始した。腕に意識を集中し一定のリズムをキープし振り続ける。
体感で15分ほど経ったころに、顧問先生や外部コーチが来て朝練が始まった。
日常は続く、こうやって親友と仲間たちと夢を目指し、恋人ととの日常が続く――はずだった。けれど、僕に向けられていたすべての期待を最悪の形で裏切ってしまった。
火野蓮太 17歳 高校三年生 交通事故により死亡
――……――
魂が消えた。
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