第6章「逃亡」
「逃亡」1
第6章「逃亡」
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北西県伯・
負傷者も100に迫り、攻略に参加した800のうちの4割近くが死傷した計算となった。
失敗の責任は誰かが取らなければならない。
そして、その責任は当然、作戦を立案した県伯自身であるべきだ。
そんな思いを口にした
「どうされるのですか?」
尋ねる
県の官僚である
そこにいるのは晨鏡、
食堂では会話が
「どうする、と言われても…」
県伯は幕僚といったが、それがいかなる意味を持つにせよ、元より県伯に晨鏡を配下に加える権限はない。
郷主相談役という名目で郷に飛ばされているとはいえ、晨鏡は身分的には「州の役人」であって、晨鏡に異動を命じられるのは州侯だけでしかないからだ。
そのことを説明し、口にする。
「州城へ行くべきか…」
中央郷北西支城から州城までは馬で5日。州城で過ごす時間を考えると、往復で11日。郷城まで戻るとなると、2週間かかると考えてよいだろう。
その間、県伯はどう動くだろうか。
兵を集めると言っていた。郷にも動員をかけるだろうか。あの言い様だと県伯は「私兵」を集めようとしているのかもしれない。自分の軍隊を作ろうとしているのかもしれない。
「徴兵は制度上認められていない。集めるとしたら『募集』するしかないが、軍隊を作るとなれば莫大な費用がかかる」
晨鏡の説明に3人が頷く。
非常事態を口実に強制的に集めようと思えば可能なのかもしれないが、そのようなやり方は反発を招くだけだろう。
となれば、人を集めるには金を使う必要がある。
金で人を集め、身体能力の優れた者を選抜し、新たな制度としての軍隊を作る。
その費用はどれくらいだろうか。
どこにその金があるのだろうか。
その前に、と晨鏡は思う。
徴兵ではなく
州侯の許可があればよいのか。それすら分からないが、それ以前に県伯は、州侯を軽んじているようにも見えた。
「州侯に何かあったのだろうか」
疑問を口にする。
州城の様子も州侯の動静も気になる。
気になるが、それ以上に郷を長期間空けることもまた気になる。
郷で過ごした時間は短いが、ここ数週間の出来事が、晨鏡に深泉郷に対する愛着を深めさせている。
県伯の思い通りにさせてはならない。説明はつかないが、そんな気がしてたまらない。
「私が州城に行ってもよろしいですか?晨鏡様は郷にお戻りになっていただき、私が州城に行くというのは…」
冬壱が提案する。
悪くない申し出だが、情報収集と考えると適任といえるだろうか。
「冬壱さんは、州城になにか
晨鏡が尋ねる。年下でもあり、立場も違うのだから、敬語は要らないと冬壱は晨鏡に言っているが、作良たちほど冬壱と親しくなかった晨鏡としては、そう簡単に作良や南信に対するようには話せない。
「いえ、伝手はありませんが…」
「おれも州城は…」
南信も残念そうに言う。
やはり晨鏡が自身で行くべきか。
そこに孔鶴が助け舟を出す。
「支城に来る前、州城で修業をしていたことがある」
生まれは北部州西部県だった、と孔鶴は言う。冬壱と同じく建築職人の家に生まれたが、上に兄が2人いたため、15歳の時に家を出て州城へ向かったという。
仕事が欲しかったこともあるが、州城で技術を磨きたかった。そう孔鶴は話した。
「その時に世話になった親方が、州城の建築組合の役員になっている。どっかの地区の支部長だとも聞いている。親方に聞けば、何か分かるかもしれない」
職人や商人の組合は独自の情報網を持っている。
「冬壱が行くというなら、親方に手紙を書いてもいい。十何年会っていないが、連絡を取っていないわけじゃないからな。支城の職人の世話を頼んだこともある。きっと良くしてくれるだろう」
目を合わせ、晨鏡と冬壱が頷く。
「それはありがたい。冬壱さん、それならば、お願いしてもよろしいですか?」
「勿論です。どんな情報が必要か、きっちり教えていただければ」
晨鏡がもう一度頷く。
「州城は広い。迷うと悪い。
試すような孔鶴の視線に冬壱が不敵に笑う。
「同じ北部の民だ。遅れは取らない」
翌朝、冬壱は州城へ、晨鏡と南信は郷城へ戻ることとなった。
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