第5章あらすじ・登場人物

第5章「攻略」あらすじ・登場人物紹介

第5章あらすじ・登場人物


~あらすじ~


 村の長老から鉄の怪物―機兵―の正体に迫る話を聞いた晨鏡しんきょうは、旧時代の産物と思われるその存在を県伯に知らせる。


 知らせを聞いた県伯・緑延りょくえんは、不敵に笑う。

 晨鏡たちに守備隊の訓練風景を見せる緑延。


 緑延は晨鏡たちに告げる。

 ――  近いうちに北西支城を攻略する ――


 支城の攻略は州侯から一任されているという。

 不安に思う晨鏡たちだが、県伯を止める力はない。


 深泉郷に戻った晨鏡は、村に帰るという冬壱とういに同行する。

 そこで晨鏡は、騎射術仲間の一人、瑤陽ようようと再会する。


 酒に酔ったあの日、瑤陽たちに向かって放った言葉が思い出される。

 ―― そうさ。お前らとは違うんだよ ――


 ―― お前らと違う、腐った野郎なんだよ ――

 本当は言いたかったその言葉。


 瑤陽と共に過ごした3か月の日々。

 晨鏡は瑤陽と一番長く時を過ごした。


 その瑤陽が呟く。

 ―― ねえ、晨鏡。これからどうなっちゃうのかな。あたしたち、元に戻れるのかな ――


 城門が閉ざされてから幾度となく耳にしたその疑問。

 いつもの暮らしは変化する。別れと、出会いと、その相反する2つによって。


 晨鏡は空を見上げる。

 瑤陽も見上げたその空を、生涯忘れることはないだろう。

 なぜか晨鏡は、そんな風に思う。


 後に「7月8日の閉門」と呼ばれる日から2週間。

 北西支城攻略の日が訪れる。


 観戦武官として北西支城に赴く晨鏡たち。

 孔鶴こうかくたち北西支城の市民も後方支援に携わっている。


 晨鏡たちは緑延と共に、孔鶴たちが用意した攻城櫓に登る。

 王国歴182年7月23日午前9時。

 息詰まる緊迫感の中、県城守備隊100名が城壁に取り付き、一斉に梯子を上り始める。


 現れる鉄の塊。晨鏡と南信なんしんが見たのとは異なる型の高速型機兵が守備隊員に襲い掛かる。

 県伯の号令下、その機兵の動きを止める守備隊員。


 これは、うまくいくのか?

 驚く晨鏡。しかし、更に驚くべきことが起こる。


 現れる2体目の機兵。緑延はそれを予測している。

 なぜ県伯はそれを知っている?


 犠牲を出しながらも守備隊は2体目の機兵の動きも封じる。

 だが、緑延は大声で言う。


 ―― さあ、大将のお出ましだ! ――


 大きい。まさに化け物の大将と言うべき3体目の機兵が現れる。

 ―― ひるむな!訓練のとおりにやれば勝てる! ――


 県伯が叱咤する。しかし、守備隊は大将の動きを止めることができない。

 殺戮は一瞬で終わる。横たわる死屍しし累々るいるい


 県城守備隊は戦意を失う。

 作戦は211名の死者を出し、失敗に終わった。


 攻城櫓の上で緑延が怒鳴る。

 ―― 何のために訓練をしてきたのだ!へたれどもが! ――


 緑延は命じる。

 ――  直ちに第二陣を編成する。残った兵を集めろ ――


 その命令に晨鏡が反対する。

 ―― 兵ではありません ――


 守備隊は軍隊ではない。守備隊員はあくまで守備隊員であって、兵士ではない。

 数字上は211が失われただけなのかもしれない。

 だが、その数字はすべて人なのだ。そのすべてが感情を持った一人一人の人間なのだ。


 言い訳はしないと決めた。詩葉と話したあの夜から。晨鏡は緑延と対峙する。

 ―― 失敗の責任は誰かが負わねばなりません ――


 晨鏡の言葉に、緑延は残忍に笑う。

 ―― さて、誰が責任を負うべきかな? ――


 その責任は、県伯側近の楠祥なんしょうが負うことになる。

 お待ちを。言いかけた晨鏡に緑延が言う。


 ―― 晨鏡、どうだ。私の下で働かないか。我が幕僚ばくりょうの一人となるが良い ――


 楠祥を切り捨てたその口で、楠祥がひざまずくその横で、緑延はそんなことを言う。

 この県伯は何者だ―――






~登場人物~


晨鏡しんきょう

 25歳。州の役人登用試験である州試しゅうしを第3位の成績で合格した秀才。星鉱の案内で機兵の正体を知るきっかけとなる話を聞き、県伯に報告する。県伯の企画した中央郷北西支城攻略作戦に観戦武官として参加。攻略失敗を目の当たりにして県伯に責任を問うが、逆に配下になるよう命じられる。


詩葉しよう

 23歳。明るい茶髪の持ち主。深泉郷郷城で居酒屋を営んでいる。晨鏡と対等に話す数少ない人物であり、晨鏡の良き理解者。


南信なんしん

 20歳。晨鏡を恩人と慕う深泉郷の役人。郷試合格。郷城に戻ってから総務課の一員として自警団設立のために働く。晨鏡と共に中央郷北西支城攻略作戦を観戦する。


星鉱せいこう

 25歳。北西県城の官僚。晨鏡とは州城学校の同期生。情報収集が得意。機兵の存在を知る長老と晨鏡を引き合わせる。北西支城攻略の日付を晨鏡に知らせるなど、県城の情報を知らせる役割を果たしている。


冬壱とうい

 24歳。深泉郷近くの双木そうぼく村の大工見習い。免許皆伝の父親から仕込まれた短剣術の名手。長剣も得意で馬術も優れる。俊敏で身のこなしが軽い。隣郷の大倉だいそう村に晨鏡が赴く際、行動を共にすることとなり、以降、護衛と称して何かと晨鏡にくっついて歩くことになる。


作良さくりょう

 24歳。深泉郷近くの双木そうぼく村の農民。双木村自警団の団長。晨鏡や南信の助言を得ながら自警団を率いる。騎射術仲間の瑤陽に自警団の制服作成を依頼する。


瑤陽ようよう

 21歳。深泉郷郷城に暮らす仕立て職人の見習い。晨鏡の騎射術仲間の一人。すらりとした長身で馬上に映える。晨鏡を騎射術のとりこにした要因の一人。郷城に暮らすこともあり、晨鏡が一番長く時間を共にする仲間となったが、何気なく言った一言で晨鏡の感情を爆発させてしまう。


陸剛りくごう

 54歳。深泉郷南東支城の支城長。命を落とした役人、市民の家を一軒ずつ謝罪のために訪問し、街の再建に力を尽くす。


孔鶴こうかく

 38歳。北西県中央郷北西支城の職人頭。晨鏡のことを信頼できる役人だと思っている。県城守備隊が支城に駐屯していることを快く思っていないが、攻略作戦の裏方として尽力する。


緑延りょくえん

 50歳。北西県伯。気が短く敵が多いのが欠点だが、野心家で行動力に溢れる。晨鏡たちから機兵の報告を受ける前から守備隊に訓練を開始させていた。支城内に現れる機兵が3体いることを知っているなど、独自の情報源がある様子。攻略作戦に失敗するが責任は楠祥に負わせ、晨鏡を配下に誘おうとする。


楠祥なんしょう

 北西県の役人で県伯側近。星鉱と同郷で、星鉱の先輩。自身が作戦を立案したわけではないが、晨鏡が県伯の責任を問おうとした際、自ら名乗り出て責任を被ろうとする。

 

 

 

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