「攻略」7

<7>


 大将?大将だと?

 瞬きすることも忘れ、目を見開いたまま晨鏡しんきょうが視線をその先に向ける。


 のそりと現れる不気味な影。

 大きい。これまでの2体よりも、さらに大きい。


 身の丈実に10尺|(約3メートル)。腕は4本。そのそれぞれに6尺5寸|(約2メートル)を超す長剣を持っている。

 化け物だ。まさに化け物の大将だ。


 晨鏡たちは心底震えた。

 城内にいる守備隊員たちにも恐怖が走る。恐怖のあまり後退する者もいる。


「ひるむな!訓練のとおりにやれば勝てる!」


 緑延りょくえんが叱咤する。


「備えろ!」


 その言葉と巨体が動くのがほとんど同時だった。


 速い!


 その巨体で速い。4本の剣が守備隊員をぎ払う…。

 と思われたその時、両脇からつなが張られた。


 守備隊が南北からも城内に降りたのはこのためだったのか。

 巨体が綱にひっかかり、後ろ向きに倒れる。


「今だ!かけろ!」


 城内の守備隊員たちが新たなあみを巨体にかけようとする。

 網を幾つ用意していたのか。ここまで読んでいたということか。


 しかし、最初の2体に勝る巨体、それに対する怯えが守備隊員たちの行動を鈍らせた。

 長い腕が網にからみ取られる…。


 からめ捕ったのは右の二本だけだった。

 右を失っても左がある。


 巨体が立ち上がり、猛然と剣を振るった。

 悲鳴と血しぶきが立ち上る。先ほどの比ではない。


「ちっ」


 舌打ちする県伯。

 殺戮は一瞬で終わった。


 横たわる死屍しし累々るいるい

 100人を超す守備隊員がしかばねとなって転がっている。


 化け物の大将が周囲を見回す。


 南北では城内に降りた守備隊員たちの引き上げに必死だ。

 機兵の親玉は正面に狙いをつけたようだ。

 怒っている。そんな風にも見える。


「予備の作戦を実施する。構え!!」


 緑延が叫ぶ。

 しかし、城内の惨劇を目の当たりにした守備隊員たちは動けない。


 戦場に出たことなどないのだ。

 軍人ではなかったのだ。


 今まで戦えてきたことが奇跡だった。

 訓練の賜物たまものとはいえ、出来すぎていた。


 所詮は付け焼刃。

 恐怖が勝ってからは早かった。


「ひ、ひいい」

「い、いやだ」

「もういやだ」

「に、にげろ!!」


 県城守備隊は戦闘能力を失った。

 城壁に飛び乗ってくる高速型機兵。殺戮から逃れようと守備隊員たちが次々と城外に飛び降りる。


 その事態に備えて外では隊員たちを受け止めるための布が用意されていた。

 しかし、飛び降りてくる数が多すぎた。


 最終的に攻略作戦は、城内で134人、城壁上で45人、城壁からの転落62人の、合計211人の死者を出して失敗に終わった。

 

 

 

 

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