「攻略」6

<6>


 王国歴182年7月23日午前9時。

 息詰まる緊迫感の中、守備隊100人が城壁に取り付き、一斉に梯子はしごを登り始めた。


 更に400人が西門下に待機し、門のない北と南にもそれぞれ100人が待機する。

 孔鶴こうかくたち街の住民は梯子はしごを支える役目だ。


 晨鏡しんきょうたちは緑延りょくえんと共に移動式のやぐらに乗り、その様子を間近に見ている。緑延の周囲には20人ほどの役人がおり、その中に星鉱せいこうもいた。


 櫓は城壁よりも3尺(約90センチメートル)ほど高いところに台場が作られており、守備隊員たちの動きが眼下によく見える。


 城壁に登った守備隊員たちは、前回孔鶴たちが行ったのと同じように、城門櫓の扉を破壊しにかかる。

 丸太が櫓の扉を何度か揺らす。


「来るぞ!」


 誰かが叫んだ。

 現れる鉄の塊。高速型の鉄の怪物―高速型機兵きへいが両手に長剣を構えている。


 速い!


 まさに疾風しっぷう。孔鶴の話していたとおり、晨鏡たちが見た怪力型の機兵よりも断然速い。

 このままではやられる。晨鏡が身構えると、緑延が号令を発した。


「今だ!」


 城壁に待機していた守備隊員が手にしていた長槍ちょうそうを振り上げる。

 槍には網が結び付けられていた。


 幅20尺(約6メートル)、高さ10尺(約3メートル)の網が広がる。

 高速型機兵がその網にまんまとはまる。


 正面から突っ込み、絡み取られる。

 考えたな!

 感嘆する晨鏡。


 長い腕が逆効果となり、機兵は動けば動くほど網に絡まる。

 守備隊員は力に抵抗できず、槍を放してしまうが、城壁内に落ちた機兵は網に絡まったまま立ち上がることができない。


「降下せよ!」


 緑延の命令で守備隊員が次々に城内に入る。

 代わりに城外から増援が城壁に登る。

 城内に降りた守備隊員が機兵の持つ長剣に注意しながら、自分たちの持つ槍で網を地面に縫い付ける。


「すごい…」


 南信なんしんが呟く。

 これは、うまくいくのか?一兵の死者も出さず?

 晨鏡が驚きの目で緑延を見る。


「まだだ。来るぞ!備えろ!」


 まだ?

 晨鏡が城内に目を戻す。

 現れる2体目の高速型機兵。


 2体目だと!?1体じゃないのか!

 驚く晨鏡。同時に疑問が鎌首をもたげる。

 なぜ県伯は、それを知っている?


 深泉郷東南支城でも中央郷北西支城でも、確認されたのは1体ずつだった。

 他の支城では複数が確認されていたのか。

 どこの支城で?


 風のごとく突進してくる高速型機兵。

 守備隊員たちが長槍ちょうそうで槍の壁を作る。

 だが、2体目の高速型機兵はそれを簡単に飛び越える。


 着地するや否や長剣を振るう。

 悲鳴。そして飛び散る血しぶき。


 いかん。

 このままでは全滅する。晨鏡たちが身を乗り出す。

 緑延が命じる。


「放て!」


 いつの前に準備していたのか。城壁上に据え置き型の大型弩弓どきゅうが設置されている。その数5。

 そのうちの2つから、槍ほどもある巨大な矢が放たれる。

 宙を飛んで避ける高速型機兵。


「そこだ!」


 緑延が一声発すると、残る3つから再び槍ほどもある大きな矢が放たれる。

 そこには網が結ばれている。


「よし!仕留めた!」


 宙を飛んでいた高速型機兵が網に絡めとられる。

 もがきながら落下する高速型機兵。


「縫い付けろ!」


 先ほどと同じように、城内に降りていた守備隊員たちが槍を次々に網の目に刺し、機兵の行動を封じていく。

 勝ったのか?今後こそ勝ったのか?


 だが緑延はまだ警戒を緩めていない。

 まだ何かあるのか?3体目がいるのか?


「計画通り、両脇に兵を配置しろ」


 緑延の命令に応じて守備隊員が動き出す。

 南と北。門のないところからも守備隊員が壁に登る。

 城内に増援を送り、100人態勢で陣形を組む。


「よし。破壊しろ!」


 破壊?どうやって?

 晨鏡が凝視するその先で、守備隊員の一人が高速型機兵の、人間であれば目のあるところに槍を突き立てる。


 ガガッ。

 不気味な音を立てて巨体が震え、動きが止まる。

 力尽きたかのように腕から長剣が離れる。


 直後、目を疑うことが起きた。

 鉄の巨体が砂のように崩れて消えていく。


「な…」


 言葉が出てこない。見ているもの全てが信じられない。

 畳みかけるように緑延が大声を出す。


「さあ、大将のお出ましだ!」

 

 

 

 

 

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