「攻略」5
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後に「7月8日の閉門」と呼ばれる事態から2週間が過ぎていた。
北の大地でも夏の気配が色濃くなっている。
一日は長く、仮役場の建設作業ははかどった。
郷主は相変わらず
郷の特例により村人たちの最大の関心事である夏祭りも例年通り開催できそうだったし、様々な許可証の発行や変更にも柔軟な対応がなされていた。
ただ、戸籍の管理や税の管理、裁判などは城に資料の大半があるため業務が停止されていた。
移動の自由にも制限が加えられ、人々の間に不満がないわけではなかったが、村々に自警団が設立されたこともあって、城を離れた場所でも概ね平穏が保たれている。
北東支城に近い村まで足を延ばしたその日、郷城に
手紙にはこう書かれていた。
「来る7月23日。中央郷北西支城の攻略が決定しました」
遂に、とも思ったが、早いな、とも晨鏡は思った。
県伯に鉄の怪物―
その間、県伯の
訓練を行っていた人数からすると、もともと身体能力の高い守備隊員たちの中から、さらに選抜した隊員たちで訓練を行ってきたのかもしれない。
十分な訓練を積んだと判断したのだろうか。10日で足りるのだろうか。
あのような化け物を見て、動じずに訓練の成果を発揮できるのだろうか。
不安は尽きなかったが、気を揉んでいても解決にはつながらない。
晨鏡が心配したところで決定事項を覆せるわけでもない。
晨鏡は郷主に、いわゆる観戦武官として攻略作戦を見に行くことを願い出た。
前例のない申し出に
代わりに合議体である課長会議が晨鏡に依頼をした。
その目で詳細を見てきてほしいと。
晨鏡の供として南信も行くこととなった。双木村から冬壱も同行が認められた。
守備隊員でなければ本来認められない武器の携行も認められた。
剣や弓で機兵に敵うとは思えなかったが、晨鏡は長剣と弓を、冬壱は長剣と短剣を、それぞれ得意な武器を選んで持っていくことにした。
武芸に触れる機会のなかった南信は、どうせ役に立たない、と何も持たずに行こうとしたが、せめても、と押し付けられる形で短剣を携行することとなった。
3人は
「いよいよか」
支城長の
「無事で帰れ」
陸剛は晨鏡の手を力強く握った。
その思いに、晨鏡は答えた。
「必ず」
昼食を南東支城で済ませ、夜になる前に北西支城に入った。
既に県城守備隊の本隊が到着しており、元から配備されていた300と合わせて、都合800が終結している。
どこへ行くべきかと迷っていると、声が聞こえた。
「晨鏡!」
長身の偉丈夫が手を振っている。
「
見知った顔に自然と笑顔になる。
「おう。いいように使われて、参っちまうぜ。街中守備隊ばっかりで居心地悪いしよ」
歯に衣着せぬ物言いに晨鏡が笑う。
「ははは。明日の攻略が上手くいけば、また元の街に戻るさ」
「だといいけどな。お前も明日の攻略に参加するのか?」
孔鶴の問いかけに晨鏡が首を横に振る。
「いや、直接は、な。『観戦』と言ったら呑気すぎる感じもするが、要はつまり、攻略の様子を間近に見て、郷に情報を持ち帰る、と、まあ、そういう役目さ」
「そうか。なんだか良く分からんが、お役人は大変だな。おれたち職人は『こうほうしえん』とかいうやつらしいから、似たようなもんか?」
ちょっと違うけどな。晨鏡が苦笑する。
「孔鶴たちは安全なところにいてくれよな。おれたちはできれば間近で、しかもそれなりに危険の少ない場所で見たいが、どこかあるか?」
「そうだな…。ああ、県伯用の
県伯は直接城壁には登らず、孔鶴たちが用意した移動式の櫓に乗り、城壁から少し離れた位置で指揮をするらしい。
その夜は、すっかり馴染みとなった「踊る仔馬亭」に止まった。
孔鶴たちも加わって宴会となったが、あまり酔うことはできなかった。
緊張のせいか、よく眠ることもできなかった。
そして、攻略の日の朝を迎えた。
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