「攻略」2

<2>


 緑延りょくえん晨鏡しんきょう星鉱せいこう冬壱とういの3人を守備隊の訓練場に案内した。

 郷城のそれよりも広い訓練場に500人近い守備隊員の姿が見える。


「これは…」


 晨鏡たちはその様子に目を見張った。

 守備隊員たちが鉄の怪物を模した木組みの兵士を引き倒す訓練をしている。


 大きさや形状から、どうやらその木組みの兵士は晨鏡と南信なんしん深泉しんせん郷南東支城で見た型―怪力型ではなく、孔鶴こうかくが中央郷北西支城で見た型―高速型のようだ。

 孔鶴が描いた図、孔鶴が伝えた大きさに酷似している。


「近いうちに北西支城を攻略する」


 緑延は言う。


「鉄の化け物がどうやって動いているのかは謎のままだが、『でんき』とやらが関係しているのであれば、『人ではない』という貴殿の感覚は当たっているのだろう。機械の兵士、すなわち『機兵きへい』か。なるほどな。人でないもの、命なきものであれば、情けは無用。動きを止め、破壊するまでよ」


 目の前の光景、耳にする県伯の言葉。いずれも俄かに信じられない。


「お、おそれながら、州侯はなんと。州の許可は得られているのでしょうか」


 晨鏡にはその言葉が精一杯だった。

 緑延は笑う。


「無論だ。支城の攻略については一任されている」


 晨鏡が食い下がる。


「州城守備隊は借りられないのでしょうか」


 州城守備隊はその数1万9千を誇る。県城守備隊3千の6倍だ。鉄の怪物が百人力だとするならば、目の前の500で足りるのかもしれない。県城守備隊で十分なのかもしれない。

 だが、万全を期すべきではないか。1体だけではなかったら。もし他にもいるとしたら。


「貴殿、州内に支城、郷城が幾つあると思っている。その一つ一つを攻略するのに州城守備隊をいちいち動かしていては、とても数が足るまいよ」

「それはそうですが…」


 晨鏡は不安を拭い去れない。数は多ければ多いほど良いのではないか。


「県内の支城はすべて県城守備隊によって解放する。その第一弾として、中央郷北西支城を攻略する。興味があるなら貴殿も参加するがよい」


 県伯との会話はそこで終わった。

 晨鏡と星鉱は、前回も立ち寄った星鉱行きつけの喫茶店に立ち寄った。

 そこで意見を交わす。


「危険ではありますまいか。いくら訓練をしているといっても、必ず死者が出るでしょう。本当に良いのでしょうか」

「何かお考えがあってのことかもしれません。ただ…。先ほど県伯は州侯の許可を得ている、とおっしゃっていましたが、それは疑問です。確かに州城に使者を出してはいますが、まだ戻ってきてはいないはず」


 北西県城から北部州城までは馬でも片道4日の距離にある。早馬で夜通し駆け抜けているのであれば話は変わるが、星鉱は早馬で使者を出したと聞いていない。


「県伯にだけ特別に何か情報がもたらされているのであれば別ですが…」


 星鉱が首を傾げる。


「州城や王都の様子も気になりますね。州城周辺の支城なら、州城守備隊によって既に解放されているかもしれない」


 州城周辺であろうと支城の規模は変わらない。

 晨鏡の推測に星鉱が頷く。


「そうですね。情報を掴んだらお知らせします」

「申し訳ない」

「いえ、お力になれて嬉しく思います。それで、晨鏡様は北西支城攻略に参加されますか?」


 星鉱の問いかけに晨鏡は即答する。


「見ておく価値はあると思います」

「分かりました。では、日時が分かりましたらご連絡いたします」

「よろしくお願いします」


 その2日後、晨鏡と冬壱は深泉郷に戻った。

 

 

 

 

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