第5章「攻略」

「攻略」1

第5章「攻略」


<1>


 星鉱せいこうの出身地である大倉だいそう村から県城までは馬で8時間の距離があった。

 晨鏡しんきょう星鉱せいこう冬壱とういの3人は、途中で中央郷北西支城に立ち寄り、そこで孔鶴こうかくと情報交換をすることにした。


 孔鶴は大いに喜び、3人をもてなした。

 街の半分は燃えたままだが、仮の建物が建ち始め、復興に向けて動き出そうとしている。


「県城から守備隊が来たのは良いんだけどな」


 人手が増えるからな。孔鶴はそう言いつつも不満を隠さなかった。


「どうも気に入らねぇのは、あれこれ調べてやがるってことだな」


 まあ、調べるのは当然なんだけどな。酒の杯を片手にしつつ孔鶴が口を尖らせる。


「それをおれらには何も言わねぇってのは、気に入らねぇな」

「情報を独占している、ということですか?」


 星鉱が口を挟む。


「どくせん?ああ、独り占めな。そう。そうだな。そんな感じだ。何か企んでいる気がする。これはかんだけどな」


 星鉱と晨鏡が顔を見合わせる。県城で星鉱もそのような話をしていなかったか。


「県の役人である私が言うのもなんですが、ここ北西支城に送られた守備隊は数が多すぎる気がします。復興の手伝い、と言えば名目は通りそうですが、それにしても300は多い。100で足りるでしょう」

「そう。それよ。おれもそれを思っていた。あんたも話が分かるな」


 孔鶴に背中を力強く何度も叩かれ、星鉱が目を白黒させる。

 県城守備隊3000のうち、1割に当たる300が支城に出張ってきている。


 孔鶴が言うには、守備隊は城を封鎖し、住民は一歩も近づけない状態だという。

 晨鏡たちも守備隊が厳重に城を包囲している姿を見ていた。


県伯けんはくは何を知っているのでしょうか。まさか、『でんき』禁止法についても思い至っているのでしょうか」

 星鉱の問いかけに答えられる者はいなかった。


 ***


 翌日、晨鏡たちは昼前に県城に入った。

 緑延りょくえんは相変わらず面会の人数を制限していたが、今回も前回同様、県伯の側近である楠祥なんしょうが都合をつけてくれた。


「またお前か」


 例によって緑延は苛立ちを隠さない。しかし、初対面の時と違い、話を聞こうとする気持ちはあるようだ。


「今度は何だ」


 問いかけに晨鏡が答える。


「先日報告申し上げました『鉄の怪物』について、『電気禁止法』と関係があるのではないかとの情報を掴みました」


 余計な情報は要らない。単刀直入こそ緑延は好むと知って、晨鏡は簡潔に伝えた。


「『でんき』禁止法だと?」


 晨鏡をじっと見つめる緑延。

 他の者が口にしたら、この時期でなかったら、緑延は鼻で笑っていただろう。


 だが、緑延は考えた。

 説明のつかないもの。今まで説明がつかなかったもの。


「なるほどな」


 一つ頷き、緑延は続けた。


「『でんき』とやらがどんなものなのか。検討がつかぬものに興味はなかったが、『でんき』とやらが何らかの力であり、何らかを動かす力である、という理屈付けが可能なら、鉄の化け物はそれに当たるのかもしれん」


 だが…。


「それを知ったところでどうにもなるまい。『でんき』とやらの存在も、仕組みも、我らには分からぬのだからな。とはいえ、一つ言えることは、そいつが旧時代の、『でんき』とやらがあった時代の産物かもしれぬ、ということだな」


 緑延が口の端で笑う。


「では、我らに手が出せぬものかと言われれば、そうでもなかろう」


 緑延が立ち上がる。


「来るがよい」

 

 

 

 

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