第78話 侮るべからず

「行くぞ犬!」


 以前とは違い、剣を構え突進するアルにドームは違和感を覚えた。


「どうした。ご自慢の溶岩は使わないのか」

「何故そう思う?」


 アルはドームに切り掛かり鍔迫り合いを始めた途端に、身体に高熱を宿す。灼熱の左拳をそのままドームの鳩尾へと繰り出した。


「んぐッ!」


 間一髪へ飛び退き体勢を整えるドームだったが、鳩尾付近の布は焼け爛れていた。


「ドーム、無理するなよー。手伝おうかー? オレから見ても相性の良い相手とは思えないんだけどー?」

「心配無い」

「あっそう?」


 アルの身体は高温に熱せられ蒸気が上がり、ジリジリとドームへと迫り来る。


「ハハハ! その灰色の言葉は正しい。お前の能力がオレに敵うとは到底思えんぞ」

「ほざけ……」


 ドームは自身の戦闘スタイルである煙を駆使し周囲を覆う。


「オレに煙は通用せんと言ってるだろうが! 火砕流パイロクラスティック!」


 左手を前に翳し、掌から噴煙を伴った溶岩が吹き出し、ドームの煙を上書きする様に覆っていく。煙だけでは無く、熱を帯びた状態では流石にドームがその場に留まる事は困難だった。

 どうすれば全身溶岩人間にダメージを与える事ができるのか。しかし、いくら考えた所で答えは出ない。やはり相性に敵うものは無かった。


「威勢だけで相手と渡り合えるなら色力しきりょくなんてものは要らないんだよ! 死ね犬が! 噴火イラプション!!」


 再びアルは攻勢の構えを取る。地面に左手を押し付けた後に、微振動と共に地鳴りが響く。すると煙の中心地辺りから火山の噴火の如く、勢い良く溶岩が吹き出した。


「ぐああ!」

「ドームッ!!」


 間一髪で飛び退いたドームだったが、足には大きな火傷を負っている。


「フフフハハハハ! 滑稽だな。勝ち目の無い戦いに身を投じる愚鈍さ。共に闘う者が思いやられるよ」


 戦闘力はやはりアルに分があった。火の能力としては上位に当たるアルの能力では、ドームの煙は歯が立たなかった。計るに足らず、勝敗は既に決している様なものだ。


「ドーム、ダメだ! お前じゃ太刀打ちできないよ!」

「お前は理解力があるな、灰色の」


 相手にならないドームに興味を削がれたアルは、溜息混じりでその場を後にしようとする。しかし、このまま行かせてしまえば後の脅威に変わりは無かった。


「あんまり気が進まないんだけど、オレの出番かな?」

「ほお? そんな貧相な身体でオレを相手取ろうとでも?」

「やってみなきゃ分かんないじゃん?」

「癪に障る奴だ。弁えろ灰色の」

「食らえー! 傀儡シャドウの影マニピュレート!」

「なにッ!?」


 リムから伸ばされた影がアルの影に迫る。ザハルとガメルが有する色力である影の力を操るリムに驚きを隠せなかった。不意を突かれたものの、間一髪で飛び退く。


「何故お前が!」

「お? 驚いてる驚いてる♪」

「どういう事だ……何故」

「戦闘に於いて相対する敵の能力は侮るべからずう!」

「戯れるな! 火砕流パイロクラスティック!」


 再び左手から出された火砕流はリムへと迫る。しかし、リムに慌てる様子は一切無かった。


「待ってました! お前の能力頂くよ。曖昧な領域グレーゾーン!」

「ッ!?」


 全身をドーム状に覆った半透明の壁は、アルの能力を物ともせずに吸収していく。


「どういう事だ!?」

「こういう事だっ! 噴火イラプション!!」

「ッ!!」


 アルを真似、地面に手をやったリムは軽く意気込む。アルの足元に振動が起こり、溶岩が噴火した。


「なんだ貴様は! オレの能力を!?」

「美味しく頂きました。って事でもう分かっただろ、オレには敵わないよ」

「吸収……するのか?」

「ご名答。オレに色力は通用しないよ」

「そんな事がある筈が」

「残念ながらそれが有るんだよねー。アルだけに」

「お前のおふざけに付き合っている暇は無いんだよ!」


 アルは高く飛び上がり左手をリムへと翳した。


火山弾ヴォルカニックボム!!」


 左手から吹き出した火山弾がリム目掛けて降り注いでくる。流石の溶岩まではリムも防げないか。負傷したドームは膝を付き、苦しいながらも事を見守る。


「悪いけど色力は効かない。何回でも言うよー。曖昧な領域グレーゾーン!」


 再び展開された曖昧な領域グレーゾーンはやはりと言うべきか。灼熱の溶岩いとも簡単に吸収していく。


「クッ! そんな事があってたまるか!」

「クックックー。堪るも堪らないも事実だぞ、溶岩君」

「チッ! 分が悪いか。おい犬! ここはお前の負けだ。潔く犬小屋にでも帰っている事だな!」

「……」

「あーあ、行っちゃった。尻尾撒いて逃げるとはこの事か。それより大丈夫か? ドーム」

「不甲斐無い」

「仕方ねえだろ、相性が悪かっただけだ。ここは協力、持ちつ持たれつでいこうよ?」

「ああ、すまない」


 アルは動揺していた。自身の能力を吸収され、しかもザハルの技をも使用いていたリムに脅威を感じていた。


「何故だ。アイツはなんなんだ。マズイ、一旦引いてザハルに伝えた方が良いな」


 アルは足早にその場を後にした。

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