第79話 進行

――――ウエストブラックとセントラルブラックとの中間地点 反乱軍サイド。


 カエノ達は狼煙と同時にセントラルへ向かっていた。そんな折、偵察に出ていた一人がカエノに走り寄る。


「カエノ、マズイぞ。怪物が北に進路変更した事で、ノースブラックにいたハル達の部隊が被害を受けたらしい」

「チッ。狼煙には気付いているんだろうな!?」

「幸い主力は無事みたいなんだがハルの姿が見えないそうだ。部隊の再編に奔走しているのかも知れん」

「そうか、無事ならいいんだがな。サウスにいるリアとリユーの状況は?」

「ただいまー! 返答の合図があったから南は問題無さそう!」

「戻ったか、アサメ」


 アサメは先頭を走るカエノに並走した後、後方を見て不思議そうに首を傾げた。


「あれ、例の客人達は?」

「あいつらは協力してくれないそうだ。オレ達の計画が脆弱だと思ってるんだ」

「ん~確かに決定打は欠ける気もするけどなー」

「お前までそんな事を言うのか?」

「切り札はリユーでしょ? あの子、どこまで使える様になったの?」

「それなりに広まる程度には風は吹かせられる筈だ」

「なら良いんだけどねー。火の準備は整ってるし」

「ああ、多少計画外の事も起きているがもう始まったんだ。このまま進むぞ!」

「りょーかいっ!」



――――サウスブラック某所。



「リア姉ちゃん、ボク……」

「大丈夫よリユー、お姉ちゃんが着いてるから。貴方は合図を待っていつでも風を吹かせられる様に高台に移動してて」

「うん……」


 周囲の反乱軍は既に反旗を翻し、声を上げて進行を開始していた。二人の戦闘能力では前線での活躍は見込めず、後方に待機していた。治癒色操士ちゆしきそうしでもあるリアは有事に備え、治療の準備を進めていた。と言っても反乱軍に潤沢な物資は無く、骨折した際の当て木や止血用の布等を揃える程度である。


 そんな中、サウスブラックの反乱軍に一報が入った。


「ノースブラックが例の怪物にヤられたらしい! 主力は無事らしいがハル達の所在が分からないんだとよ」

「貴方! 詳しく聞かせて!」


 リアは伝令として走って来た一人の男に駆け寄る。


「あ、ああ。リアは……そうか。いや、確かな情報じゃないんだけどな。ノースで準備をしていたハル達に被害が出たそうだ」

「それは聞いた! ハルは無事なの!?」

「……分かんねえんだ」


 リアはグッと堪える様に唇を噛み締めた。


「分かったわ、ありがとう。ごめんなさい」

「いや、いいんだ。それよりもこっちは問題無いのか?」

「ええ、リユーの準備も整ってるわ。後は火の合図を待つだけよ」

「分かった。カエノからまた合図がある筈だ。見落とすなよ!」

「ええ」


 伝令は再びウエストブラックへ向けて走り去っていった。

 リユーは身体を震わせながらも必死で恐怖に耐え、身を縮めながら高台を目指していく。


「みんなの為に、みんなの為に……うわっ!」

「おい坊主! ちんたらしてんじゃねえ! 邪魔だ!」

「ひぃ! ごめんなさい!」


 縦横無尽に駆け回る反乱軍の一人に衝突し、そのまま地面にへたり込むリユーは必死に耳を抑え耐え抜こうとしている。


 既にサウスブラックは、ブラキニアの駐屯兵との戦闘に入っており混乱の最中だった。


「なんだって言うんだ。怪物が現れたと思ったら何処からともなく市民に襲われるとは」

「こいつ等、明らかに敵意を持って俺達を攻撃してくるぞ」

「もしかして反乱か?」

「まさか! でもこの状況は早くザハル様に報告しな――ぐはぁあ!」


 反乱軍は容赦無くブラキニア兵をなぎ倒していく。反乱の兆し有りとの情報は入っていた。しかし、それはつい先日の事。準備が整う筈も無く、雪崩の如く反乱軍が迫ってきては成す術がなかった。ましてやサウスブラックは然程の兵を配置していなかった。

 南に位置するサウザウンドリーフの警戒に当たる程度の兵力が、準備の整った反乱軍の波に太刀打ちはできなかった。


「こっちはとりあえず順調そうね。みんな! このままの勢いで着火の準備に取り掛かって!」

「おう!」

「負傷した人は私が治癒します!」



――――ノースブラック某所。



「――ル! ハ――きて! ハル、起きて!」

「うっ……」


 ダーカイル城もあり、ブラキニア領内で最も兵力が集まっているこの地域は、重要な進行拠点だった。ノースブラックで進行の準備に当たっていたハル達は、例の怪物により打撃を受け多数の被害が出ている。


「ハル! 大丈夫!?」

「ヨルナ、悪い。気を失っていたみたいだ」

「良かった! こんな所まで飛ばされるなんて」

「ここは……?」


 ハルは怪物によるノースブラック駐屯地蹂躙の影響で、ノースブラック中央付近の待機地点より大きくズレ、ダーカイル城の目と鼻の先まで飛ばされていた。


「頑丈な身体で良かったよ」

「冗談を言う位なら大丈夫ね。それでどうするの? ノースの反乱軍は散り散りになってしまったわ」

「待て、少し考えさせろ」


 ハルは痛む身体をゆっくりと起こした。陽が沈み、暗がりの中で炎上する家屋を見て呟く。


「今だ」

「え? 今って、今!?」

「そうだ。あの怪物が何かは知らないが、ノースの駐屯兵もかなり被害が出ている筈だ。このまま個々に叩いて兵力を削るぞ!」

「わ、分かったわ。主力は無事みたいだから伝えて来るね! ハルはもう少し休んでて!」


 ヨルナは慌ててノースブラックの中央待機位置へと走って行った。


「なんなんだ、あの怪物は……」


 ハルは、目の前に鎮座する巨大怪物、ディスガストを見上げる。辺りには砂煙と黒煙が立ち込めていた。

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