第75話 見つめる先

――――ウエストブラック テント内。


「アサメを救ってくれてありがとう!」

「ああ、それよりも傷は大丈夫なのか?」

「リアのお陰で良くなった!」

「それは良かった」


 カエノ達は無事帰る事が出来た。襲われていたアサメは軽傷、カエノは容易くディンゴを仕留め食料を確保する。しかし、両腕の傷が深いハルの意識は朦朧としており、噛み傷により発熱。息も荒かった。


「大丈夫! ハルは私が看るからみんなは水と替えの布を!」

「任せて! 助けてもらった恩もある!」


 アサメとヨルナは急ぎ水と布を調達しにテントを駆け出ていった。



――――数日後。



「んん……」


 熱も下がり、漸く目覚めたハルの視界には傍らに座るリアの姿があった。


「リア……お前が看てくれていたのか」

「ハル、良かった……良かった!」


 リアは睡眠もろくに取らず、ひたすら額の布を取り替えていた。瞳からは涙が溢れ、勢い良くハルに飛びつく。


「……無事か?」

「バカ。ハルの方が重症よ」


 涙ながらに笑みを浮かべるリアは暫くハルに抱き付いたままだった。


「ハッ! ハッ! フンッ!」


 カエノは一人剣を振っていた。ハルを心配する気持ちを紛らわす様に、ただ無心に振るっていた。


「ハル、目を覚ましたみたいよ?」

「ん? アサメか」

「いいのー? リア、ずっとハルに抱き付いたままだよー?」

「だからなんだ」

「取られちゃったね、ハルに」

「ハルが無事ならそれで良い」

「あーれれー? 良いのかなあ?」

「うるさい、好きにすれば良いさ」


 カエノに助けてもらったアサメは、あれ以来ずっとカエノに引っ付いていた。アサメは自分を助けてくれたカエノに好意を抱いていたのだ。気になるカエノのリアに対する反応を見て何やら嬉しそうである。


「んじゃアサメはカエノを貰おう、うんそうしよう!」

「なんの話だ。剣の相手なら付き合うぞ」

「つ、付き合う!? そそそ、そんなああああ! いやあああんん!」


 アサメは顔を赤らめ、一目散に去って行った。


「なんだアイツ……」

「彼女なりに一生懸命生きてる証拠よ」


 走り去るアサメを横目に歩み寄って来たのはヨルナだった。金色に輝く艶やかな髪は背中の位置まで伸び、アサメとは対称的に青を基調とした服装をしていた。裾の短いインナーから覗く引き締まったクビレとヘソ。ショートパンツから伸びるスラっとした色白い細い足は、横から薙ぎ払うと折れてしまいそうな程だ。


「ふん、どうせ戦争なんていつ死ぬか分かんねーんだ。好きだどうだという感情を抱いてたら鈍っちまう」

「アサメかわいそー」

「知らねえよ」


 会話を弾ませる二人の様子を近くに居たリユーは見つめていた。その視線の先はヨルナだった。


「ねえ、カエノ。私とアサメ、反乱軍に入れてくれない?」

「悪いがダメだ」

「なんでよ! 一応これでも戦える!」

「死ねるのか? この国の為に。外から来たお前らがこの国の為に戦って死ねるのか?」

「どの道あのままじゃディンゴに食い殺されていた。今更死ぬのなんて怖くない! 助けてくれたカエノ達を手伝いたいの!」

「……好きにしろ」


 カエノは再び剣を振り始め、その日は陽が暮れるまでひたすらに振っていた。


――――


 月日は流れ、六人は喧嘩をしながらも恋心を抱き、紆余曲折しつつも互いに成長し合っていった。

 常にカエノの近くにいるアサメ、ハルとリアはいつも一緒に居た。ヨルナもハルに恋心を抱きつつも気持ちをグッと抑え、一歩後ろを歩く。それを見つめるリユーの気持ちなど知る筈も無かった。



――――時は戻り、色暦しきれき二〇一五年 植月うえつき



「おいカエノ! 西の森が騒がしい!」

「ああ、ディンゴ狩りの連中に何かあったかも知れないな。すまない、見てきてくれないか」

「任せろ!」


 ウエストブラックの住人は、数人を連れて森へと入って行く。


「そろそろだと言うのに何か嫌な予感がする。おいアサメ! サウスブラックの状況は!」

「今のところ順調だよー! ノースに潜伏してるハル達ももうそろそろ準備が完了すると思う!」


 反乱軍の偵察隊の一人がカエノに走り寄ってくる。


「カエノ! ダーカイル城に居たザハルがブラキニア城に向かってるらしいぞ」

「チッ! 一気にセントラルを占拠してアイツを孤立させたかったのに間の悪い奴だ。気付かれた訳じゃないだろうな!!」

「いや、側近のアルとやらだけを連れている様だ。兵の配置転換では無いだろう」

「分かった。引き続き情報が入ったら報せてくれ!」

「任せなっ!」


 偵察隊は再び街中へと走って行った。

 その時、西の森から野鳥が巣を突かれた蜂の様に飛び立った。


「なんだ!?」

「カエノー! マズい! 訳の分かんねえ黒い半透明な巨大怪物がこっちに迫ってくる!!」

「はあ? そんなもんいる訳な――」


 突如轟音と共に薙ぎ払われた木々がウエストブラックの住居に吹き飛んできた。まるで小枝の様に軽々と吹き飛ばされてくる木々達を見てカエノは焦りを見せた。


「な、なんなんだ……っ!?」


 《嫌悪》のディスガスト、ウエストブラックを急襲。

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