第69話 予想外の反応

「す、すまない。少々気が立っていたみたいだ」


 頭を押さえるカエノは少々気怠そうだった。ミルの手刀は的確に後頭部を打つ。それはリム自身も経験済みであり、卒倒するのは無理も無いと頷く。


「こちらもすまない、制止が効かない相手となるとミルに任せるしかないからな」

「てへッ☆」


 流石に女の子のテヘペロは可愛さがある。リムがすれば引きつった顔に半目のウィンクが精一杯だろう。一同は小さな焚火の周りで円を描く形で地面に座り込んでいた。


「すまないがもう一度事情を説明してくれないか。その角の男、どうしても警戒が解けない」

「ああ、構わない」


 ドームはここに来るまでの経緯を話し始めた。



――――



「なるほど、そういうことだったのか。てっきりあの怪物を従えるブラキニアの連中だと」

「気にするな。それよりも誰かが言っていた計画とはなん――」

「カエノッ!!」


 一人の女の子が話を遮る様に血相を変えて飛び込んで来た。


「カエノッ! 大丈夫なの!? ブラキニアの連中にやられたって聞いて心配で心配で!」

「落ち着けアサメ」

「だって!」

「俺は大丈夫だ。それより客人の前だ、静かにしてくれ」


 アサメと呼ばれた薄桜色の髪をした女の子は、ハッと我に返り周囲を見渡す。


「客人? あ、ごめん!」

「改めて自己紹介をする。俺はカエノ・キサキ。一応反乱軍のリーダーをしている。こいつはアサメ、俺達の仲間だ」


 ヒメカは洋服を正し立ち上がった。


「アサメ・チェーリです。カエノ達と一緒に反乱軍に参加しています!」


 身軽そうな服装は桃色のチャイナドレスに近い。この世界の衣服とは思えないのだが、これも転移者から流入した技術やデザインの所為だろう。髪は頭頂部より少し下がった左右の位置にふんわりとお団子が作られている。

 下半身は薄暗いスパッツを履き、太腿から下は肌が露出している。可愛らしいサンダルは赤く目立つ。


「おお! イッツァビューテホー! なんとも素晴らしい太も――ぐふぉあ!」


 リムの視線は露出した太ももに釘付けだったがミルに横腹を殴られる。


「コホン。それで俺達というのは」

「ああ。反乱軍はそれなりに居て、俺達六人が指揮を担って行動している。唯一の治癒色操士ちゆしきそうしリア。俺と同等の技量があるハルに、少々おっちょこちょいなんだがリユーという少年もいる」

「ヨルナもいるよ!」

「ヨルナはこいつの義理の姉だ」

「えへっ」


 ミルはそんな会話をする二人を無言で見つめていた。


「すまん、話を戻す。それで計画の話だったな。俺達はブラキニアを改革するつもりだ」

「それにしても人数が少なすぎないか?」

「大丈夫だ。サウスブラックとノースブラックにも仲間達が大勢潜んでいる。イーストは流石に潜伏するには目立ちすぎるからな。西と南北から挟撃する形でセントラルブラックを目指そうと思っていたんだが、怪物が来たお陰で黒軍こくぐんは混乱している。今が絶好のチャンスなんだ!」

(こやつら、我が国を乗っ取ろうというのか)

(お前は黙ってろ)


 頭の中でガメルが怒りの声を上げるもリムは抑え込む。ガメルは勿論、自身では表に出る事も会話をする事も出来ない為、でしか会話が出来ない。


(まあ、やってみるがいいさ。我が息子も柔では無いぞ)

(いいから黙ってくれって! 外の会話と中の会話がごっちゃになるんだよ!)

(フン! 知った事か)


 カエノはアサメに、南北に配置されたメンバーに準備を進める様にと指示を出した。


「君達もブラキニアに恨みを持っているのであれば、俺達に協力してくれないか?」

「嫌だ」

「ミルッ!?」


 ミルの予想外の反応にリムはつい声を荒げる。しかし、ドームは腕を組んだまま俯き反論はしなかった。


「なんでだよ! お前もアイツらに復讐できるチャンスじゃないのか? 反乱軍も辛い現状を抱えてるなら助けようとは思わないのか!?」

「リムちん、勘違いしないで」

「なっ!?」

「ミル達はもう駒じゃないの。今までは白軍はくぐんに着いて戦争をしていた。だけどミル達はミル達の意思を持って動きたい。ミルがしたいのは戦争じゃない。あいつを止めるの。人がこれ以上死ぬのは嫌!」

「リム、分からない訳じゃないだろう? オレ達は、復讐心はあれど国を滅ぼそうなんて思っちゃいない」


 腕を組んだままのドームの目はいつになく暗かった。


「なんでだよっ! 温い考えじゃ生きていけないって言ってたのはお前だろうが! なんでだよ! 苦しんでる人達がいるんだろ? 同じ思いをしてほしくないんだろ? だったらなんで協力しようと思わないんだ!」

「カエノ、勝ち目はあるのか? ただブラキニアを滅ぼしたからといって勝ちということではないんだぞ。その先の、改革を成す力まで持っているのか? 己の心情だけで成し得る程甘くないんだよ」

「ドーム……」


 ドームなりの気遣いなのか、当人が良く分かっている。怒りや復讐心に任せただけの行動は目先の事しか考えていない。その先を行く作戦、いや政策をも考えなければ改革とは言えない。若き先導者は勢いだけで事を起こそうとしていると踏んだのだ。


「仮にだ。ザハルを殺ってその後はどうする。お前がザハルに、ブラキニアに代わる程の国力を有す事ができるのか? アイツは若いがそれなりに政を見てきている筈だ。ただの力だけで国は回らないんだよ。戦うのは黒軍だけではない。現状そこまで不満を持っていない連中もいるのだろ? イーストの連中がそうだと思うが、お前らはそいつらとも対立する事になり兼ねん。貧困層と一般層とでは数で勝るかも知れない。だがこの国の物流も担っている東に勝てるとはオレは思わない。長期戦に持ち込まれれば確実に押されるだろうな」

「それでもっ!!」


 正論を叩きつけられたカエノだったが引くに引けない状況にあった。南北の反乱軍は既に突撃の合図を待つ状態にある。そう、偶々ではあるが今夜が決行の日だった。


「それでも俺達はやらなければならないんだっ!!」


 ドームの説得を振り切る様にカエノは立ち上がる。そのままテントから出ていったカエノは反乱軍の一人に指示を出す。


「準備は良いか! 仲間に合図の狼煙を上げろ! 俺達の命を賭して未来を変えるんだ!」

「お、おい。良いのかよこのままで」


 リムは、腕を組み俯いたままのドームに何とか協力をせがもうとするが、一切考えは変わらない様だった。


 決行の狼煙は上げられる。

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