第68話 巨大都市ブラキニア

――――ブラキニア領 西の街 ウエストブラック。


「憎きブラキニアめ! 死ねえ!!」

「ちょちょちょっ!!」


 青年カエノは折れた剣でリムに切り掛かる。しかし、凡人の速さでは切り掛かった所で容易く防がれてしまうだろう。リムの顔面数センチまで迫った切っ先を防いだのはミルだった。

 カエノには瞬間移動の様に現れた、それこそ一瞬だった。しかしミルに驚くも、すぐさま追撃の構えを見せる。


「待って待って! 落ち着いてくれ! オレはブラキニアの人間じゃないって!」

「良い訳なんか通用するものか! その角はなんだっ!」


 再び迫ろうとするカエノだったが突撃する前に地面に伏してしまう。


「ふう、助かったよミル」

「いいってことよ☆」


 カエノはミルの手刀により呆気無く気を失う。周囲のどよめきの中、リムは説明を始めた。


「あのカエノが一瞬で……」

「み、みんな聞いてくれ! オレはブラキニアの者じゃ無いし、今のところ君達と敵対するつもりも無い! オレ達は黒軍こくぐんに襲撃されたホワイティアの人間。訳あって黒王こくおうの息子、ザハル・ブラキニアに会いに行く所なんだ」

「ザハルに会いに行くだって!? 会ってどうするつもりだ! もしかして俺達の計画をバラすつもりじゃないだろうな!」

「計画? よく分かんないけどとりあえず落ち着いて話がしたい。少なくともブラキニアの味方じゃないって事だけは言っとく」

「……」


 周囲の人間はそれぞれに顔を見合わせ、武器を下ろした。


「ありがとう、ちなみにこの集落の責任者みたいは人はいる?」

「あ、あの……」


 一人の女が倒れたカエノを見て困惑している。


「あ……この人だったのか。ごめん! いきなり襲ってきたもんだから」


 集落の責任者且つ最も腕の立つ人間が、いとも簡単に倒されてしまっては歯が立つ訳が無い。集落の住人は渋々リム達を一番大きなテントへと案内した。


 リム達はカエノが目覚めるまでの間、ブラキニア領内の位置関係や情勢を住人に教えてもらっていた。


 ブラキニア領の西、ウエストブラックは内陸に位置し、内国からの人の集まりが多い都市だった。人口比率は東西南北の都市で一番であり、多種多様の人々が集まる。しかし都市とは名ばかりであり、大半は貧困層の集落で成り立っている。

 次いで人口が多い、ブラキニアの中央に位置する帝都セントラルブラック。ブラキニア内でも比較的裕福なレベルの人々が住まう都市である。中央に位置し領内を一望できる高地にはブラキニア城があった。

 東に位置するイーストブラックは海に面しており、海路での商業が盛んだった。民衆と商人が入り乱れ、ブラキニア内では一番活気のある都市。

 北に位置するノースブラックは北方の国との小競り合いの所為か、ザハルの居城であるダーカイル城を筆頭に、軍関係者の居留区が大半を占めていた。

 南のサウスブラックは、都市の南部にサウザウンドリーフと呼ばれる森に囲まれた小国が隣接していた。このサウザウンドリーフは中立な上に殆ど接点を持たない不気味な国。その為、民衆はサウスブラックにはあまり近寄らない傾向にあった。


「中央を囲む様な東西南北の都市か、相当大きな国だな。にしても時々聞こえる地響きはなに? それにさっき目に入ったんだけど建物が相当壊れてるよな」


 リムは疑問だった。いくら貧困層だとしてもここまで倒壊した家は中々無いだろう。


 そう、ブラキニアは混乱の最中だった。突如として現れた超巨大な《嫌悪》のディスガストは、瞬く間にブラキニア城を囲う様にある都市の一つ、ウエストブラックを崩壊させた。

 あまりにも唐突の出来事に、西の都市ウエストブラックに駐屯していた黒軍は機能せず壊滅。ディスガストはそのまま中央都市であるセントラルブラックへと侵攻していた。それを上下から挟む様に北のノースブラック、南のサウスブラックの駐屯兵達が挟撃する形。

 しかし迎え撃つセントラルブラックには高い城壁があり、易々と越える事はできない。

 ディスガストが破壊行為をする意図は不明。意思は無い様に思えるが、何故かセントラルブラックを目指していた。


 過酷な状況の中、彼らは何をしていたのか。それは待遇の悪い庶民と堕ちた兵士達の寄せ集めでできた反乱軍レジスタンスだった。

 自分達の暮らしを良くする為、ブラキニアに恨みを持った人達、一部には色操士しきそうしの素質を持つ有志も集まった。自身の命を犠牲にしてでも為さなければならない一大改革の計画。ブラキニアの混乱に乗じ、彼らは革命の為に今立ち上がろうとしていた。


「このままじゃダメなんだ」


 額に手を当て、カエノが目を覚まし起き上がった。

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