第45話 王の座

――――ホワイティア城 城内 一階。


 四人は石造りの廊下を颯爽と駆けていく。


「先ずはエミルを探すぞ! オレは玉座の間へ直行する。ミル! エミルが地下牢に捕らえられている可能性もある。そっちを頼む!」

「あい分かった☆」


 ドームは上階へ向かう為、一人別れる。同時にミルは地下牢へと向かう為、階段を駆け下りていった。


「オ、オレはどうしようっかなぁ」

「リムっち、あのお爺ちゃんのとこいってみよ?」

「んー? ああ、図書室か!」


 行く当てが分からなかったリムとタータは、シラルドがいるであろう図書室へと向かった。三方へ分かれた一行がそれぞれ背中を向ける。



――――ホワイティア城 玉座の間。



「ロンベルト! エミルはどこだっ!」


 何故か開いていた玉座の間へと続く巨大扉。ドームは迷う事無く部屋へと駆け込んだ。部屋の奥、玉座にはロンベルトが足を組み佇んでいる。


「来たか、敗北者よ」

「貴様……っ! そこに座る意味を知らない訳じゃないだろうな」

「ここはホワイティアを治める者が民を見下ろす場所。力ある者の証だ」

「腐ったか。貴様にこの国を治める資格は無い。民を見下す王などあってはならない!」


 ドームは右拳を強く握り締め、ロンベルトの言葉を振り払う。


「腐る? 私は元からホワイティアの事しか考えていない。利用できるなら何でも利用するさ」

「その利用された結果がオレ達だ! 貴様のしている事は所詮エゴに過ぎない!」

「当たり前だろう。お前は善人か何かか? 自身の理想の為に行動して何が悪い。お前の親父も同じことだろう」


 ロンベルトは足を組み替え、肘掛に頬杖を付く。


「貴様みたいに暴力に任せて国を治めようとしていた訳じゃない!」

「フンッ! 力が無ければ下は付いてこない。民もその力に頼って生きているではないか」

「そうやって自分を正当化すれば人を殺めても良いのか!」

「めでたい奴だな。お前に国を統べる力は無い、大人しく従え」


 ロンベルトは気怠そうに立ち上がり、ポキポキと首を鳴らし始める。


「国を治める気は無い。だが、貴様がこの国の王になる事は許せない! 現に白王はくおう様がいる以上貴様には王の座に付ける訳が無いだろう!」

「ハハハ! どこまでめでたい奴なんだ」


 ロンベルトは腰に据えていた長剣を引き抜き、ゆっくりと歩き出す。カランカランと床に剣を引き摺り、玉座の前の階段を一歩一歩降りる。


「リリは行方不明、エミルの身柄も確保している。残るオルドール家はお前とあの小さな妹だけだ。白王の証と呼ばれる剣は、何故かあのリムとかいう訳の分からない者が持っているが」


 階段を下り切ったロンベルトは、深く溜息を付きドームを指差した。


「私は知っているぞ。白王の証である剣はオルドール家にしか継がれない。この国を治める以上、お前達は邪魔なのだよ。淡々と機を伺っていたが、これほど絶好の機会はないだろう」

「オレ達を排除した所で民が着いて来るとでも思うのか!」

「簡単な事だ。私にはシラルドがいる。お前ももう気付いているだろう、シラルドの力を」


 ドームは城門での戦いで能力の一端を見せたシラルドを思い出す。


「催眠の類だろう。だから何だというんだ! オレ達はもう真実を知った。貴様を退け、民を救う!」

「お前が私に勝てるとでも?」


 ロンベルトは右手に握った長剣を身体の後ろに引き、戦闘態勢に入る。


「例えオレが犠牲になろうとも貴様だけは許さない!」

「その憎悪すらへし折ってやろう」


 ロンベルトは構えた剣を左上段へ振り上げた。


残光閃ざんこうせん!!」


 以前ザハル戦で放った光の斬撃である。宙を漂う光の刃を切り付けたロンベルト。剣でなぞられた斬撃は、挙動を悟られる事無く一瞬でドームへと迫った。

 辛うじて半身になり斬撃を避けるも、胸部の服は裂けていた。早すぎる斬撃はドームの動作を遥かに上回る。


「貴様、本気か!?」

「本気? 早く目を覚ますんだな。何度も言わせるな。私は元より本気だ」


 再び剣を構えたロンベルトは光の斬撃を形成する。ドームは腰を落とし、拳を合わせた。


窒息円煙サークルスモーク!」


 周囲に煙幕を作り、挙動を悟らすまいと斬撃に応じる。しかし、ロンベルトは真横に剣を薙ぎ払い、横への回避を困難とする斬撃を飛ばす。

 煙幕の中、再び回避困難な光の斬撃を何とか身体を伏せる事で回避した。頭頂部の髪の毛を一センチ程切られ、焦りを隠せないドーム。


「いつまでも避けてばかりでは埒が明かないぞ? ドームよ。まあ、近付く事さえ困難だろうがな。ハハハ!!」


 正にその通りである。幾らドームの身のこなしが良くとも、いくら常人より身体能力が高く、俊敏な動きが出来ようとも、光の速さには勝てない。しかし、次々と飛んでくる光の斬撃を間一髪で躱すドームも、異常なまでの反射神経である事に変わりはない。


 高らかに笑いながら光の斬撃を繰り出すロンベルトは、攻撃の手を緩める事は無い。徐々に身体に傷を増やすドーム。床に血を垂らし、息も絶え絶え、成す術も無く体力を奪われていった。煙の中で息を殺し、気配を消す。しかし、煙へと飛ばされる無差別な光の斬撃は、ドームを休ませる事は無かった。


「気配を消そうとも意味は無いぞ? その中から出なければ同じ事。命乞いでもするか? オルドール家を助けて下さい、となぁ!!」


 ドームにとってロンベルトは、明らかに相性の悪い色力。相手に悪影響を与える能力は攻撃主体ではない。あくまで攻撃はドーム自身から繰り出すしか無いのである。

 険しい表情のドームは光の斬撃を躱しながらも必死で機を伺う。


「悔しいか? 当然だろうな、ハハハ! お前らの能力を知った上で私の元で働かせていたのだからな! 反逆なんぞ計画の内だ」

「く……っ!」


 劣勢のドームは覚悟を決めたかの様に煙幕を解いていく。


「どうした、もう終いか? 一〇分と経っていないぞ」

「ああ、貴様に一撃を食らわせる……っ!」

「ハハハ! その状況でよくも言えたものだな。そんなハッタリなんぞ真に受けるとでも思うか!」


 ロンベルトは歯を見せ、ニヤリと微笑んだ。左手を出した先には直径一メートルにもなる巨大な白い光の玉。その光の玉を縦に横にと切り込んでいく。


「これで終わらせてやろう!」


 網目状に形成された光の斬撃がドームに迫る。


「こんな所で死ねるかああ!!」

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