第44話 卑劣

――――ホワイティア城 城門前。


「ド、ドーム様!? お止めください!」


 エミル誘拐の容疑を掛けられていたドーム達が城へ突入してくるという情報は、既に城内へと伝わっていた。衛兵達はロンベルトの命を受け、城の警備を強化していた。

 程なくしてリム達は城へと到着し、衛兵との戦闘に入る。


「ドーム様! 貴方達とは戦いたくありません! どうか拳をお納め下さい!」

「すまん……」


 ドームは目にも止まらぬ速さで、衛兵の腹部へと拳を突き立てた。衛兵は甲冑を身に纏っていたが、猛烈なスピードに乗った拳はいとも簡単に甲冑を砕き、鳩尾へと到達する。


「かはっ!」

「すまん……」


 ドームは俯きながら何度も謝り、何人もの衛兵を地に沈めていく。一般の衛兵には色力しきりょくを使うまでも無く、己の身体能力のみで攻撃を続けていくドーム。


「ミ、ミル様ぁ!! お止めくだ――」


 やはりミル、と言った所。次々と城内より現れる衛兵を息も付く間に手刀を用いて気絶させていく。ミルは無言だった。ドーム同様、不本意な戦闘に歯を食いしばりながら衛兵を墜す。


「いやー怖い怖い。お前らだけは相手にしたくないな」


 リムとタータが、倒れた衛兵の合間を縫って後に続く。絶え間なく出てくる衛兵達に、一層構えに力を入れたドームは一喝した。


「オレはホワイティアを捨てる!! 家族を陥れた国などもはや敵も同然! まだロンベルトあいつに従うと言うのなら止めはしない! だが、こちらも命を懸けている以上覚悟してもらおう!」


 ドームの一喝は衛兵達を震え上がらせた。諜報員といえど、白王はくおうリリやロンベルトの信頼も厚い煙霧兄妹インビジブルホワイトは、衛兵達の間でも畏怖されている。

 ドームの威圧もそうなのだが、やはり衛兵が特に恐怖したのはミルだった。ドームの右に立ち、愛用の短剣を器用に回すミル。トントンと小刻みに跳ねるミルは戦闘準備が整い、いつか分からない状態である合図でもあった。


「衛兵達よ、引く事は許されまいぞ?」


 城内より現れたのは図書館の司書シラルドだった。


「ロンベルト様より命を受けている以上、お前達を退却させる事は無い。命が惜しければ戦う事じゃ」

「し、しかし! 我々では歯が立ちません! どうか! お慈悲を!」

「ふむ、仕方が無いのぉ。おぬし、こちらに来なされ」

「は、はい!」


 足を竦ませながら衛兵はシラルドの前へと進み、シラルドが持っていた大きな鏡を見る様にと促された。


「今映っているのはおぬし自身の姿じゃ。どうじゃ?」

「え? ど、どうと言われましても」

「滑稽じゃろうて」


 鏡が光を放った瞬間、目の前にいた衛兵は身体の力が抜けた様に、だらんと腕を下ろした。

 束の間の後、無言で振り返りゆっくりとドーム達へと歩き始めた。躊躇う様子も無く淡々と歩き、目の前まで来たところで止まった。

 徐に剣を構えた衛兵はドーム達の顔を見つめる。


「容赦はせんぞ」


 ドームが拳を構え、腰を落とした。しかし、振り上げられた衛兵の剣は、前に振り下ろされる事は無かった。

 ドームは俯き、肩を震わせる。地面に転がる衛兵の頭。衛兵は自害したのだ。


「これが……これが貴様らのやり方かあああああ!!」

「どう転ぼうと命を落とすならば、不要な人間は要らぬぞ」


 残る衛兵が転がった頭を見て、震え上がる。


「シ、シラルド様! ご勘弁を!」

「私はロンベルト様の命に従っているだけじゃ。おぬしらの意思は自由じゃよ。ホッホッホ」


 高らかに笑ったシラルドの声に、更に衛兵達の身体は強張る。シラルドはそのまま城内へと消えていった。


「チッ!」


 勿論、ドームは無駄な殺生をしたくは無かった。拳を握り締め、徐々に煙を帯びていく。意図を察したミルは後方へ下がった。


窒息円煙サークルスモーク!」

「あぶっ!」


 発生させた煙が周囲を覆い始める。リムとタータも慌てて後方へ逃げた。煙に覆われた衛兵達は、薄くなった酸素の前に成す術無く膝を付いていく。


「……お前らは絶対許さんぞっ!!」


 ドームは身の内から怒りが込み上げた。城を見上げ、声を張り上げる。


「兄や、行くよ」

「ああ」


 ドームとミルの目は座っていた……。

 

――リム一行、ホワイティア城門前制圧。

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