第43話 逸る気持ち

――――白星はくせいの泉より南東の上空。


「そろそろイーグも呼べるか。流石に足に掴まっているのも大変だろう」


 リムは遠く離れた地上を見下ろし、ぶるぶると震えながらドラドラの足にしがみついていた。見かねたドームが些細な優しさを見せる。


「おおお、お願いします! こ、怖いいいいいい!」

「リムちんぷるぷるー、アハハ☆」


 ミルとタータはドラドラの背に乗っている為、非常にお気楽である。リムの震える姿を楽しそうに笑う。しかし、家族であるエミルを忘れている訳では無い。焦った所でどうしようもない、今はエミルの元へ一刻も早く向かうだけである。


 ドームは指笛を鳴らしイーグを呼んだ。パインリーの村の近くにあった森から、ピーと聞こえてくる。姿は見えないが指笛に答えたイーグはとても耳が良い。

 暫くした後に近付いてきたイーグは、ドラドラの姿を見て目を見開いた。一瞬何かを思ったのだろう、自分以外の背に乗ったミル達。しかし、背を預けている事を考えるとに危害を加える事は無いだろう、と。


「イーグ! ありがとう☆ 足に掴まってるにいやとリムちんを乗っけてくれるかな!」


 ピーッと一鳴きし、飛行するドラドラの下にまわる。背に乗れる準備を確認したドームとリムは、イーグの背に飛び乗った。


「ひやああ、助かった! 怖くてちびりそうだったわ!」

「この位でちびってたらもたないぞ」

「どんなことさせるつもりだよっ!」


 ビシッとドームの腕を叩き、華麗に突っ込みを入れるリム。


「それよりさ、何か策はあんのか?」

「そんなもんある訳が無いだろ」

「はあ!? どうするんだよ!」


 リムは再び突っ込みを入れる為に、ドームの腕を叩こうとしたがサラリと躱されてしまった。


「とりあえずさー! そのまま城に行くのはマズいと思うんだよね! ストーンリバーで様子を見ようよ!」


 ドラドラの背からミルが声を張った。ドームは頷き、イーグへストーンリバーの少し外れへ降りる様にと囁いた。

 一行は城から迂回し飛行を続けた。



――――ストーンリバーの街。


「様子を見ると行ってここに来たはいいが、何やら落ち着きが無いな」


 街の住人は、道往くリム達を見ながらひそひそと話をしている。ドームは住人に声を掛けようとしたが、家の中に逃げる様に隠れてしまった。


「なんだ。何があったんだ?」

「嫌われてるんでしょ」


 左を歩くリムは冗談を言ったつもりだったが、ドームから無言の拳骨を食らった。


「あんた達! 何したんだ!? 逃げた方がいいよ!」

「どういう事だ?」


 突然住人の男性が慌てた様子で駆け寄って来る。


「エミル様が誰かに攫われたらしくて、君達に容疑が掛かってるんだよ!」

「なんだと!?」

「もう先手を打たれたみたいだね」


 リムはやはりといった感じで首を横に振った。


「悠長な事を言ってる場合じゃない! 行くぞリム!」

「折角様子を伺う為に潜伏したのにもう行くのかよ」

「家族が危機に晒されているのにゆっくり井戸端会議なんてしてられるか!!」

「とりあえず落ち着けって。攫われたんでしょ? って事は人質だろ? とりあえず今は殺される心配が無いって事。罠だよワーナ、分かる?」


 ドームは逸る気持ちを必死に抑え、やり場の無い気持ちを隣にあった小樽にぶつけた。拳で砕かれた小樽からは多量の蜜柑が転がり道を遮る。


「でも罠って分かってても行くしかないんじゃん? はい、どうぞ☆」


 ミルは転がった蜜柑を一つ手に取り、皮ごと半分に割った身をタータへ渡した。満面の笑みを浮かべるタータは、一房一房丁寧に取り出し美味しそうに口を動かす。


「はあ、仕方ないか。ほんじゃ行きますかね!」


 リムは左角をさすった後、赤い鉢巻きを締め直した。



――――ホワイティア城 玉座の間。


「来るがいい、オルドール」


 本来この地を治める者しか座らない筈の玉座に、ロンベルトが薄ら笑いを浮かべながら座っていた。


「エミル様を攫うだなんて、貴方も趣味が悪いのね」

「ふん、なんとでも言うがいい。所詮お前の様な異色者いしょくものには分かるまい」


 玉座後方の暗がりから、黒法師くろほうしが姿を現す。


「あ、そうだ。白星オルディアに会って来たわ。結構大きな身体をしてるのね」

「何!?」

「どうなる事かしらねえ、ウフフ」


 ロンベルトが玉座後方へ振り向いたが、黒法師は既に暗がりの中へ消えていた。


「ちい! まさか生きていたとはな。しかし今更遅い! 白王はくおうの剣無き今、白星など恐るるに足らん!」


 ロンベルトは右掌を上に向け、光の球体を作り出す。ゆっくりと浮き上がった拳程の大きさの球体は、ゆっくり、ゆっくりと石の床へと沈む様に消えていった。



 一人は野望の為に、手段を選ばず。

 一人は姉の為に、前を向く。

 一人は妹達の為に、覚悟を決める。

 一人は友の為に、身を預ける。


 一人は……服の為に、世界を揺らす。

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