第36話 曖昧な壁
――――パインリーの村。
ここパインリーはオルドーの村と同様、ホワイティア辺境の村である。
大きな違いは海に面している街道があり、南北へ行き来する商人の休憩拠点の一つである。と言いつつ特別大きな市場がある訳では無く、単に商人が夜風を凌ぐ程度だった。
宿屋が立ち並び、物資と呼べる物の市場は存在しない。一日二日の食料を調達できる程度だろう。
建物の材料は花崗岩気質の岩石で出来ており、悪天候位ではビクともしない頑丈な造りとなっている。白色の石が殆どであり、現代でいう御影石のそれと似ている。
「アタシはここらで潜っておくワ。こんな姿じゃ流石に村人もビックリするでしょ?」
「えードラドラと一緒が良いー」
物資補給班一行は村の入口付近まで来ていた。頬を膨らませ駄々をこねるタータは見た目に反して子供っぽい。どうにもドラドラは、タータの言葉には弱い様だ。我儘を言うタータにどう返せば良いのか分からずたじろいでいる。
「タータ、流石に人の宿にはこんな大きなドラゴンは入れないだろ? イーグみたいに大きさを自在に変えれるなら別だけど」
あやす担当のリムは
「ドラドラ、また明日ね♪」
「ええ、いつも一緒ヨ」
傍から見ていると微笑ましい限りの会話である。タータは杖を取り出し地面に軽く突き立てると、毒々しい沼が杖を起点としてじわりじわりと広がっていく。ドラドラは直径五メートル程まで広がった沼へと沈み込む様に入っていった。
「はい! ドラドラお休み♪ タータお腹空いたんだけど」
「ミルもお腹空いたー。動くとお腹空くよねー☆ 果物とか売ってないかなぁ?」
「いや、金無いんだろお前ら……」
「これをこの村の自警団に持っていけば少しくらい報奨金は貰えると思って☆」
「ああ、なるほど。こんな物騒な所じゃそういう稼ぎ方もあるんだな」
ミルは仕留めた三匹のディンゴを村奥へと引き摺って行った。
「あ、ミルっち待ってー!」
「あ、タータ! オレは暫くここにいるよ! ちょっとやりたい事があるから! 後で追いつく!」
「あいあーい♪」
タータはミルの後を追い駆けていった。村の入口付近に残ったリムは左手を握り締め、少し外れの空き地へと足を向ける。
――――パインリーの村外れ。
「さてと、もう少し特性を理解しておくか」
左角を軽くさすった後、左手を見つめた。目を瞑り、修行時に行ったイメージを再び始める。何回か発生させた経験を活かし、テニスボール程の灰色の水晶玉をイメージする。
ふわりと地面から舞い上がる風がリムの髪を浮かした。再び現れた例の半透明の壁は、リムをドーム状に覆っている。
「よし、イメージした通りに発生させる事はできたな。次はっと」
再びイメージしたのは一枚の壁。すると、半透明の壁はドーム状から前方へ一枚壁の様に形を変える。
目を瞑ったまま更にイメージする。前方の壁は手の平サイズから家屋をも超える程の大きさへ。自在に伸縮し長方形や正方形、三角形など大きさや形状を自在に変えていく。
「ほほー、意識を集中させればここまでできるのか。さてお次は」
半透明の壁を自身に引き寄せ、手を出してみる。壁の内側にはリムの身体、外に腕を出した状態で地面に咲いていた青い花を千切る。勿論壁の外にある為、花に変化は見られない。花を持ったまま腕を引き、壁の内側へと持ってくる。すると、ディンゴの様に色素を吸われた花は色を無くし枯れていく。
「ふむ……」
手に持たれた枯れた花を握り、ボロボロと崩れ落ちていく。次いで試したのが木の枝である。それなりに登って遊ぶ事が出来そうな木を探し、よじ登っていく。
葉の付いた木の枝を一本折り、地面へと飛び降りる。流石に小柄だと身軽である。地面に降りたリムは再び壁を形成し、折った枝を自分へと突き立てる様に構えた。ゆっくりと壁を通過する枝、花同様に通過した部分の色素が無くなり灰の様に変化していく。しかし、花より強度のある枝は原型を留めそのままリムの身体へと到達した。
「
(曖昧な壁、変幻自在、防護壁、エリア……灰色……)
「ははーん、分かったぞ! そうか、ハハハ! なるほどね! こいつは好きになれそうな能力だ!」
「何をそんなに嬉しそうにしている」
「あだほあっちゃああ!?」
いきなり声を掛けられたリムは、身体の前で両の掌をピンと伸ばし腰を落とした。宿屋からリム達を探しに村の外に出て来たドームだった。
「何をってそりゃ自分の能力が分かると嬉しいだろ? ってか宿屋は取れたのか?」
「ん? あ、まあ……大丈夫だ」
「なんだその返事は」
じっとりとした目でドームを見つめるリム。
「コホン、んでどんな能力なのか分かったのか」
「ああ、お前らが色々と言ってた事と今改めて検証した結果を述べよう! オレは色素を吸収し、変幻自在の壁を形成できる!」
「……」
「何か?」
二人の間に微妙な空気が流れる。
「それは分かっているが?」
「あ? いや、あの……そう! 自在に操れるんだ!」
目の前で半透明の壁をビヨンビヨンと形状を変化させて見せた。
「それはおおよそできるだろうとは思ってたが」
「だから防御だよ! ちょっと性能的に曖昧な部分もあるけど、色素を通さないんだよ」
「それは身を守る上ではかなり有効だろうな。だが、先程見た感じだと枝が身体に当たっていたが?」
「そこが曖昧なんだよなー」
地面に落としていた枯れた枝を拾い、半透明の壁をスカスカと通して見せた。
「曖昧な壁か、名前でも付けたらどうだ?」
「名前? まあそうだなー……考えとくか」
「好きにすればいいが」
「とりあえずお腹空いたよ、村に戻ろうよ」
「あ……ああ」
「ん?」
「いくぞ、その壁をしまえ」
この曖昧な壁はリム、もとい
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