第35話 吸収される生命
――――パインリーより南 廃屋。
「なーんもねーなー」
「タータあっちの家見てくるー。ドラドラ着いてきてー♪」
「勿論ヨ、ご主人」
何件かある廃屋に分かれて入り、物資を漁る三人と一体。いつ廃れたのかも分からない程朽ちた家は、今にも崩れ落ちそうである。
「そもそも何を探すっていうんだよー」
「分かんなーい☆」
「もういいよ……」
リムはガチャガチャと割れた食器を放り投げながら屋内を見渡す。原型を留めている食器は無く、木製の椅子や机も脚が折れ、生活できる環境では無い。窓ガラスは割れ、カーテンとして使われていた褪せた緑をしたオリーブグリーンの布は、ボロ布となって外からの風に靡いている。
「ん? これはなんだ?」
陽が徐々に昇り、時刻は正午前。割れた窓から差す光に何かが反射する。崩れかけた部屋の隅に落ちていたのは刃渡り十センチ程の小型の刃物。
「果物ナイフかな?」
手に取った拍子に何かがガラガラと音を立てる。
「ひい!」
辛うじて人の形を保っていた白骨化した死体が、リムに迫る勢いで崩れ落ちて来た。
「なんで骸骨がここに!?」
「あー、恐らく盗賊かなー。結構前だねー。着てる服が噛み千切られている感じがするから、近くの森に魔物でもいるのかな?」
「おおお、恐ろしい事言うなよ! それフラグだろ!」
廃屋の外からいくつもの足音がリム達を取り囲む。
「ほらー! だから言ったじゃん!」
「あはー! ディンゴだね☆」
「だね☆ じゃねーよ! どうすんだよ!」
「良い機会だしリムちん、ちょっと
「そんな簡単に言うなよ……」
「大丈夫大丈夫! なんかあったらタータもドラドラも居るし☆」
唐突な危機に瀕したリムは考えた。どうすればこのディンゴを制する事が出来るのか。右手に持たれた短剣を見つめ、同時に左角をさする。
「は!」
リムは角をさすった左手を見つめ何かを思い付いた。右手の短剣を握り締め、恐る恐る廃屋の外に出る。
目の前に見えるのはリムの身体一五〇センチを上回る、焦げ茶色の短毛をしたディンゴ。距離は凡そ一〇〇メートル。
鋭い爪を地面に食い込ませた四肢、首は真っすぐリムを向き赤い眼は鈍く光る。尖った耳もリムへと向き、行動一つ一つを音で監視している。僅かに開いた口元には鋭利な犬歯から滴る涎。久しぶりのご馳走と言わんばかりに飢えた様子が伺えた。
血生臭さとディンゴの獣臭と共に、砂混じりの潮風がリムへと吹く。
「一、二、三……五匹か。ちょっと多くないか」
後方にある廃屋から、風に揺れたボロ布が割れた食器を落とす。一瞬気を取られたリムを見逃さなかった一匹のディンゴが、咆哮と共に猛スピードで襲い掛かってきた。
「いいっ!」
リムは咄嗟に左手を前に出し掌を広げる。例の灰色の半透明の壁がリムを包み込んだ。ディンゴは躊躇う事無くリムへ突っ込む。が、飛び掛かったディンゴが半透明の壁へ接触したその時、通り過ぎる身体が触れた部分より朽ちていく。
半透明の壁とリムの間には、体液を吸われたかの様に干乾びたディンゴの死体が横たわった。
「ひぃ!」
「おほー☆ なんてこったい☆」
二体目のディンゴも、同様に飛び掛かって来たが結果は同じだった。
「危険な能力だワ、吸収とは良く言ったものネ。まるで近づけやしないじゃない」
別の廃屋を探索していたドラドラとタータが合流する。
「おーけーおーけー! リムちんもういいよ☆ 殺っても良いって言ったけどちょっとやりすぎ☆ 後は任せて☆」
腰に据えていた短剣を器用に回し、ミルが前に出る。
突如、リムは追い風を感じた。ミルがディンゴへと飛び込んでいった際の風圧が、リムを巻き込んだのだ。瞬時に引き寄せられる程の風を発生させる、それほどまでに瞬間的な速さで突進をしたのだ。改めて人間離れした速さを体感したリムは腰を抜かす。
「折角獲物が取れるのにカラカラにしちゃったらダメじゃん☆」
もはや芸当である。目の前から消えたと思えば、残る三匹を引きずり目の前に戻ってきたのだ。
「リムちんの力はちょっと使い方を考えないとダメだね☆」
「ばっちぃよリムっち♪」
タータが小枝でリムを小突く。我に返ったリムは一呼吸しグッと左手をしまうと、半透明の壁は徐々に薄れ消えていった。目の前に転がった二匹の死骸を見つめ呆然とする。
「意図的に
「とりあえずこの三匹を村へ持って行こっか! 何かしらお金の足しになるかもね☆」
三人と一体は廃屋を後にし、ドームが待つパインリーへと向かった。
「今日もいい天気でー良い気持ちー。森に棲むディンゴもちょちょいのちょいー」
歌いながら歩く二人は呑気に小枝を振り回す。仕留められたディンゴを背負うドラドラは、後ろを歩くリムを視界に入れつつ後に続く。
左手を見つめながら歩くリムは、今まで起こった力に関する出来事を思い返していた。
「理に反している、か……」
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