第34話 弱点の発見

――――ホワイティア城より西 上空。


「グーキーパッ!」

「だあー、ちくしょう! なかなか難しいな」


 リムの華奢な上半身は飛行するイーグの上で徐々に冷えていた。言い出しっぺはリムだった。


「もう下と鉢巻きしか残ってねえ!」

「キャハハ! これ楽しい☆ もっかいやろもっかい☆」

「い、良いだろう! グーキーパッ!」


 リムは渋々鉢巻きを取る。残るは柔道着の下のみ。

 そう、脱衣勝負をしていたのだ。対するミルは何一つ脱いでいない。


「も、もう後が無いであります……や、止めにしませんか?」

「えー? やろうって言ったのリムちんだよー☆ 最後までやろうよ」


 下心丸出しである。リムは暇な事に託けて、勝負という大義名分で女の子の裸を見ようとしたのだ。当然、上手くいく訳が無い。思い通りにならないのが世の常だ。それを体現するかの様に裸になっていくリム。


「リムちん弱いよー!」

「ぐぬぬ……」

「おいお前ら、そろそろパインリーだ。服を着ろ、変態」

「プッ、変態」

「う……」


 腕を組み胡坐をかいたまま、ドームの背中から変態という言葉が飛んできた。とうとうドームにまで変態扱いされたリムは言葉が無かった。


「少し外れで頼む。いきなり村中に降りたら流石に村人達が驚くからな」


 ピーと一鳴きした巨鳥イーグは、パインリーの少し南の空き地へと着地した。


「ふぅ、イーグの背中はいつ乗っても心地が良いな」


 リムは自然と心の声が漏れたのだがイーグは聞き逃さなかった。リムをじっと見つめ、瞬きを繰り返す。視線に気付かないリムは村を見ていた。


「ありがとう、暫くは歩く事になるからこれで終いだ。またな」


 ドームに軽く頭を撫でられたイーグは一鳴きした後、再び上空へと姿を消した。


「一先ず物資の調達と宿屋を探そう。宿屋はオレが、食料と装備諸々はお前らに任せよう」


 ドームは三人に告げると小さめの麻袋を肩に担ぎ、パインリーの村へと歩き始めた。


「さて! 食料調達班いっくよー☆」

「行くって何処に。村に何かしら売ってるんじゃないのか?」

「何言ってるの? お金なんか持ってないよ」

「え? じゃあドームはどうやって宿屋を?」

「知らなーい☆」

「知らなーい♪」


 相変わらず呑気な二人である。


「はあ……あっちに廃屋っぽいのがあるけど、なんか道具みたいなの調達できそうかな」


 リムが指さしたのはパインリーとは反対、南側に位置する場所。川向こうに廃屋が建ち並んでいた。

 勿論舗装などされている訳が無い。固い地面には細かい砂、大小様々な石や岩。海に面している為、風が潮の香りを帯びている。無造作に生えた木々は、潮風を遮る役目を果たしてはいなかった。


「レッツゴー☆」

「レッツゴー♪」

「おいおい、提案しただけだぞ? ちょっとは考えようとか無いのか?」

「じゃあ行かないの?」

「いや、行くけども!」

「レッツゴー☆」


 地面に落ちていた朽木の小枝をブイブイ振り回すミル。タータも自身の杖を持ち、ミルとチャンバラを始めた。


「ハァ、先が思いやられるよ」


 廃屋まで行くには川を渡らないといけないが、十メートルはある川幅は流石に渡り切れない。流れはさほど急ではないが、リム達の肩まで浸かる程深い。三人は渋々少し下流にある橋へと迂回する事にした。


「ねーねー、ミル? オレの能力ってどう思う?」

「どう思うって言われても分かんない☆」

「ですよね……」

「でも色素しきそを吸収してると思うの。兄やも言ってたけど、並みの色力しきりょくじゃ歯が立たないねって」

「この世界に色素を有していない人間っているの?」

「知らなーい☆ 多分いないと思う☆」

「聞いた相手が悪かったよ」

「あ! 今バカにした!」


 ミルは持っていた小枝を投げ付けた。守る様に咄嗟に出した右手。すると例の灰色で半透明の壁が円柱状にリムを囲む。しかし朽木の小枝は何事も無くすり抜け、リムの頬を傷付けた。


「ん? 今出た! 壁が出た!」

「でもリムちん、ほっぺ切れちゃったよ?」

「あで?」

「生命力ヨ」


 突如聞こえてきたのは、楽しい会話に耐えきれずタータに出してもらっていたドラドラだった。


「あー、良く寝たワ! 賑やかだしご主人もスゴイ楽しそうだったから出してもらったわあ」

「出た! オネエ言葉のドラゴン!」

「あら失礼ネ! ちゃんと付けてもらった名前があるんだから! 食べちゃうわヨ?」

「っとまあ冗談は置いといて、生命力?」

「ええ、生きる力。色素っていうのはアタシ達生き物全てにあるわ。色素っていうのは命のもとヨ」

「ああ、なんとなく理解した。だから色素の無い、生命力の無い枯れた枝はオレの壁をすり抜けたのか」

「どうかしらネ、アナタの壁がどういうモノかは分からないけど」


 ミルは再び持ってきた少し長めの朽木の枝で壁をつつく様に確かめる。勿論すり抜け、何も起きない。


「シッシッシ、今だ! ミルソード!」


 振りかぶられた小枝はリムの頭を直撃する。


「痛ってーなこの!」

「キャハハ! リムちんの弱点はっけーん☆ タータん、枝持ってきて! リムちんに投げよう☆」

「うん♪」

「やめんか!」


 二人は一目散に逃げていった。


「ドラドラ? だっけか。って事はを有していないモノや色力を纏っていないモノ。所謂完全物理系には効果が無さそうって事か?」

「アナタのその壁が素を吸収するモノならネ」

「ほーん」

(この情報は有力だな。実証もできたし、更に検証するか。後は自在に操れる様になる事が肝か)


 リムは腕を組み、右手を顎に当て考え込んだ。


「無闇にその壁を出されると周りが危険だから気を付けることネ」

「ああ、そうだな。教えてくれてありがとう」

「あら、素直じゃない。アタシ、そういう男好きヨ」


 ドラドラの鋭い目からハートが飛んできそうな勢いでウィンクをされた。


「気持ち悪いわ! お前もオスだろうが!」

「ハア!? アンタ今気持ち悪いって言ったわネ!? アタシは女よ! オ、ン、ナ! そこらへんに居る気持ち悪いムキムキマッチョと一緒にしないでくれるかしら!」

「メスなの!?」

「女よ! しつこいわねアンタ!」

「あ、はい。女性ですね、ハイ……」


 ドラドラの目は怒っていた。口からは毒混じりの涎が垂れ、落ちた地面からは蒸発した様な煙が立ち上っていた。


(ひい! コイツ怒らせるとヤバそうなんだけど! なんなんだこいつは。またキャラの濃い奴が……)


 三人と一体は、廃屋へと足を進めるのだった。

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