第27話 互いの意思

――――時は戻り現在 ロングラス大平原西部 修行地。



「ご主人様は家族を失い、孤独だった。でも私と出会う前の記憶が今は無いのよ。あまりのショックに一時的な記憶喪失になっているの。家族が生きているのかも分からない、孤独感だけが常にあったわ」


 タータの無事を確認したドラドラは静かに口を開いた。


「ご主人様と出会ってからワタシはご主人様と常に一緒だったわ。それはもう素敵だったわぁ。色々旅もしてきたし、度々戦闘に巻き込まれて生き物を殺す事にも慣れてきた。でもネ? ワタシは感じちゃうの。ご主人様の心が分かるのよ、凄く寂しそうだった……」


 リムとドームはただ無言で話を聞いていた。


「そんな時にザハルちゃんに出会った。凄くトキめいていたわ! ワタシも嬉しかったのよ。でもそれも一瞬、ほんの一瞬だった。戦い、戦い、戦いに駆り出されてはくだらない、つまらないと心で叫んでいた」


 ドームは、ドラドラが戦闘の意思が無い事を確認したのかミルを優しく抱え上げ、近くの木陰へと寄せ掛けた。


「そこで出会ったのが貴方達よ。もう心底嬉しそうだったわぁ。ドラドラ! タータこの人達と一緒にいる! なんてはしゃいでいたわよ。色星しきせいに誓うだなんてって思ったけど、ワタシはご主人様に従う、ただそれだけ。ご主人様が嬉しい事はワタシも嬉しいのよ」

「んんん……」

「ご主人様っ!」


 倒れ込んでいたタータが目を覚まし、痛そうに頭を押さえた。飛ばされたとんがり帽を器用に爪で引っ掛け、タータに被せると優しく寄り添う。


「うーん、タータ生きてる……? ミルっちはどこ?」

「あそこの木陰にいるわ。二人共無事で良かったわ」

「そっか♪ じゃぁ仲直りしないとっ♪」


 木陰で気を失い座ったままのミルへ走り寄っていく。しかし、その前にドームが険しい顔で立ちはだかった。


「許したとでも思っているのか。お前のした事、忘れはせんぞ!」

「ドーム!」


 リムの一喝でドームは口惜しそうに顔をしかめる。


「ミルっち……起きて」


 タータは手の平を出すと淡く光り出し、少量の水が湧き出てきた。水を両の手で優しく包みミルの口元へ運ぶ。復讐心に燃えた相手へ近づくだけでも危険な状況で、更に目を覚まさせようとしている。ドームは復讐と動揺とで混乱していた。


「コホッ!」


 少量の水を口に含み、喉を通った時ミルが目を覚ます。ミルは咳き込み、地面に吐き出した水を見つめた。暫しの沈黙、見上げたそこにはタータの笑顔があった。


「タータん……ミル、また殺してしまいそうになるかも知れない。タータんは殺したくない、ごめんね。さよならだよ」


 タータは無言で再び手の平を出し右手には水を、左手には火を。二つを合わせ蒸発した水は霧となりタータとミルの間に漂う。タータはその霧を思いっきり吸い込んだ。


「タータはミルが欲しい。だから吸った♪ 棘が有っても、毒があっても。タータはミルが欲しいから吸った♪ タータは……」


 今まで笑顔しか見せなかった目に涙が溢れた。


「タータは……友達が欲しい! 一緒に居てくれる家族が欲しい! 時には痛みもあるかも知れない! でもタータは友達が……ミルが欲しい! 殺すなら構わない! でもタータは友達を殺さないっ!! 家族を傷付けないっ!!」


 ミルの肩を掴み、顔を歪ませ泣きじゃくった。


「タータん……」


 泣き崩れ膝を付くタータをそのままにミルは立ち上がった。地面に落ちていた短剣を握りしめ、おもむろに振り上げる。


「ミル……!?」


 ミルが振り上げた銀色の復讐心は、迷う事無くミル自身の左手の甲へと降ろされた。


ッ!」


 その行動に気付いたタータはミルへと振り返り、握られた短剣をそのまま右手で掴む。手から垂れた哀しみをしっかりと見つめ、ミルの手ごと振り上げた。

 勢い良く振り下ろされた短剣は、同様にタータの左手甲を貫く。


「痛ッ! ミルっち……これで一緒だね♪」


 涙と喜びでぐちゃぐちゃの顔は無邪気な笑顔だった。地面に落ちた悲しみと喜びの血は混ざり、ちぎりとなった。


「血のちぎりは互いの意思が繋がる事で交わされる。混色派生ミキシングと呼ばれる儀式だ」


 ドームは複雑だった。しかし妹の、ミルの意思を尊重した。混ざった血から毒霧が湧き出る。



 混色派生ミキシング、互いの色力しきりょくが混ざり合い出来た新たな色力を互いに受け入れる。それによって互いを同種と認めるものである。必ずしもできる訳ではなく、勿論相性というものがある。混色派生ミキシングした者同士は、互いの色力から派生した力を得る。



 ミルとタータは発生した毒霧を吸い込み、咳き込み、互いに苦しんだ。しかし傷付いた手の甲は即座に治り紋様が現れる。

 ミルの手の甲には、紫の竜の紋様。

 タータの手の甲には、白い霧の紋様。


「色星に誓う。ミルはタータを傷付けない。タータを大切にする」

「タータもっ! 大切な友達を傷付けたくない!」




「ご主人様……」


 ドラドラは嬉しそうな顔を浮かべ、一時の後に毒沼へと潜り姿を消した。



「あらら……これはまずい事になったーし。まさか混色派生ミキシングできるなんて危険だーし。早い内に始末しといた方がいいかなぁ。どうしよう、でも勝手に動くとアイツ五月蝿いからなぁ。とりあえず報告だけはしとこ。よっと」


 遥か上空で事の顛末を見ていた道化がふわふわと漂っていた。姿は正しく道化師といったところである。道化師は重力が掛かっていないかの様にふわりと身体を動かし、東へと飛んでいった……。



 ミル・オルドール。オルドール家三女。霧の悪魔ミスティデビル

色素しきそホワイト。色力(混色派生ミキシングバイオレット)、霧、毒、???】


 タータ・ヴァイオレッタ。流浪色操士しきそうし

【色素、バイオレット。色力(混色派生ミキシングホワイト)、毒、火、水、霧、???】

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