第24話 揺れる世界

 リムはモノクロームの空間に居た。そう、先程まで激しいぶつかり合いが起こっていたロングラス平原である。しかし辺り一帯が全て止まっていた。

 全てがモノクローム。風が無い、音も無い、草花の匂いも届かない。虚無の時間が流れる。いや、流れてはいない。虚無に漂っているのだ。


「貴方、この世界をどうするつもり?」

「貴様、壊すなら我が手伝おう」

「そんな野蛮な事、私は許しませんわよ?」

「フン、たわけ者。ホワイティアの王だか知らんが、その甘い考え方が嫌いなんじゃ。何も出来んくせにピーピー喚くな」

「あら? でも黒王こくおうガメルでも今の状況じゃ何もできなくて? ウフフ」

「くっ! こやつ次第じゃ」

「リム? 今の状態じゃこの世界に崩壊しか招かないわ。とりあえず現状を抑えるお手伝いはさせてもらいます。ガメル? これも何かの定め、手伝ってもらいますよ?」

「ふん、癪に障る女め」


 白く輝く女性はミルの短剣へ、黒く淀んだ影の男性はタータへふわりと飛んでいく。


「リム、暴走を止めなさい。貴方は秘めている、この世界の全てを」

「貴様、我がこの世界を征服する足掛かりになってもらう。それまでは使わせてもらうぞ」


 白と黒、二つの人影がミルとタータの間に割って入り、消えた。






 色が戻る、普段の色。草は青く、花は鮮やかに。




 風が戻る、頬を撫で、髪を弄ぶ。




 匂いが戻る、焦げた地面、悲しみの匂い、怒りの匂い。




 刻が戻る。

 同時にミルとタータの間に入った白い光と黒い影がぶつかり合った。激しい衝撃と共にミル側には白い光の衝撃波が。タータ側には黒い衝撃波が広がる。

 ぶつかり合った白と黒。互いに弾き合い、擦れ合い、混ざり合い……突如現れた白黒の衝撃波にミルとタータは吹き飛ばされた。


 混色された白光と黒影は、灰色になり上空へと延びる。円柱上に伸びた灰色のそれは、リムの能力と酷似しており円内は不毛の地。

 天には灰色の穴が空き、その部分だけが何も無い。


「リム、今の状態は世界を包んでいました。危険な状態を限りなく圧縮し、核としてこの場所に封じ込めました」

「フン、気を付けるのだな。有限である事を」


 リムは只々立ち尽くした。声だけが耳に残り、消えていく。静寂の風が流れる。草が揺れ、時の知らせを運んでくる。


(今の……ホワイティア? ガメル? 王? 聞いた事がある。周りが止まっていたけどこれって……まさかオレの能力?)

「ミルっ!」

「ご主人様ぁ~!」


 互いに弾き飛ばされ、気を失ったミルとタータ。ドームとドラドラが慌ててそれぞれに駆け寄る。


「大丈夫かミル! 怪我は無さそうだな。しかしなんだ今のは。突然光と影が……」


 リムは呆然とその場に固まったままである。口を開き、パチパチと瞬きを繰り返す。しかしリム以外の全ての者は分からない。そう、時間が止まっていたのだから。


 この時、世界は震撼した。


 天を貫く灰色で半透明の円柱壁。これを見なかった者は一人としていないであろう。誰もが一時、止まったかの様な感覚に見舞われた。


 田畑を耕していた農民はくわを置き、空を見上げる。

 剣を振るい鍛錬に励む兵士は、見上げた円柱壁に唖然とする。

 権力者は慌てふためき臣下の袖にしがみつく。

 深い森では魔物がざわつく。



 青色の髪をしたある男は不適な笑みを。


「行くか……」



 緑色の髪をしたある女は焦りを。


「あわわ! 大変ですぅ! 色が一瞬無くなったですぅ!」



 黄色の髪をしたある男は祈りを。


「どうか、どうか……」



 桃色の髪をしたある女は滾る。


「姫! いけません! 危険です」

「五月蝿い! 儂は行くのじゃ! 楽しそうじゃ!」



 赤色の髪をしたある男は歓喜した。


「マジかよぉ! こりゃすげぇな! おい、行くぞお前達」

「旦那ぁ、危なそうですぜ?」

「馬鹿野郎! なんかワクワクしてきたぞ! この世界のことわりが狂い始めたなぁ!」


 世界が動き出す。この荒んだ色の世界の歯車が加速した。

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