第14話 色の世界
「
ドームは左手で右拳を包み込む様に握り、神妙な面持ちで話しを続ける。
「
窓から暗くなった空を見上げ淡々と話す。
「落下直後に轟音と地震がこの城にも伝わり、エミル様は軽傷ではあるが一時意識不明となられた。オレとミルは戦況を確認する様にと、ロンベルト様より命を受け平原に行ったのだ。そこで倒れているお前を見つけた。周りは跡片も無かった。大きなクレーターの中にいたお前を見て、疑念と不安、恐怖すら覚えた。理由は以前話した通りだ。それでそのまま連れ帰り今に至る」
「そのー、あれだ……何回も聞くようで悪いんだけどさ、オレって何?」
流石に何回も聞いてきた内容を再度尋ねるくらいには申し訳なさはあった。リムは頭をポリポリと掻く。
「それはこちらも同様。聞きたい事は山程あるんだが、どうも当の本人がこれじゃあな。記憶を失っているのかはたまた……」
「はたまた?」
「転移者よ、フフフ」
部屋の角の暗がりからフッと黒フードの女が姿を現す。
「いいい!? ビックリしたぁ! 出てくるなら先に言ってよ! 心臓吹っ飛ぶかと思ったわ! ん? 今転移者って言っ――んん!」
リムは自分が何者なのか、何かを言おうとした。しかし黒フードの女が、人差し指をリムの口に当て言葉を封じる。
「ごめんなさいね。次からは気をつけるわ、フフフ」
「な、なんだよ! ところでこいつは誰? 戦闘中に話しかけてきたのはチミだよね?」
指をどけ一歩退きながら、ドームと黒フードを見るリム。ドームは近くのソファーに再び腰かけ、腕を組みながら答えた。
「知らん」
「し、知らんって! そんな素性も知れない人間を自由にさせといていいの?」
「白王様の意向だ。事実、今のところ害は無い。気味は悪いがな」
「あら、レディに向かって気味が悪いとは失礼なお人ね♪ そんなんじゃモテないわよ♪ そうね、
ドームは気に食わない様子で、そっぽを向きながらリムに説明する。
「ふん、大きなお世話だ。転移者は数年に一度、何かしらの現象を経てこの世界に現れる。恐らくだがリム、お前は転移者である可能性がある」
リムがまた何かを伝えようとしたが、黒法師を見るとウィンクをしている。
(なんなんだ、言っちゃマズイのか? 当の本人っていう自覚はあるけど、一応この世界での扱いを確認しといた方がいいかもな)
当然ながら知らない世界の事を考えても答えが出る筈が無い。リムは素直に会話の流れに乗る事にした。
「転移者?」
「転移者は数える程しか居ないと言われている。お前みたいに流星として現れたケースは初めてだが。大地震や火山噴火、何かしらの天変地異を起因として現れる事が多い」
「ほぇー」
口を開けながら続きを待つリム。
「オレも転移者が何者なのかは分からない。ただ、この世界の者では無い事はなんとなく分かる。その転移者が起点として世界が大きく動く事は多々あるのだ」
「因みにドームはその転移者とやらに出会った事は?」
「過去に一度だけ転移者らしき人物に会った事はある。それが原因で今オレはこの状況だ」
「ん? なんか話が見えないんだが」
「話過ぎた。気にするな」
「は、はぁ……」
(気にするなって言われても気になることを言ったのはお前だろ!)
リムは頭の中でツッコミを入れつつ、持っていた剣をベッドに立て掛けそのまま座る。
「とりあえずだ、その剣と斧をどうにかする必要がある。そのまま持ち歩くと色々面倒事になりかねん」
「どうにかって言われてもどうすればいいんだよ」
「
「しき……そ? しきりょく?」
「ええ。この世界に生ける全ての生き物は、生まれた時から色素を身体に宿しているわ。草木や昆虫、それこそ全ての生物にね。だけどそれを認識し、力として扱える者は限られているの。殆どは人間だけど、稀に動物・昆虫の一部でも自我に目覚めた場合、その色素の存在を認識せずに色力として力を操る場合もある。大概は魔物と呼ばれる事が多いわね」
ドームは無言で目を閉じ、足と腕を組みソファーに座ったまま黙っていた。
「色素……色の事か? その色素とやらをもう少し詳しく教えて欲しいんだけど」
「ええ、さっきも言った通りよ。人間は産まれた時、既にその身体の内に色素を宿しているわ。特に血筋や環境の影響を受けやすく、同じ色素同士で暮らす場合が殆どよ。色素には様々な種類があってね。白や黒は勿論の事、赤や青、黄や緑と上げたらキリが無いわね。色素は特に毛色に顕著に出るわ。見ての通り私は紫の色素を宿してるの」
そういって黒法師は少し頭を垂れ、フードを捲し上げた。漸く拝む事のできた顔にリムは目を丸くする。
セミロングの髪は艶のある紫色。毛先は軽くウェーブがかかっており、大人びた雰囲気を漂わせている。瞳は深い紫色で、大きくぱっちりしている。
口調からも分かる様に普段から常に微笑んでいる小さな口元。ふんわりとした優しい顔立ちだが、どこか不気味さも垣間見える。
(な、なんて
話の途中で妄想にふけるリムを見て黒法師が話を続ける。
「ありがと♪ 機会があれば考えておくわね♪ フフフ」
(いぃい!? 心を読まれている……のか?)
「続けるわよ♪」
「あ、はい」
黒法師は柔らかく笑みを浮かべる。
「色素は大凡その色に連想される現象を操る元となる素質。属性とでも言えば貴方には伝わり易いかしら。赤なら……分かるわね? 代表的な物をあげると火ね、青なら水。その人を見れば、大体の能力を把握する事が出来るわ。その現象、色力を操る人間は
灰色の髪色を見て黒法師は困り顔になる。
「は、はぁ……なんとなく分かったよ。だけど相手がどうとか言われても、この世界の事情すら分かってないのになんか闘う前提で話してないか?」
「ここホワイティア領は元来、白の色素を司る者の集まりだ。オレもミルも、ロンベルト様、エミル様も。この世界は同じ色素の者が集まり、都市を築いているのが殆どだ」
黙々と黒法師の話を聞いていたドームが話に入ってくる。
「同じ色素同士では思想も似ている為、その思想の元自身らの世界を築こうという動きが世の常だ。同盟の様に協力し合っている所もあるがな。我らホワイティアも一部の国と同盟状態だ。北のブルーフォレスト王国、南のナインズレッド連邦。どちらも離れてはいるが友好的に接している」
(ふむ、ブルーフォレストにナインズレッド。青と赤か? 一応覚えておくか)
「んで、それぞれが世界統一を目指しているって事でいいのかな?」
「まぁ、簡単に言うとそうなるな」
「同じ思想ねぇ、それだけで戦う事っていうのはちと過激じゃありませんかね」
「先の戦争で闘っていた相手がブラキニア帝国だ。皇帝とされるガメル・ブラキニアを筆頭に、周辺国を武力で支配している過激な連中だ。力こそが全てだと言わんばかりに暴れまわっている。暴力に任せた所で何も生まれないというのに!」
ドームの息が急に荒くなり、目が血走っている。
「ちょちょちょっと、何があったかは分かんないけど落ちつこ? ね?」
(ブラキニアか、さっきの言葉もあるし関係無い訳ではなさそうだな)
「すまない」
軽く息を吸い込み、落ち着きを取り戻すドーム。
この世界自体を知らないリムは、各国の情勢を整理するには少し時間がかかるであろう。
「まぁまた何か分からない事があったら私に聞いてくれてもいいわよ♪ フフフ」
「聞くったって、居ない時はどうするんだよ。」
「もう知ってるはずよ? それじゃぁね!
最後に耳元でボソっと本名を呼ばれ、ハッとなるリム。しかし既に黒法師は消えて居なくなっていた。
(アイツ、なんでオレの名前を)
「んんん」
「んあああああ! 寝ちゃってたよぉ!」
「起きたか……おい二人共、そろそろ飯だ。下の広間に行くぞ。リム、お前も来い」
ベッドで幸せ気分の二人が目を覚ます。ドームは立ち上がり先に部屋を後にした。
ミルが目を擦りながらリムを見る。まだ寝ぼけているらしい。
「リムちん……何その格好」
「お前らがやったんだろうが! こんにゃろめ!」
「あ! そうだった! 似合ってるよー! お食事用意してねー! メイドさん☆」
「タータ、シチューがいい……」
タータもまだ寝ぼけている。
「あ、そだねー! モルのシチューがいいね! タータん行こ行こ☆ リムちんも早く来るんだよぉ☆」
そういってミルはタータの腕を掴み、下の広間へと降りて行った。
(はぁ、なんだしかし。まだまだ知らない事だらけだし、とりあえず交友を広めておくべきか。状況整理も必要だな)
リムも下の広間に向かう為に立ち上がり、部屋の扉に向かう。
「色、転移……どうも異世界に飛ばされたと思って間違いなさそうだな。飛ばされた……か。戻る方法とかあるのかな、他にも転移者がいるって言っていたな。オレと似た境遇の人もいるかも知れないな。上手く出会えるといいが」
リムはブツブツと呟きながら下の広間へと降りていく。部屋に残された剣と斧が怪しく光っていた。
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