第13話 主を選ぶ

――――ホワイティア城 とある一室


「キャハハ! かわいいぃい♪」

「ねー!! これいいねぇ☆」


 意識が戻りつつあるリムの耳に、ミルとタータの笑い声が聞こえてきた。


「ねね! 次、これ着せてみようよ!」

「キャハハ♪ いいねぇいいねぇ♪」


 部屋中には様々な種類の服がズラリと並んでいる。ベッドに寝かされていたリムの身体にはメイド服が着せられていた。


「いいいい!!! なんだこれは!」

「お前が寝ている間に色々と遊ばれているよ」


 窓際のソファーに座っていたドームが腕を組み、溜め息混じりで答える。


「リムっち、おっはよぉ♪ 起きたぁ? 起きたぁ? 次は何着るぅ? キャハハ♪」


 タータが赤いチャイナ服を持ってきてリムに広げて見せる。


「おいおい待て! オレはそんな趣味無いぞ! というよりこの状況はなんだ!」

「リムちんのお洋服選び☆」


 ミルもタータ同様に、別の服を持ってきてはキャッキャッと楽しそうにしている。手には現代でいう一般的な白のセーラー服と紺のスカート。


「服ぐらい自分で選ばせろ!」

「だってリムちん、すぐ裸になるもん! どうせなら似合う服のレパートリーを今決めとかないとね☆」

「ネ♪」


 ミルとタータは顔を合わせてニヤニヤしている。


「そもそもなんでオレはこんな所にいるんだ。誰かと闘っていた最中だっただろ?」

「ザハル……黒軍こくぐんはもう去って行った。お前は色素しきそが制御できず暴走しかけたんだ」

「そだよー! だからミルが、てぃっ! ってしといた☆」

 

 ドームが腕を組みながらリムに説明する。リムの前でミルがシュッシュッと手刀の真似をしていた。


「は? はぁ。今一状況が理解できないんだけど」

「とりあえずこの服着ようよぉ☆ 色違いのメイド服! タータん! リムちんを抑えて!」

「任せて! ミルっち!」

 

 いつの間にかタータとミルは意気投合している。

 メイド服を持ち、リムへと迫ってくるタータ。一回り身体が大きくなったかの様なタータの威圧にリムが恐怖を覚える。


「ギャー! やめちくりーーー!!!!!」



――――



「ふぐぇ……で、悪いんだけど諸々を説明してもらえるかな。ドーム? さん」


 リムは精神を蝕まれていた。抵抗空しく二人の着せ替え攻撃に相当ヤられたらしい。

 白と薄紫のメイド服を着させられ、何故か髪はポニーテール。左の角には何とも可愛らしい薄紫色のシュシュが付けられていた。

 キングサイズのベッドには、タータとミルが遊び疲れて仲良く寝ている。


「先も言った通りだ。ザハルと言う黒王こくおうの子が、側近を連れて突如城内に現れたのだ」

「そうそう。結界がどうとかって言ってたな」

「ああ、その結界だが。そもそもここホワイティア城の結界は、外からの攻撃を防御する為の物ではない」

「なんの為の結界なんだよ!」

「内側だ」

「内側?」


 リムの疑問はもっともであった。通常、結界は外敵からの攻撃を守る為のものである。しかしここホワイティア城の結界は、防御壁の機能は全く無かった。


「ああ、この結界は通った者のまやかしの力を無効化する。白王はくおう様は味方を謀る事をもっとも嫌っていたのだ」

「ふむ。それで外だとおじいちゃんのドームが、中ではこんなイケメンな訳だ」

「オレは別に味方を謀るつもりで変装している訳では無い。城内の一部の人間は、内外のオレの姿を知っている」

「はぁ、まあいいや続けて」

「お前、聞く態度がなってないようだな。まぁいい……白王様は常人では得ない程の強力な色力しきりょくを持っておられる。故に外からの攻めに関しては全く気にしてはいなかった。だが、逆に内側の警戒をする程用心深い御方だ。矛盾している様にも聞こえるだろうが事実、外から攻められる事は無かった。領内の危険を察知すると、瞬時に向かい対処できる程の力だ」

「んでそのの白王様とやらはどこにいるんだ?」

「行方不明だ……」

「ん? 探しに行かないのか?」

「すぐにでも行きたいところだが先の黒軍の城内進入を受け、ロンベルト様が第二波を警戒している。白王様が居ない以上広範囲の警戒が難しい今、居城であるこの城を落とされる訳にはいかないのだ」

「まぁ分からんでもないな」

「それに探しに行かない理由がもう一つある」


 ドームは立ち上がり、ベッドの傍らに立て掛けてあった剣を見て険しい表情になる。


「剣? あぁ、オレの手から出てきたこれか」


 リムは手に取ると剣が白く淡い光を放つ。


「そうだ。その剣は認められた物しか扱う事ができない。常人ならばただの剣でしかない。しかし、選ばれた物が扱う事で能力が発揮されるのだ」

「ほほう、そんな大層な代物と捜索に何か関係が?」

「選ぶと言っただろう。剣は一人しか扱えん」

「つまり……?」

「白王様がこの世にいない可能性がある」


 ドームが神妙な面持ちでソファーに座り直した。外は既に暗くなり、強い風がガラス窓を鳴らしていた。

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