第4話 黒の知らせ
とある城、玉座の間。
この玉座の間は全面石畳になっている。
幅は二〇メートル、奥行き四〇メートルと広く、例えるならテニスコート四面分。
廊下へと繋がる扉は鉄製で重厚感がある。扉から玉座までは真っ赤な絨毯が敷かれていた。
両の壁には松明が五メートル間隔で付けられ、部屋を
下方から左右に弧を描くようにして玉座へ延びる二本の階段。五メートル程高い位置にある玉座は、訪れた者を見下ろす形となっている。
「はぁ……父は何故オレを戦場に連れて行ってくれなかったんだ」
一人の小柄な男が、身体の倍はある巨大な玉座に腰掛けていた。退屈そうに椅子の手すりに頬杖をついている。
「そう言うなザハル。
「このザハル・ブラキニア!
ザハルと呼ばれた男が、座ったまま右手に持っていた巨大な両刃斧を軽々と振り回し床に突き立てる。静かな玉座の間に鈍い音が響いた。
「話を聞いているのか。まあ、お前程なら容易い事など言うまでもないさ。黒王様は信頼しているからこその防備だろう」
城の防備を任されている黒王の子、ザハル・ブラキニア。
まだ垢抜けない感じの幼顔だが、キリッとした目付きは凛々しさを覚える。
身体は小柄で一五〇センチ程だが、身の丈と同じ巨大な両刃斧を小枝の様に軽々と振り回す怪力である。
両の耳上からは、前方に向かって生えた黒く鋭い角。額の辺りで真上へと直角に伸びている。
髪は黒く全体的に短髪だが、襟足のみ赤い紐でくくられ腰辺りまで垂れた状態。
若々しく涼しげな顔立ちに赤い目、初めて見る者は怖さを覚える程である。
全身を黒で統一した服装で、身体にフィットしたノースリーブの服。地面まで付きそうな程の黒く長いマントを羽織っている。マントの間からはとても巨大な斧を振り回せるとは思えない、細身ながらも引き締まった腕を覗かせていた。
下は黒のサルエルパンツと黒いブーツを履いている。下半身はゆったりとしていないと落ち着かない為、服装には拘りがある。
自信家で単純、見た目通りの若さ故の勢いに任せ突っ走る傾向がある。しかし、王の子と言うだけあって多少の冷静さも備えている。
その隣に立っているのは、アル・ブラン。
一九〇センチとザハルを見下ろす程の長身である。
髪は赤黒く長髪、クセっ毛なのか全ての毛先がやや外に跳ねている。
目は黒く二重、穏やかで優しい顔つきだがどこか哀しみを秘めている顔だ。
服装は髪色同様に赤黒く統一されている。ロングコートの襟周りと袖口には、フサフサした薄茶色の動物の毛がついており獣感が漂う。
左肩には金属の肩当てに、上へ円を描く様に伸びた黒い角の装飾が一つ。
左腰には長剣を携え、常に左手は柄の上に置き警戒を怠る事は無い。
落ち着いた性格で、突っ走る傾向のザハルを補佐している。しかし話し方を聞くに主従関係とは言い難く対等に近い関係なのだろう。常にザハルの左に立ち、ザハルとは対照的に物事を冷静に判断している。
「仲良しごっこで世の中を統べる事なんかできねえんだよ。圧倒的な戦力で一気に
「何も相手は白軍だけじゃ無いんだ。北も油断できる状況ではない上に、南西にも手を焼いている。あそこも一筋縄ではいかないからな。力だけで統べた所で人々が従い付いてくるとも限らん」
「それこそ力だろう。従わない奴等など殺してしまえばいい」
ザハルは床に突き立てたままの斧の柄を軽く握り直す。
「お前は単純で羨ましいよ、ザハル」
「なんだアル、馬鹿にしてるのか? まあいい、次こそは有無を言わずに戦に出向いてオレの力を……」
「ッ!?」
突如、異様な気配を感じ取り体を硬直させる二人。
「なんだこの気配。敵にこれ程までの奴が……!?」
「いや違う、白軍にこの様な奴はいないだろう。ましてや黒王様を上回るなど……」
「アル、冗談も大概にしとけ」
玉座の間の扉が勢いよく開き、一人の軽装兵が息を切らしながら入ってきた。
「ザハル様! 物見より緊急伝達です!」
「なんだ騒々しい」
「も、申し訳ありません! こ、黒王様と
「おい貴様、言葉に気を付けろ。首を刎ねられたいのか」
ザハルは斧を持ち上げ、今にも斬りかかりそうな姿勢で兵士を睨み付ける。さすがに王の子だけあり、かなりの威圧だ。
「も、申し訳ございません! 命だけはっ!」
「待てザハル、感じぬ……黒王様の気配が」
「お前まで父を愚弄するか!」
アルはサッとザハルの前に手を出し、何かを感じ取る様に目を閉じる。イラついた様子のザハルだったが、まさかという気持ちで同様に目を閉じる。
「父に限ってそんな事がある訳がない……」
目の前に跪いている兵士は二人の行動に身を委ねるしかない状況、とても生きた心地がしなかった。一大事である為、一刻も早く報告をしなければいけない一心で駆けてきたが、まかさ自身の命が危うい状況になるとは思わなかっただろう。
「どういう事だ。先の異様な気配の所為で気付かなかったが……感じない」
「ザハル、どうやらこの目で確かめる必要がありそうだな」
「ああ、衛兵! オレは戦場に行く。城の警備を怠るな! あの怠慢女を起こせ! 連れて行く!」
「承知しました!」
衛兵はなんとか危機を脱し、足早に玉座から出ていく。
険しい顔の二人は、出立の準備をするのであった。
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