204話 責任

「シズク。少し離れてろ」


「…う…うん」


 シンジは心臓に突き刺さっていた片手剣の柄を握りしめると、覚悟と共に勢いよく剣を引き抜いた。


「ふんっ」


 ブシュュュウウウ!!


 貫通し突き刺さっていた箇所から――まるで非常口を求めて殺到するかのように――大量の血液が勢いよく吹き出していく。


「ごふっ…」


 片手剣は地面に落下すると――まるで役割は果たした言わんばかりに、魔力の粒子となり消滅した。


 顔面を蒼白にしながら、更なる後悔の念に駆られてゆくシズクとは対照的に――シンジは素早く傷口を再生させると、失った血液が補充され貧血気味だった顔に赤みが増していく。


 治ったことを確認すると、シンジは何事も無かったかのようにアッサリと言い放つ――治った、と。


「お兄ちゃん…。本当に……。大丈夫なの?」


「ああ、完璧に治った」


 無限再生を持つシンジからすれば、心臓が潰されたことぐらいなんら問題も無かった。細胞の一欠片さえ残っていれば、そこから増殖し肉体の全てを再生させる事など造作もないのだが――勿論そのような事実を雫が知る由もなく。只々、驚きに満ちた表情を浮かべていた。


「よ、良かった…」


 雫はようやく安堵の表情を浮かべると、力が抜けたのかその場でへたり込んでしまう。その際、身に纏っていた武具が光の粒子と化し、消滅する。


「きゃー///」


 元々、全裸だった上から魔力で生成した武具のみを全身に身に着けていた為、安堵した拍子に誤って武具を解除してしまえば、勿論全裸となる訳なのだが――それを実行したのは、あくまでも記憶を一時的に失っていた時に生じた仮の人格である魔神であり、魔力操作を途切れさせてしまえば、当然消滅すると理解していた。だが、正気に戻った雫からすれば、野外で突如身に着けているモノが光の粒子と化し消滅するのは、混乱以外の何者でも無かった。


「み、みないで…。お兄ちゃん/// 」


「…わ、悪い!」


 背中に生えた黒い翼や両腕で大事な個所を即座に隠すも――魔人薬による影響なのか、成長しきった身体を全て隠すのは流石に無理があった。


 大きく実った二つの果実を前に、男としての本能なのか思わず凝視してしまうシンジだったが――妹に欲情すると何事だ!と自身を叱咤すると、シズクの周囲に土の外壁を作り出し、異空間から取り出した女性用の衣類を中へと放り込んだ。


「サラの衣類だが、それで我慢してくれ」


「あ、ありがとう…。お兄ちゃん」


 周囲を警戒し、シズクの着替えが終わるまでシンジは待つ。


「もう、大丈夫」


 中から聞こえた声に従い外壁を崩すと、変身を解除した状態で衣類を身に着けたシズクの姿がそこにはあった。


「お兄ちゃん…。あのね、お兄ちゃんは…。人間じゃない…よね」


「…。そうだな。それも含め、今までお前に隠してきたことの全てを話すよ」


「良いの?」


「あぁ」


 言いづらそうに、それでも確信の籠った言葉でシズクは訊ねると、シンジは熾天使たちと合流するまで、今まで隠してきたことを全て話す事にした。


「それに…。事故とは言え、お前の身体は改造されて普通じゃなくなった。…だから、そのだ」


「え?それってどういう――」


「一生面倒を見てやる」


「へぇ!?///」


 赤面し、まるで突然プロポーズを受けたかのような反応を見せるシズクとは対照的に――シンジは真剣な表情で見つめている。


 責任を取るの意味とは勿論、寿命が普通の人よりも大幅にのびたため、シズクが結婚すれば相手から先に死ぬのは明白だ。その頃には当然、父親であるグレンや母親である時雨しぐれは勿論のこと死んでいる。その際、此方の家庭の邪魔をしてしまうのではないか?と変に遠慮して行き場が無くなってしまえば、残りの人生を一人で孤独に暮らすか、新しい相手をまた見つけて同じことを繰り返すか、という悲しい余生となってしまう。


 子供は出来なくもないが、確率はとても低いだろう。毎日生で夜の営みをしてきたシンジでさえ、子供を作るのに数年間かかった。子供が生まれてから高校生になるまで、毎日毎日毎日毎日…。生の行為を何度もしてきたが一向に子供が出来ないのだ。嫁達の中に何度発射したことか…。そろそろ2人目が欲しいからあなたもっと頑張って!と言われるくらいには、子作りが大変なのである。それを一般人が、それも一発か二発限りの雑魚い発射程度で子供が出来るほど人生甘くは無いのだ。


 そういった意味から、行き場が無くなっても一生面倒を見てやるとシンジは言ったのだが――実兄に歪んだ愛情を抱いている雫がその到来したチャンスを見逃すハズも無く。


「い、嫌なら――」


「ううん、嬉しい!一生面倒見てね。お兄ちゃん///」


 プロポーズを受けて感動で泣きそうな、それでいて嬉しそうな表情でシンジに抱き着くと、雫は見えない位置で歪んだ笑みを浮かべるのだった。


(これからは、ずっっっと一緒だよ?ドロドロに溶け合うまで愛し合おうね?お兄ちゃん、大好き♡)

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