203話 元凶
読者の皆様へ:最近深夜帯での更新が多くてゴメンナサイ。昼間は仕事だから執筆する時間が無いのです(*´Д`)。告知です!あと、数話で番外編終了します。今度こそ本当に終了です。
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片腕に訪れる唐突な痛みと、切り裂かれた個所から吹き出る赤い血液を前に、俺は思わず驚きの声をあげてしまう。
「なっ!?」
――物理攻撃無効が突破されただと!?
驚きのあまりシズクを見つめると、嘲笑した笑みが返ってくる。
「私は魔神。そこでくたばっている魔人王の上位の存在だ。なんだ?本当に攻撃されるとは思っていなかった、という顔をしているな?」
その言葉を皮切りに、片手剣と丸い盾を器用扱いながら、シズクは緩急した動きで攻めて来た。
――駄目だ。俺には攻撃出来ない!
「はっ…。避けるだけで精一杯か?」
「シズク、よせ!俺はお前を助けに来たんだ!」
迫りくる強烈なシールドバッシュを回避した直後、込められた桁違いの魔力が直前までにいた場所を全て無に帰す。
「その姿はなんなんだ!?お前は純粋な人間だったハズじゃ…」
魔眼で改めて観察をする――背中に生えた黒い翼に、北欧神話に出てくるヴァルキリーさながらの格好。狂歌達と匹敵するほどの桁違いの魔力。外見は以前となんら変わらないように見えるが、肉体の殆ど作り変えられてしまっている。
「ジロジロ見るな貴様!!」
攻撃を回避しながら更に細かく観察していると、近くの死体から似たような細胞が、雫の体内に完璧に同化していることが分かった。
「まさか!?」
――シズクさー。凄い名器だったよ。色々と開発しちゃったけど…。そこは合意の上だからさ、問題は無いよね?お義兄にいさん!
あの時の魔人王の意味深長な発言は、そう言う意味だったのかと、今更ながらに全て理解することが出来た。
名器とは――つまり魔人薬の器として、シズクが最も適した存在であったという事だ。俺の妹である以上、適性が高かったのも頷ける。
開発したとは――つまり何らかの人体実験を雫に施したということ。
合意の意味は、熾天使たちから聞いてた通り、人間を平気で奴隷のように扱う奴らだ。性奴隷になりたくなければ実験に付き合え、とでも言って無理やり脅したのだろう。なんら不思議でもない。
全ての元凶はこいつのせいだったのか!
「……!?急に雰囲気が変わった!?」
「てめぇの仕業か、糞野郎!!」
怒りのままに魔力を練り上げると、俺は魔人王の死体へと手を向けて消滅魔法を放った。
「
黒い瘴気のようなものが、直前上に触れたものを全て無に帰し、次々と消滅させていく。死体の先にある魔人城すら消し飛ばすと、黒い瘴気は塵となり消滅していった。
「なんだあの魔法は!?」
警戒心を露わにしたシズクがすぐさま距離を取り、遠距離からの攻撃に出た。
「喰らえ!」
シズクは片手剣に膨大な魔力を纏わせると、次々と斬撃を放ってきた。
「シズク目を覚ましてくれ!俺だ!忘れたのか!?シズク!」
「黙れ!私はシズクなどという名前ではないと、何度言ったら分かるのだ!!」
迫りくる斬撃を全て刀でいなし、弾き飛ばした斬撃が周囲一帯を崩壊させていく。
「シズク!」
「ぐっ…」
何度も呼びかけていると、突如斬撃の嵐が止んだ。シズクが頭を押さえつけ、苦し気な表情で睨んでくる。
「シズク、俺はお前を傷つけたくはない!頼むから思い出してくれ!」
――正直取り付く島もない態度に、もう駄目かと思ったが、どうやら効果があったようだ。
俺はシズクが正気に戻るまで必死呼びかける事にした。
☆★☆★
(一体なんなのだ。この男は…)
頭を押さえつけながら、魔神は自身をシズクと呼ぶ男を睨みつける。
(見知らぬこの男に…。何故、名前を呼ばれて嬉しく感じる自分が居るのだ…!?)
不快感と同時にこみ上げてくる謎の感情を前に、魔人は困惑した様子を見せるも――片手剣を握りしめると、邪念を振り払うかのようにすぐさま攻撃を再開した。
「シズク、シズク!!」
「ぐっ…」
男から見知らぬ女性の名前を呼びかけられる度に、砂嵐のかかった謎の記憶が脳内へと次々とフラッシュバックしていく。
(なんなのだこれは!?止めろ!頭が割れそうだ!)
感情の赴くままに手を動かし、不快にさせてくる目の前の男を一刻も早く殺さなくては。と、魔人は更に斬撃の速度を速める。
「シズク!」
「ぐっ…。私は魔神だ!シズクなどでは無い!いい加減不愉快だ。死ね!!」
カキン、カチンッ、と斬撃の打ち合う音が周囲に響き渡る。
何度目かの呼びかけに再び頭部に激痛が走ると、脳内で砂嵐のかかった記憶が次々と流れ込んできた。
「ぐああああああ!」
突如頭部を押さえ苦しみだした魔人の元へ、シンジが駆け寄る。
「おにぃ…?」
「やっと思い出したか!」
そして自然と出た言葉に魔人は驚きながらも――
(謎の記憶に従い言葉に出してみたら直ぐに油断するとは!取った!)
効果はあった!と、油断した男性の隙をつき、魔神は目の前の男の刀を弾き飛ばすと、その銀色に輝く鋭利な剣を男性の心臓へ突き刺した。
「ごふっ…」
「油断したな。私の勝ちだ」
勝った。致命傷を負わせることが出来た。不愉快なこの男を遂に倒した。と、勝ち誇った笑みを浮かべながら男性を見上げると――
「…シズク」
相手は困ったような笑みを浮かべながら――まるでなんでも無いかのように、こちらの頭を優しく撫でていた。
その瞬間――雫は忘れていた記憶を全て思い出す。
「…!?…お兄ちゃん!?ご、ごめっ…。んなさい…。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…」
慌てて剣を手放すと、シズクは泣きながら一心不乱に許しを請うのだった。
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