197話 遅れたワケ

「そう。私達が居ない間にそんな事が…」


 教会の客室にて、嫁達と合流するまでに起こった出来事を全て説明すると、全員が納得した様子を見せた。


「絶体絶命のピンチから救われたら…」


のも分からなくは無いよね」


 と、小さな声でサラと美香ミカが喋っているのだが…

 一体なんの話だろうか?


「それで、お前たちが遅れた理由は一体何だったんだ?」


 俺は今まで気になっていた事を口にした。


 あの合図血花火を出してから此処に到着するまでに数日もかかったのだ。姿なら数時間程度で直ぐに来れるのに、一体何故なのだろうか。


 そんな俺の疑問にすかさず狂歌が答える。


「進むたびに謎の魔人達に襲われたのよ」


 ハァとため息を吐きながら、ウンザリした様子で語りだした正妻に、次々と側室達が賛同しだす。


「あ、私もです!」


「うちも!」


「エレナも~」


 その話から察するに、どうやら魔人王は各地でも多くの魔人達を従えているようだ。


「それに鬱陶しく感じた私は、魔人達が多く集っている砦みたいな場所を襲撃したのよ」


「ですよね!!」


「鬱陶しかったよね!!」


「全部食べた~」


 全員がスッキリした様子を浮かべている辺り、相当ストレスだったようだ。


「それでスッキリして出て行こうとすると、ぞろぞろと出て来た奴隷みたいな人達から崇められるし…。先に進めば、また襲撃されてからのストレス発散の繰り返しよ!」


 正妻の嘆きに、次々と共感しだす側室達。


 何度も同じこと繰り返している内に、合流するのに数日遅れてしまったと言うことか。なるほどな。


「あ!」


 そんな時、突然何かを思い出したかのように、声をあげたのはサラだった。


「兄さん!これ拾ったんです」


 急いで異空間から取り出し出て来たのは、なんと血の付いた制服の上着。


「これに見覚えありませんか?」


「制服?雫が着てるのと同じやつだが…」


「内側を見て下さい。持ち主の名前が刺繍されています」


「…まさか!?」


 嫌な予感がした俺は、すぐさま奪い取る様にして制服の内側を見た。


 そんなハズはない!匂いも似てるが…似てはいるが……

 きっと別人のはずだ!


 ”信じたくない”思いで心の中がいっぱいだったが、意を決して制服の内側を見ると。


 ーーそこには『秋山 雫』と、持ち主の名前の刺繍が入っていた。


「シンジ君……ごめん私もこれ拾った」


 気まずそうにミカが手渡してきたのは、液晶の割れたスマホ。


 見慣れたストラップに、内側を見れば雫と一緒にプリクラで撮った写真が貼ってある。


 ……間違いない。これは雫のだ。


 その瞬間ーー


 何らかの手段でこの世界に迷い込んでしまった雫を探すために。


 ーー俺は初めて全力の【生命感知】と【魔力感知】を行ったのだった。




 ☆★☆★


「数日かかったけど、ようやく容体が安定してきたね」


 様々な化学器具が搭載された部屋にて、金髪の美青年が独りでに呟く。


「明日は実験の最終段階だ。せいぜい僕の期待を裏切らないでくれよ?」


 その視線の先には、医療カプセルの中で眠る住民に注がれていた。


「また来るよ。じゃあねシズク」


 その瞬間ーー


「なんだ!?」


 地震のような激しい揺れが魔人王の城を襲ったのだった。

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