195話 土煙

「ん? なんだ?」


 最後の砦ラストフォートの城壁にて、警備を担当していた1人の兵士が、視界の端に映った巨大な土煙を前に思わず呟いた。


「煙でよく見えんな」


「魔人か?」


「ーー分からん。だが、今確かに何かが見えた気が…」


 水平にした手を額にのせ目を細める兵士に、”またかよ”とでも言いたげな表情で、同僚が少し呆れた表情を見せた。


「…お前今日で何回目だよ。さっきからそんな事言って結局なんもねーじゃねーか」


「い、いや、本当に!確かに何かが見えたんだ!」


「はいはい。分かったよ」


 先ほどから何度も同じやり取りをしていたのか、”今度こそ本当だ”と主張する兵士を前に、同僚の兵士が”はいはい”とあしらう。


「それにしてもこの武具凄いよな!っていう希少な鉱石で作ったんだとよ!」


 同僚の兵士は、先ほどから神経を尖らせて警戒している同僚を落ち着かせるべく、数日前に支給された武具についての話題を振った。


「…あのは信頼出来ん。そもそもミスリルより本当に固いのか?」


「強度が10倍ほどあるみたいだってよ。すげーよな」


 銀色に光る防具、長槍、盾、それらの武具を身に着けた同僚が嬉しそうに話すと、警戒心を緩めない兵士がどんどん不機嫌となっていった。


「そこが胡散臭いのだ!ミスリルよりも希少であるのにも関わらず、何故全員分の武具を用意出来るのだ。おかしな話では無いか!」


「え? あのそよ者は、異空間収納アイテム・ボックスを持ってるって話だから、なんら不思議でもないだろ」


「だ、だが!」


 反論しようと兵士が何かを言いかけたその時ーー


『ゴアァァアア!!』 

『グラァアアア!!』

『ガルルラアア!!』

『ビャアアアア!!』


 巨大な咆哮と共に土煙がかき消され、微かな地響きが最後の砦ラストフォート全域を襲った。


 突然の揺れに尻餅をつく2人だったが、急いで立ち上がると、困惑した表情から瞬く間に絶望した表情へと変化した。


「ハハハ。 嘘だろ? 何なんだよアレは」


「……夢? そうだ! 夢に違いない! これはきっと悪夢だ!」


 そこには、最後の砦ラストフォート目掛けて前進する、4体の巨大な生物が2人の瞳に映っていたのだった。

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