194話 実験体

「ようやく見つけた!君は僕の最高の実験体になってくれるよ。シズク!」


「…え?」


 残虐な笑みを浮かべながらそう言ってくる魔人王を前に、雫は戸惑いの色を隠せないでいた。


「うーん、イイね!健康的で何よりだ。これなら僕の実験に耐えられるかな?」


 本人の気持ちは関係ないとばかりに勝手に話を進めていく金髪の美青年。


(実験?…う、うそでしょ……本当に…私…これから…)


 これから起きようとしている現実を前に、雫は思わず恐怖で身体を震わせてしまう。


「良かったねシズク。君に魔人の適性が無かったら、性奴隷になって、危うく大勢の相手をする羽目になってた所だよ。魔人達は基本的に性欲が強いからね。大変だよ?大勢に凌辱されてのと、実験を耐え抜いて進化するのならーーどっちが良いかは、一目瞭然だよね?」


「ひッ!?」


 目の前でニッコリとそう告げてくる魔人王を前に、思わず小さな悲鳴を漏らす雫。


「あ、もしかして性奴隷の方が良かった?今ならそっちの方に変えてもー」


「…ります」


「ん?何か言ったかい?」


「……実験体になります。やらせて下さい…」


 絞り出すように、か弱い小さな声で雫は実験体になる事を選んだ。


「そうかそうか!そんなになりたいか!」


 と、言いながらニッコリと微笑む魔人王。本人が嫌がるであろう選択肢を先に出す事によって、意図的に後者を選ばせることに成功する。


(…帰りたい。もう…訳が分からないよ!気が付いたら知らない世界にいるし…化物達に掴まるし…もうヤダヤダヤダ!おにぃ助けて!)


 度重なるストレスを前に、雫は心の中で絶叫をあげていると。


「ごふっ」


「えっ!?」


 ーー気付けば口から血を吐いていた。


 突然の吐血に驚く魔人王だったが、目を妖しく光らせると直ぐに原因を理解した。


「…おい。この女を殴ったのは誰だ?」


「お、俺です、魔人王様。摑まえる時に抵抗が激しかったモノで思わず腹部を殴ってしまいました!」


 突然、雰囲気の変わった魔人王に驚くリドだったが、黙っていてもいずれバレると察したのか、直ぐに自白する事を選んだ。


「正直に名乗り出たのは評価するよ……でもさ、僕、毎回言ってるよね?手加減はちゃんとしろって」


「…は、はい」


 赤い鱗で覆われていた顔が、青ざめていくのが雫でもハッキリと分かる程にーー怒気を纏い始めている魔人王と比例するかのように、リドの顔色がどんどん悪くなっていった。


「やり過ぎなんだよボケ!臓器が傷ついちまってるじゃねーか。……もう、お前要らないや」


「ひっ!? そ、それだけは! ゆ、許してくだs-」


 ビチャヤッ


 言い切る前に、不快に思った魔人王は魔法でリドの上半身を吹き飛ばす。


「…あ」


 それと同時に限界が訪れ、床に倒れこむシズクをすかさず抱き込む魔人王。


「あーあ。医療カプセルに入れないとマズいな。これだから脆い人間は嫌なんだ」


 意識を失う寸前、雫は魔人王の独白を耳にしたのだった。


「それにしても偶然か?黒騎士とDNA構造が殆ど一致している。もしや兄妹か?ーーいや、そんなハズは無いか」

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