番外編 分岐世界 未来編

155話 憤る研究者

 薄暗い研究室の中で、悪態をつく男がいた。


「クソ、クソ、クソッ!」


 実験が思うように行かないのか、机をドンドンと叩く。


「この血液を培養しなければっ!これには人類の夢が詰まっている....何とかせねば....」


 研究者は焦ったかのように、試験管に入っている血液を見つめた。


「最悪、彼の仲間である”赤槍”や”猫又”、”火狐”の血液サンプルでもあれば助かるのだが......」


 四天王との戦いで、多くの血を流したのは黒騎士殿だ。戦闘痕があった土地では、沢山の血液が流れていた。おかげで、こちらは殿を採取することが出来た。


「無い物強請りをしても仕方が無いか....クソッ!」


 仲間も戦闘中に血を流していたが、黒騎士殿と比べるとあまりにも少なすぎた。おまけに血液が直ぐに蒸発する為、回収出来なかったのだ。


「もっと自覚するべきなんだ。彼は人類に貢献できる人間だという事に!いや、魔人と言ったか?」


 研究者は、黒騎士がニュースで発言していた単語を思い出す。


「我々、アメリカ政府が極秘で研究していた”人間と魔物の融合”。長年研究してきたが、成功した例は1度も無かった」


「だからこそ、黒騎士殿は希望なのだ!!あれこそ、まさに人間と魔物の完全体!人類が進化する為に必要な存在なのだ!」


「実験が成功すれば、生まれた時から勝ち組であるヒーロー共に頼る必要はもう無い!頭を下げて大金を渡す事も無くなる!」


「だと言うのに。一体、黒騎士殿は何処へ行かれたのだ!?四天王とかいう奴らを倒してから、未だに消息が掴めない。もう2年もだぞ!?日本政府は一体何をしているのだ!あそこは、無能の集まりなのか!?東洋人め!」


 研究者は頭を抱えるとそう言った。そうしなければ、上手くいかない実験に溜まっていた鬱憤をはらす事が出来なかったから。


「落ち着け、落ち着け。私なら出来るハズだ」


 研究者は深呼吸し、気持ちを落ち着かせ冷静になると、再び実験を開始するのだった。

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