108話 グレン

 読者様へ:分割して章を増やしました。物語に影響はありませんのでご安心ください。


 ★☆★☆


 2120年 5月10日 18:00


 過去では出来なかった両親の結婚記念日。


 命日となった今日この日を書き換えることに成功した。


「ただいま。」


 家に帰ると既に準備は出来ていて、父のグレンが玄関に出迎えてきた。


「おかえり。」


 サラサラの金髪に、両目の青い瞳。爽やかなスマイルを父は浮かべていた。


 記念日がそんなに嬉しいのだろうか。


 (それに今気が付いたが未来の俺の顔と似てるな。)


 そう思っているとー


「ん?シンジお前何か変わったか?」


 何かの異変に気が付いたのか、笑顔から疑問へと顔を変化させる。


「筋トレしたんだよ。筋トレ。」


 その場で適当に誤魔化すと


「おお。やはりそうだったのか。逞しくなりやがって!」


 肩を掴み、手を置くと父は嬉しいのか笑顔を浮かべて納得していた。


 その後、リビングに入って母の手伝いをしていると


 ピンポーン


 家のインターホンが鳴った。急いで玄関に向かいドアを開けると


「こんばんは。って遅かったかな?お待たせシンジ君。」


「さっきぶりねあなた。」


 美香と狂歌がいた。どうやら同時に来たようだ。


「「お邪魔します」」


 2人を家の中に入れ、リビングに案内した。


「いらっしゃい。狂歌ちゃんと美香ちゃん。」


 すると嬉しそうに声をかける母。


「なに。2人ともだと!?」


 すると、父は2人がいることに反応し、思わず大きな声を上げてしまう。


「お久しぶりです。グレンさん。」


「お久しぶりです。。」


 ニッコリとほほ笑む美香と、狂歌。


 それに対し、父は苦笑いを浮かべたかと思うと


「お、おいシンジ。」


 すぐに俺の方に手を回し、女性に聞かれない壁際まで撤退させられた。


「なにすんだよ。」


 父に向かってそう言うと。


「ば、馬鹿お前。初恋の相手の美香ちゃんが来てるじゃねーか(ボソボソ)」


「おい!聞かれたらどうするんだよ。今それを言うな!(ボソボソ)」


 後ろを振り向き、聞かれてないか確認をすると、不思議そうに見つめてくる女性人達。どうやら聞かれていないようだ。


「いや今ここでお前に言っておくぞ!間違いを犯す前に(ボソボソ)」


「なんの話だ?(ボソボソ)」


「お前の『彼女候補』についてだよ!(ボソボソ)」


 父は強いまなざしを向けると、キッパリとそう答えた。


「美香ちゃんにしておけ。な?それかサラっていう手もある。最近綺麗になって色んな男に付きまとわれてるってお父さんに聞いたぞ。それでも誰とも交際せず、未だにお前のことを想っている(ボソボソ)」


 父は、彼女を誰にするかで説得してきた。


「何でサラまで出てくるんだよ。てか知ってるよ!(ボソボソ)」


「え?知ってたのか。なら話は早い。美香ちゃんか、サラにしておけ。あの子達はで、いい子だからな(ボソボソ)」


 サラの気持ちを知っていると伝えると、驚いたような顔をする父。


「狂歌ちゃんだけは辞めておけ。これは色んな女性と付き合ったことのある私の経験談だが、あの子からは、異質な何かを感じる。お前を好きだという所は同じかもしれないが、もっとドロドロした何かを感じる。特定の相手に、独占欲と求愛が強いタイプの人間だ。日本ではこういうのをと言うのだろ?(ボソボソ)」


 言い聞かせるように説得する父に、俺はただただ意見を静かに聞いていた。


「確かに狂歌ちゃんは綺麗だが、見た目に惑わされるな!あの子は幼少期からお前の事をずっと狙っている。まるで蜘蛛の様にな!自分の巣にかかる獲物を今か今かと待っているんだ。お前が隙を見せれば好機と見て、直ぐに絡めとって来るぞ!(ボソボソ)」


 必死に訴えてくる父。これは過去にそういう女性と付き合って大変な思いをした事があるから、そう警告しているのだろうか。


「いいか?一度巣に堕ちれば、簡単には抜け出せなくなる!だから狂歌ちゃんとだけは辞めー」


。」


 必死にそう言ってくる父。『辞めておけ』と言おうとしたその時、言葉が中断された。


 誰かが、父の肩を叩いたからだ。見れば、父の顔が青ざめている。


「もう準備終わりましたよ。」


 後ろを振り向けば、狂歌が笑顔でこちらを見ていた。


「あ、あぁ。すまないね。」


 頭を掻き、申し訳なさそうに答える父。額からは汗が滲んでいた。


「ところで、何の話をされていたんですか?。」


 笑顔で狂歌が詰め寄ると、後ずさる父。


「な、何でもないさ。男同士のつまらない話だ。気にしないでくれ。」


 (父さんは、俺が小さい時から狂歌が苦手だったな。)


 内心そう思っているとー


 『アハハハ』と笑いながら誤魔化し、父は母の元に行ってしまうのだった。

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