107話 暗躍

 ★☆★☆


 白河狂歌しらかわきょうか視点


「本当に、どうしたらいいのかしら」


 ブツブツと呟きながら狂歌は1人、部屋で頭を抱えていた。


「触手を利用して、あの人を殺してもらうハズだったのに。」


 指の爪をかじりながら、必死に頭を働かせる。


「どうしてあの人は死ななかったの。」


 さっきから呟いているあの人と呼ばれる人物。それは自分の父親のことだった。


「シンジ。あなたがあの魔物を倒すから一緒に暮らす事が出来なくなったじゃない。あの人が死ぬチャンスだったのに。」


 何故一緒に帰宅しなかったのか。それは、公園の近くに自分の父親である白河総一郎がいたからだ。


 もう少しだけシンジが遅れてさえいれば、最初の犠牲者となっていたかも知れなかった。


 実際未来では、公園の周辺に父親の死体があったことから、何となく出現するだろうとは予想していた。


 あの人の死で、肉親を失った者同士未来では、シンジと一緒に暮らす事が出来た。


 それで同じ魔人として仲間となり、共感者となり、恋人にまでなれた。


 シンジは気付いていないかも知れないが、少なからず私達3人に少し依存していた。


 だから今回もあわよくば、死んでくれたら良いなと願っていたのだ。


 今回は、私だけに依存出来る様に仕向けたかった。私が弱みを見せることで堕とす事が出来たから。


 あの人が死ぬことで、一緒に過ごすチケットを手にする事が出来たから。


 美香の家族が生きていれば、シンジを私が独り占め出来る。メリットしかなかった。


 共依存できる道があった。他の誰をも寄せ付けない2人だけの世界。凄く素敵なことだわ。


「シンジは自分の両親を守る事に、重点を置いていると思っていたのに。」


 親指の爪を思いっきり噛み、剝がしてしまう狂歌。


 指から血が滴り落ちるが、口に咥えて血を舐め取ると、手の爪はいつの間にか再生されていた。


 近くの建物から早く殺せと思ったその瞬間、すぐにシンジが現れた。


 散々痛めつけてから殺したせいで、周囲に絶叫が響いてあの人は、すぐに逃げてしまった。


「できれば、この手を汚したくは無かったのだけれど。事故死に見せかけるのが一番いいかもしれないわ。でも、バレた時どんな言い訳をすればいいのかしら。」


 今度父親が帰ってきた時に、どうするべきか一旦保留にする狂歌。


「それにしてもシンジの部屋にはもう1人、知らない誰かの匂いがあったわね。気のせいかしら?」


 言い終えてから、ハッと表情を変えて最悪な事を想像する狂歌。


「もしかして....未来から....もう1人知らない仲間が来たのかしら....」


 目からハイライトが消え


「まさか....私達が死んでる間に新しい女を作ったの?」


 ブツブツと呟く狂歌。まさかの匂いで、予想を的中させる。


「そ、そんなハズ無いわよね....多分....」


 さっきまでの表情が嘘のように消え、笑顔を浮かべる狂歌。それだけは考えたくは無かったから。


「急いで支度しなきゃ!」


 自分に『気のせいだと』言い聞かせると、すぐに支度をする事にした。


 時計を見れば、もうすぐシンジの家に行かなければならない時間帯だ。


 狂歌は身だしなみを整えると、急いでシンジの家に向かう事にしたのだった。




 ★☆★☆


 プルルルル プルルルル


 家に帰った後、スマホでとある人の番号を打ち電話をかける。


『もしもし。誰じゃ?』


 電話口から聞こえてくるのは英語。俺が電話をかけた人物それはー


『もしもし。じいさん俺だ。シンジだ。』


 ウイリアム・フィード。過去にガンで死んだ爺さんだ。


『おおシンジか。元気にしてたか?』


『ああ。元気だよじいさん。』


 久方ぶりの懐かしい声に思わず涙が出そうになる。


『そっちから電話をするなんて珍しいのぉ。要件はなんじゃ?』


 早速本題を切り出してくれたじいさん。


『サラに会いたくてな。単刀直入に言うが、日本の学校に転校って出来ないか?』


『なななななな?いきなり何を言うんじゃ!急すぎるじゃろ。』


 急な発言に、電話越しでも分かるくらいビックリするじいさん。


『いま近くにサラはいないのか?変わってくれよ。』


『む!まぁ良いがのぉ。近くにおるし。』


 じいさんはそう言うと、数秒間電話から音が途切れた。サラに電話が来たと教えているのだろう。


 数秒後には


『もしもし!サラです兄さん。』


『久しぶりだな。サラ。』


 嬉しそうな声でサラが電話に出てきた。


【時空間魔法】で誘拐して融合させる手段もあるが、誤魔化すのが非常にめんどくさい。それに、目覚めた後に怒られそうなので辞める事にした。


 その後、俺はサラを日本に呼ぶため、じいさんを説得する事にしたのだった。

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