95話 悪戯

 ブーン ブーン ブーン


 スマホの目覚まし音が耳元で鳴る。


 その瞬間、目が覚めた。


 ハッ!


「俺は一体....」


 西暦2120年 5月10日 7時00

 

 と表示されたスマホを見ながら、アラーム音を消す。


 少しの間気絶していたようだ。


 すぐさまベッドから降りる。


 その場で辺りを見渡すが、もう一人の俺がいない。


「若返っているな....」


 鏡で自分の姿を確認した。すると、あまり変化は無かった。


 顔だけが若返ったようだ。白のメッシュに、オッドアイの部分は特に変わってない。


 急いで、魂を魔眼で確認した。するとー


 ひび割れて今にも割れてしまいそうだった魂が既に修復され、完全に治っていた。


 ということは・・・


 成功したようだ。【融合】では俺の人格だけが残ったみたいだな。


 代償は消えたようだ!


 その場で今日はどうするか考えていると


「マスター。入ってもいい?」


 英玲奈が部屋に入ってきた。俺が起きたのを察知して部屋に来たようだ。


『ああ。大丈夫だ』と返事をしようと思ったけど、ここで思いついた。


 英玲奈を忘れたフリをしたらどうなるのかと・・・


「き、きみは一体誰なんだい?そ、それに何で僕はこんな体になってるのかな。」


 試しに演技をしてみることにした。困惑をした表情でエレナを見つめオドオドする。


「ま....ますたー....一体何の冗談なの?....う....うそ....だよね?」


 信じられないといった表情を浮かべるエレナ。


「マ、マスターって一体何のことだ?」


 果たしてどんな反応をするのだろうか。そう思ってすっとぼけると。


「嘘だ噓だ嘘だ嘘だ噓だ嘘だ噓だ嘘だ噓だ嘘だ噓だ嘘だ噓だ嘘だ噓だ嘘だ噓だ嘘だ嘘だ噓だ嘘だ噓だ嘘だー」


 目からハイライトが消え、その場でブツブツと呟くエレナ。


(こわ!早く自白しないと大変なことになるな。そろそろ辞めるか。)


 そう思って声をかけようとした所で、エレナが急に話しかけてきた。


「私の事を....覚えていない....の?....マスター....」


 ゆらゆらと死人のように近づいてくるエレナ。


「もう....マスターはいないんだね....もう....私しか覚えていないんだね....」


 正直怖い。そう思っていると


「そうだ!....マスターを....吸収すればいいんだ....そうすれば....1つになれる....あはは....」


 笑顔を浮かべ、希望を見つけたかのように近づいてくる。


「1つになろう....マスター....痛みなんて感じさせないから....」


 恍惚した表情で近づいてくるエレナ。


(こいつ。覚えてないと言っただけで、俺を吸収するつもりだ。)


 抱き着き、能力を発動させようとした所で


「じゃあね。まs-」


「なに俺を吸収しようとしてんだエレナ。演技だよ演技。」


 演技することを辞めた。このまま続ければシャレにならないからだ。


「え?」


「俺がお前のことを忘れる訳ないだろ。」


 ポカンとした表情を浮かべるエレナ。唖然としている様子だった。


「悪かったよエレナ。ちょっとした出来心だったんだ。」


 目を逸らしてそう言うと


「マスター。」


 抱き着き、涙を流してきた。


「良かった。私忘れられたのかと思って。それで....それで....」


「だから悪かったって。」


 悪いことをしたと自覚する。


 だから、抱きしめてきたエレナを、強く抱きしめ返した。


「大切なお前を俺が忘れるわけが無いだろ。」


「マスター///」


 赤面し、こちらを見つめてくるエレナ。




 しばらく、その場で抱き合っていると


「あら!これから子作り?きゃああああああ」


 嬉しそうに叫ぶ母。いつの間にかドアが開いてあったのだった。

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