94話 代償

 夜中の3時


「カクカクシカジカ」


「なるほどね。」


 現在リビングにて、母と向かい合って話していた。


 隣にはエレナが座っている。出された飲み物を不思議そうに見てた。


 自分は何者なのか。何をしてきたのか。母に全てを話した。


 すると


「そういう事だったのね。」


 腕を組み、納得の様子を見せる母。


「おい....今の話信じるのかよ....」


 思わず驚愕してしまう。母があっさりと信じたからだ。


 もっと苦戦すると思った。絶対に信じないと思ってた。


 未来から来た事や、復讐のために魔人になったなど、大切な人を守る為に過去に戻ったことなどを話した。


 代償の事は言わない。余計な心配をかけることになるからだ。


 母に、何を言ってるの?と言われると覚悟をしていた。


 だが、すべての話を信じると言った母は言ったのだ。


 思わず信じるのかよと言い返してしまう。


「バカねシンジ。母親である私が、自分であるあなたを疑う訳ないじゃない。そのくらい私があなたの事を一番良く理解しているわよ。」


 ほほ笑み、何を言ってるのよ。とでも言いたげな表情を浮かべる母。


(だってこの子嘘を付くとき、目をそらす癖があるんだもの。さっきから一回も目を逸らさなかった。嘘はついてないようね。そして気配。なんとなく分かるのよ。人が嘘を付いてるか、ついてないかの区別ぐらいは。一切気配が揺るがなかった......と言うことは全て本当なのね。)


 時雨は心の中でそう考える。


「信じてくれてありがとう。母さん」


「いいのよ。」


 感謝を母に伝えると嬉しそうにほほ笑んだ。すると


「シンジところで.....」


 数瞬後、笑顔を浮かべていた母は急に真剣な眼差しとなる。


「その娘。えっとー確か英玲奈ちゃん?だよね。」


「はい。そうです。お母様。」


 母の質問に対し、敬語で答えるエレナ。


「うちのシンジと、どういう関係なの?」


「え....そ....それは....ご....ご主人様みたいな....関係です....ずっとそばに居てくれると約束....してくれました....もう離さないとも///」


 赤面し、嬉しそうな顔で答えるエレナ。


「やるじゃないシンジ。こんなに可愛い娘を捕まえてくるだなんて。」


 母はニヤニヤした顔でこちらを見つめてきた。


「これは、子供が出来るのも時間の問題ね(ボソッ)」


「おい。」


 母の爆弾発言に思わず突っ込んでしまう。


「ま....ますたーとの子供///」


 想像をしているのか、急に赤面し、嬉しそうな表情を浮かべるエレナ。


「エレナに変な事吹き込むんじゃn-」



 ビキビキビキ



 ひび割れる音が急に聞こえた。


 その瞬間、心臓に強烈な痛みを感じる。


「ガハッ」


 吐血し、その場で蹲った。


「がああああああああ」


 強烈な痛みが全身を支配した。


 今まで味わってきたどの痛みよりも強烈だ。


 代償による痛みが前回よりも酷い。


 《《これが崩壊する寸前の、魂なのか》


「ちょっと一体どうしたというのよ!?」


「マスター大丈夫!?」


 困惑する母と、すぐに駆け付けるエレナ。


 その場で蹲っていること数分、痛みが引いた。


「ハァハァ」


 荒い息を吐きながら立ち上がる。エレナに肩を貸してもらってだが。


「シンジ。あなたどうしたのよ。急に苦しむだなんて。」


「母さん聞いてくれ。」


 荒い息を吐きながら、真剣な表情で母を見つめる。


「もう、俺には時間があまり残されていない。」


「ちょっと。急に何を言い出すのよ!」


 焦った表情を浮かべる母。急に息子が吐血すれば誰だって驚くだろう。


 冷静さを失っていた。


「もう俺の魂がぶっ壊れる寸前なんだ....このままいけば俺は確実に死ぬ....だが生き残る道は1つだけある........1つに【融合】することだけだ....」


 途切れ途切れで、その事実を母に言う。


「私には、よく意味が分からないわ!」


「同一人物なら....魂は同じだ....修復は出来る....つまり代償によって負った傷が治るんだ....」


 叫ぶ母にそう言う


「融合したら一体あなたはどうなってしまうのよ!」


「分からない....けれど....融合しなければ....また同じ運命を辿る事になる....それだけは駄目だ....絶対に....」


 母を真剣な表情で見つめた。


「俺の300年の努力を....無駄にさせないでくれ....今度こそ守るんだ....母さんと父さんを....そしてお腹の中の赤ちゃんもな....」


 母のお腹を指さし、そう言った。


「シンジ。あなた」


 感動し、涙を流す母。


「私も手伝うわ。」


 覚悟を決め、母も肩を貸してくれることになった。


 3人で階段を上がる。


 ゆっくりとだが、確実に。一段一段駆け上がった。


「もういい。ここからは俺一人で充分だ」


 そして、自分の部屋の前についた所で2人に言った。


「シンジあnー」


「ますt-」


 心配なのか、反論する2人だったが


「邪魔だけはするなよ。」


 俺は2人を制し、1人で自分の部屋に入った。


 ガタンッ


 静かに部屋の扉を閉める。


 ベッドには、静かに寝息を立てている過去の俺がいた。


「若いな。」


 思わずそうつぶやいてしまう。部屋の鏡で自分を確認すれば、大人な顔つきとなっていた。


 今更ながらに実感する。


 絶望した日から俺がこう成長するなんてな・・・


 長い道のりだったと改めて実感した。


(よし。発動させるぞ!)


 覚悟を決め、過去の自分の胸に手を置いて唱えた。


「【融合】」


 その瞬間、俺は意識を失うことになるのだった。

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