92話 気配察知

 ガチャリ


 音を立てながら、扉が開かれていく。


「誰かいるの?」


 咄嗟に階段の端へと移動した。


 壁を背に向け、後方を見ながら出てきた人物を確認をする。


 そこには寝ぼけまなこを擦りながら、寝室から出てくる母さんがいた。


「母さんだ!(ヒソヒソ)」


「え?マスターのお母様!見てみたい!(ヒソヒソ)」


 夜中にいきなり寝室から突然、母さんが出てきた。


 そのことに対し、少し驚く。


 死んでいたはずの母親が目の前に現れれば、誰だって驚くだろう。


 ここは過去だから、生きているのは当然だけれど・・・


 それでも、生きている姿に感動し、思わず大きな声を出してしまう。


 驚愕した表情を浮かべるエレナ。母さんが気になるのか、陰から顔を出して様子を覗こうとした。


「バカ。前に出るんじゃねー(ヒソヒソ)」


「だって。んんんんんー」


 咄嗟の判断でエレナの口手でを塞ぎ、壁に押し付けた。


 階段の隙間から、更に様子を伺う。


「ま、ますたー///」


 気が付けば、いつの間にか壁ドンみたいな体勢となっている。


 陰から覗くが、気が付けばエレナの顔と急接近していた。


 手の隙間から熱い吐息を漏らすエレナ。若干だが顔が赤い。


(どうする。このままやり過ごすか?)


 階段から様子を伺い、内心でどう乗り切るか考える。


 今更【隠密】【気配完全遮断】【無音】などの能力を使うにしても、既に気配でバレているハズ。


 いたはずの誰かが、急に気配を隠せば流石に怪しまれるだろう。


 強盗か何かの不審者だと思われ、確実に警戒されるに決まっている。


「シンジ。返事をしなさい。一体そこで何をしているの。」


 どうする・・・


 母さんからの呼びかけが強くなった。


 階段から動かず、さっきから返事をしないことに対し、不信感を抱いているのだろう。


 母さんからの呼びかけに対し、身体がピクリと反応をする。


「やっぱりシンジなのね!それともう一人誰かいるのね!」


 呼びかけた時の反応だけで、隠れている人物を特定する母さん。


(【気配察知】の能力でも持ってるのかよ。)


 その勘の鋭さに、俺とエレナも内心驚く。


「ま、マスター(ヒソヒソ)」


「な、なんだ(ヒソヒソ)」


 塞いでいた手を、エレナに無理矢理どかされる。


「もう正直に言おうよ。マスターの部屋でこれからすることを。」


「しょうがないだろ。こうでもしないとー」


 エレナに真剣な表情で見られる。


 これからする事を、母にも言った方がいいと説得してきたのだった。




 ★☆★☆


 数秒後


「もう!一体さっきから何をコソコソしているの!」


 母さんは痺れを切らしたのか、その場から移動し始めた。


 どんどんと足音が近づいてくる。


「分かったよ。言えばいいんだろ言えば!ちゃんと事情を説明するよ。」


 エレナの瞳に負け、俺は事情を話すことにした。



「もういい加減にー」


 歩く速度を速め、接近してきた母さん。


 返事をしない事に対し、怒っているようだ。



 階段に近づいた瞬間ー


「久しぶり母さん。」


 俺は覚悟を決め、階段からゆっくりと姿を現した。



「え?...」


 すると、驚いた表情を浮かべ


「あなたは.....一体.....」


 母さんは、その場で硬直するのだった。

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