第六章 分岐世界 前編

91話 軋む音

「ようやく戻れた....のか?」


 目の前を【解析】して西暦を確認する。


『西暦2120年 5月10日 2:00時』


 と脳内に表示された。


 どうやら無事、過去に戻れたようだ。


 何故深夜に遡ってしまったかが不明だが・・・


 ああ思い出した。つい感情が高ぶって時間設定するのを忘れていたぞ。


 一歩間違えれば手遅れの状態になっていたな。危ない危ない。


「ここが....マスターの家?」


 エレナは、興味深そうに家を見つめる。


「なに興味深そうに見てんだ?」


 なんだ?この反応。という感じだぞ。


 妙だな。


「未来で何度も人間界に行ってたんじゃないのか?」


 だから確認してみた。俺が魔界で虐殺していた間、人間界に行っていた時のことを。


 するとー


「うん。凄いなって思って」


 少し思い出すかのような表情を浮かべるエレナ。


「ん?どういうことだ?俺の家は多少広い程度でなにも-」



 俺は不思議に思って家の説明をするが、話をさえぎられる。


 エレナは何でもないかのように話した。


(それは一体どういう意味だ?)


 エレナの表情を見つめるが、嘘はついている様子はない。


 つまり事実なのだ。文字通り、初めて壊れていない家を見たという事なのだ。


「ここだけじゃなくて、周りの家も全てね。」


 未来の人間界では、一体何が起きてたんだ。


 その場で、未来の人間界がどうなっているのか気になってしまった。


 ずっと魔界に引き籠っていたせいだな。過去に戻る前に一度どうなっているのか見てくれば良かった。そう思ってしまう。


「おい。それは一体どういう意味d-」


「秘密!気になるなら、自分で確認してねマスター。」


 気になってエレナに訊ねるも


 笑顔を浮かべるだけで、それ以上取り合ってはくれなかった。


 俺の知らない事実を知ってて嬉しようだな。


(まぁいい。やれること全てを果たそう。)


 気を取り直した後


 家を正面に見据え、覚悟を決めたのだった。




 ★☆★☆


 鍵穴に、土魔法を侵入させた。その魔法で型を取って偽鍵を作る。


「お!開いたな。」


 適当にガチャガチャしていると、鍵をこじ開けることに成功した。


 ここで扉をぶっ壊してもいいが、夜中だ。


 音が響き、すぐに異変に気付かれる。


 だからー


「おいエレナ。絶対に物音を立てるなよ(ヒソヒソ)」


「了解マスター(ヒソヒソ)」


 ゆっくりと扉を開けて中に侵入した。


(【隠密】とか発動させるか?いや必要無いだろ。)



 ギチ


 こっそり階段で二階まで登っていく。



 ギチギチ


 一段一段ゆっくりと登っていく度に



 ギチギチギチ


 階段の軋む音がする。



「おい嘘だろ。何でこんな時に限って階段が軋むんだよ(ヒソヒソ)」


「そんなの私に言われても困るよマスター(ヒソヒソ)」


 ゆっくりとだが、確実に一段一段登りきる。


 そして2階に到着した。


 目的の為、自分の部屋を開けようとした。


 その瞬間ー



 ガチャリ


「誰かいるの?」



 寝室から、母さんが出てきたのだった。

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