59話 西の最果て 乾燥林
ひび割れた大地を物凄い速さで駆け抜けていく黒狼がいた。
「わ~速い~。」
「ちゃんと捕まってろ。落ちても知らねぇぞ。」
首元に捕まりはしゃぐエレナに注意をするシンジ。
変身を確認した後、すぐに『白虎』の居場所へと向かう事にした。
今現在、全速力で西の方角に向かっている。
巨獣は東西南北にそれぞれ縄張りを持っている。
と言ってもねぐらで寝ていることが殆どであるが。
巨獣は移動することはあるが、その一定の範囲のどこかでしかしない。
縄張りを広げようものなら、他の3体の怒りを買うことになる。
3体1では、さすがの巨獣でも無理なのだろう。
だから縄張りは広げず、中央は今の所、唯一の無領土。つまり安全圏となっているのだ。
朱雀以外にも、玄武、青龍、白虎を観察したがどれも化け物揃いだった。
(やっと同じステージに立ったんだ。絶対に勝つ。)
シンジは決意を胸に抱き、荒野を駆け抜けていくのだった。
★☆★☆
数時間後
「マスタ~まだ~?」
さっき続く同じ景色にエレナは飽きたようだ。
「まだだ。休まずに行けば後5日しか、かからないぞ。」
「え~そんなに?私つまんな過ぎて溶けちゃうよ~。」
と言いながら原形を崩していくエレナ。
(首回りがベトベトする。頼むから元に戻ってくれ。)
「ところで、最近はどうなんだ?液体王さんよ?」
前から気になっていたことを聞いた。
獅子王との戦いで、知能を持つ『なりかけ』が殆ど全滅した。下級と中級も大勢死んだ。
そのせいで、後から自然発生で産まれた殆どの魔物は、上位の存在を知らないのでいた。
格上の獅子王を殺したエレナは、中級から一気に幹部級に進化した。
当時、魔界でトップといえば巨獣を除いて、王級の俺と幹部級のエレナだけだった。
俺は殺戮を行う恐怖の対象として、いつの間にか『修羅』と呼ばれていた。
それに対して、天敵の居ないエレナは好き勝手にやっているうちに王級に進化した。
修羅が手を出さない唯一の相手と、勝手に勘違いした雑魚共はエレナを担ぎ上げた。
結果としてエレナは魔物達に『液体王』と呼ばれるようになったと言う訳だ。
「えーなんかね。やりたいことがあるのに、いつも雑魚が命令してきて鬱陶しいから全員食べちゃった。」
と何でもないかのように話すエレナ。全員喰ったのかよ。
「骨のある奴は最近いねーのな。すぐに逃げるしよ。」
(300前までは、どんな雑魚でも目があった途端に猪突猛進でかかってきたが、最近のは質が悪いんだな。)
昔を思い出し、話すシンジに対してエレナは答えた。
「違うよー。マスターが常時殺気ばかり周囲に放つから誰も近づきたがらないんだよ。獅子王ですら、戦闘時以外殺気を放っていなかったんだよ?本能で動く雑魚達に恐れられて当然だよ。」
「それもそうか。」
と納得しているとエレナが怒った。
「あと、エレナね!マスターが名付けてくれたんだから、呼び方を間違えないで!」
どうやら俺に液体王と呼ばれたのが嫌だったらしい。
「悪かった。エレナ機嫌直してくれ。」
走りながら答えると
「うん。分かった。」
と笑顔になり、機嫌を直してくれたのだった。
★☆★☆
5日後
休まず走り続けると、ようやく西の果ての縄張りに近づいた。
そこで軽く休憩をとり、失った魔力を回復させていく。
さっきまで、走っている時とは違う景色となる。
目の前には、サラサラの土。枯れていない木々。生えている雑草。
そう。乾燥林があった。
ここから先は『白虎』の縄張りだ。
「ここから先は、俺一人で行く。」
「マスター。頑張って。」
エレナに見送られ、独りで白虎の縄張りに向かうのだった。
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