60話 私は『白虎』
黒狼人型になって乾燥林を歩く。
巨獣の状態だと、足跡でバレるからだ。
縄張りに入る前に、【隠密・超】【気配完全遮断】【擬態】【無音】【無臭】を発動させた。
魔力も抑えて察知されないように工夫する。
これなら安心だろう。バレる心配はない。
(チッ。全然見当たんねーな。戦う前に見つけることが出来ればラッキーなんだがな。)
さっきから歩いているが、目当てのものが全然見つからない。
白虎に挑む前にあれを見つけておかないといけない。
(チビ共どこにいるんだ?)
そう思っていると前方から何体かの魔力反応があった。
急いで駆けつけ、木の陰から見ると、黒い縞模様のある白い子供の虎が5匹いた。
(ミツケタ。)
俺は顔に狂気を貼り付け、子虎を捕まえるのだった。
★☆★☆
数百年前から、この縄張りに侵入した際に、白虎に似た子虎を何度か見かけたことがあった。
ある時、それぞれの個体から発せられる魔力に違和感を感じた俺は、縄張りに来る際に見つけた熊の中級程度の魔物を拉致した。
見つけた3匹の子虎。クマに殺気を込め、子虎を攻撃しろと命令した。
圧倒的強者からの命令に逆らえなかったクマは、死ぬ気で子供の虎を攻撃した。
まさかの襲撃に驚き硬直する3匹。
その間に、遠くで様子をうかがっていた。
子虎を攻撃をしても良いのか。それともアウトなのか確かめたかったからだ。
たまたま中級が強かったのか、それとも子虎が弱かったのかは知らない。
成す術も無くやられ。子虎から血が流れた。
それでも中級は攻撃を止めない。
1匹が死に、子虎が悲鳴をあげたその瞬間
『Gaaaaaaaaaaaaa』
乾燥林で絶叫が響いた。
ズシン ズシン ズシン
と大きな音を立てながら、巨大な虎が近づいてきた。
そう。白虎が目覚めたのだ。濃密な殺気が周囲に流れる。
まさかの事態に俺も驚いた。
『aaaaaa.....』
俺よりも格上の存在に驚き、震える熊の魔物。
圧倒的な存在に絶望していた。
地面に叩きつけられ、一瞬で絶命するクマ。
白虎は悲しむ素振りを見せると、周囲に膨大な魔力を集めた。
『おいおい。何する気だ?』
白虎は更に魔力を溜めると、血肉が生成され、一匹のかわいい子虎が出来た。
そう作ったのだ。眷属を。圧倒的な魔力で。
死んだ熊と子虎を喰らう子虎達。
まるで母親の様に、子虎を可愛がる白虎。
『自前の魔力だけで、新たな生命体を作れるのか....』
俺はその光景に唖然としていたのだった。
★☆★☆
そう。目当てのものは白虎の眷属だ。
巨獣は、他の魔物より圧倒的なまでの魔力を持っている。
自然発生で産まれてくる魔物を、白虎はその自前の魔力だけで新たな生命体を、つまり眷属を作るのは造作もなかったのだ。
生涯孤独な為であるかは知らない。
だが、自分の作った眷属を何よりも大切にしている。
まるで我が子の様に。
これが白虎の弱点だ。
そこに付け込まない理由はない。
3体の子虎を眠らせると、俺は更に周囲を探索した。
周りの子虎を次々と捕まえ、眠らせていく。
(出来るだけ人質が多い方が有利だからな。)
そうして、時間をかけて28匹ほど捕まえることが出来た。
逃げられないように、土魔法で檻を作る。
ついでに、とある仕掛けをしつつ準備を済ませた。
1匹を檻から出し、歩いた。
檻から程よく離れた場所で下し、体を揺さぶり起こす。
「Ga?」
眠いのか、目をこすりながら起きる子虎。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
「悪いな。俺じゃなくてお前を作った母親を恨めよ。」
俺はそう言うと、子虎の足をへし折った。
「Gyaaaaaaa」
辺りに響く子虎の悲鳴。
その瞬間
「Gaaaaaaaaaaaa」
悲鳴を聞きつけ、白虎が目覚めた。
咆哮をあげながら、物凄い速度で近づいてくる巨獣。
辺り一帯には白虎の殺気が充満していた。
咆哮で目覚めていく子虎達。
あっという間に目の前に白虎が現れた。
「Garrrrrrrrrrrr」
鋭い牙を見せながら、こちらを射殺さんとする目で見てくる白虎。
それでも攻撃を仕掛けることは出来ないでいた。
俺が片手で人質をとっていたからだ。
「よう白虎。」
俺は白虎と対峙することとなったのだった。
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