7話 変身
魔物に殺される両親を。
こちらをあざ笑いながら両親を喰らったのを。
美香や狂歌など大事な人たちを次々に殺していく魔物を。
見ていることしかできずに、立ち尽くしている自分を。
(フザケるな。そんなことあっていいはずがない。何のために力を求めた。復讐をする為だろ。これ以上大事な人たちを失わない為に。そのために力を求めたんだろ!)
(起きろ。今起きるんだ!)
今は死んでいる場合じゃない!
★☆★☆
「がはっ」
起きた後、口に残っていた血を吐き出した。
気が付くと変化が終わっていた。身体中から力が湧いてくる。
今なら、何でもできそうな予感がする。
「驚いた...まさか息を吹き返すなんてな」
「この姿は....」
手を見ると篭手みたいに、黒い鎧のようなものに覆われていた。足もだ。
工場にあった鏡で全身を確認する。全身が騎士みたいに見えた。
「『人間』から『魔物』に作り変えられる過程で、新種族『魔人』へと進化しました。変身が可能となります。」
突然脳内に言葉が表示された。
「ようやく適合者が現れたか。」
(力が手に入ったなら何でもいい。)
妥協するシンジ。
「この薬の改善点は痛みによる発狂死だった....ハァハァ...そのせいで適合出来る人がいなかったのだ....他の実験体は、体に負荷がかかりすぎて正気を保てずに死んでいったからな.....だが貴様は成功したんだ素晴らしい。ハァハァ...ところで能力は一体なんだ?」
「は?そんなの知るわけー」
【捕食】突然頭にこの文字が浮かんできた。これが俺の能力なのだろう。
能力は、喰らった相手の能力奪えることだ。
「【捕食】だ。」
そう伝えると、狐の魔物は驚いた顔をした。
「そうか。これも運命か。では最後に1つだけ願いを聞いてはくれないか?ニンゲン。」
「人間じゃない。シンジだ。」
「シンジか、いい名前だ。私の名はアルフォース。『強欲のアルフォース』だ。魔王に仕えし、七幹部の1人だ。」
「ちょっとまて。知らない情報を言うな。俺が理解できるわけgー」
「理解できなくていい。シンジの能力で私を捕食してはもらえないか?もうじき私は死ぬ。力を受け継いでほしいのだ。大丈夫喰らえば全て理解できる。」
「分かった。能力の確認に丁度いいしな。」
俺は能力を使用した。【捕食】。
そう心で念じると口が大きく開いた。口が裂けていくかのように。
鏡でのぞくと、異様に裂けていた口からギザギザの牙が見えた。
「じゃあな。」
アルフォースの頭部から喰らう。バキバキを骨をかみ砕いた。
途中邪魔だった白衣を破り捨てた。1分もしないで相手を捕食できた。
「マズくは無いな。流石は狐の肉だ。うん食ったことないけど。」
その瞬間膨大な力が、俺に流れ込んできた。
「【強欲】を獲得しました。」
「【解析】を獲得しました。」
「【魔装】を獲得しました。」
「【身体強化・超】を獲得しました。」
「【魔力操作Lv2】に成長しました。」
「【闘気】を獲得しました。」
きっとアルフォースの持っていた能力なのであろう。そしてアルフォースの記憶も流れ込んできた。
もう少し能力を奪えたと思うが、初めての捕食だ。手に入っただけマシだろう。
膨大な記憶であった為、立ち眩みを起こした。
まぁいい。復讐のために有効に活用させてもらおう。【魔力操作Lv2】ということは流石に技術までは奪えなかったようだ。初めてだからな。仕方がない。
(変身。)
心で戻るように念じると人間の姿に戻った。その瞬間。
「あはははははは。力を手に入れたぞ。これで復讐を果たすことができる。」
力を手に入れたことやっと実感し、うれしくなってしまった シンジは狂ったようにその場で笑い続けるのだった。
★☆★☆
アルフォース視点
私は魔王に仕える7人の幹部のうちの1人だ。
魔王とは他の幹部より仲がいい。私と魔王は兄弟の契りをしているからだ。兄者は狼の魔物だ。
2人で成り上がった魔界を。弱肉強食の世界を。弱い者は淘汰されるこの世界を。
兄者は常に強さに飢えていた。だからだろうか【捕食】というスキルを手にいれたのは。
下級から中級に進化した。中級から上級に進化した。そしてついに幹部級に進化した。
私は幹部級で満足していた。これ以上力を手に入れても必要ないからな。
だが、兄者は違った。先代の魔王に戦いを挑み勝利した。
魔王を喰い殺した兄者は、新たな魔王となった。全ての怪人達が畏怖を込めて『捕食王グレイブ』と呼ばれるようになった。
異常だったのだ。他者を喰らい能力を奪うことができるなど。
私は幹部になったが、兄者が魔王になった後、実験ばかりしていた。
進化をすると知能があがり、様々な物事に興味を持つようになった。新たな知識を取り入れることが、戦うことよりも面白いと感じるようになったからだ。
私達魔物は皆自然発生で増える。魔界は魔力濃度が異常に濃い。私達魔物は魔力で生み出され、勝手に増えていくのだ。交配する必要はない。
そこで考えたのだ。ほかの生物から魔物に変化させることは可能なのかと。
自然発生で産まれる魔物は交配する必要がない。
では交配できる魔物がいたらどうなるのかと。ふと気になった。
交配できる生命体は人間だけだ。
早速実験をした。兄者から血を貰い、『魔水』と合成して薬を作った。
そして作った。『魔人薬』を。
人間が魔物に進化出来るようにこの薬を作った。早速投与し、観察した。もちろん人間は無理やり拉致してきた。私の実験体となるのだ。無駄に生き長らえるより、研究に貢献できるのだ。光栄に思うべきであろう。
実験は失敗だった。みんな耐えきれないのだ。別の生き物から魔物への強制的進化は。体がもたなかったのだ。
(人間に可能性を見出したが、どうやら無駄だったみたいだな。)
当たり前だ。私達魔物の体は
激痛に耐え切れず実験体は皆死んでいった。この実験は失敗だと思われていた。
ある時、何時ものように部屋で実験をしていると他の幹部たちが反旗を翻した。
上半身が人間のようで下半身が蛇の『色欲のセレスティナ』。
二足歩行するカラス男『怠惰のスクルト』。
ぶくぶくに肥った二足歩行する豚『暴食のグラスト』。
二足歩行する猫『嫉妬のヘレナ』。
二足歩行する竜『憤怒のダルファー』。
二足歩行する獅子『傲慢のゴルダック』
幹部6名が反旗を翻した。
魔王は戦った。私も加勢しようとしたが邪魔だったようで断られた。
『邪魔ダ。早ク逃ゲロ。』と言われた。
もう少しで人間界に到着しようとしたその時、『怠惰のスクルト』が追い付いてきた。空を飛んできたのだ。
そこからは死闘を繰り広げた。
何とか奥の手で『スクルト』を殺した。深い致命傷を負ってしまったが。
人間界についた。知らない場所だ。人のいなさそうな建物に潜伏しようと思った。
そこで自己治療をしようと思ったのだ。でも駄目だった。もう魔力が残っていないのだから。
このまま死ぬ。そう思われていたその時、1人の人間と出会った。
シンジは興味深い人間だ。あの薬に耐えられただけでなく、兄者と同じ能力を授かった。これはもう運命であろう。
兄者と戦っていたはずの『怠惰のスクルト』が私に追い付いてきたのだ。きっと兄者はもう既に死んでいるだろう。
ならば彼に託そう私の力を。少しでも彼の復讐の手助けとなるように。
そして、いずれ戦うであろう幹部たちに対抗できるように。
全身黒い鎧で覆われた彼の口が異様に裂けた。口がゆっくりと近づいていき。
『ああ。兄者もうすぐ会えるよ。』
アルフォースの意識は途切れるのであった。
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